「男になんて興味ねぇ(大嘘)」

コンビニヤンキー


創立記念日とかいう、学生だけに許された休日。

勉強するも良い。読書でも良い。

朝からゲーム三昧ってのも良いかもしれない。



「ふ〜」



一方俺は、元気にバイトに勤しんでいます。

っぱこの品出しする時間が一番充実してるよね。


新商品とかいち早く知れるのも良い。

あとこれは本当に良くないけど、転売でもすれば価格何倍にもなる商品をいち早く購入することも出来る。


もちろん俺はそんな事しないけど。

やる気もないし。



「店長っていっつも居ますね。休み取ってるんですか?」

「だ、大丈夫だよ!」

「なら良いっすけど……」



なんか俺がバイト入る時大体いるからな。

まあ全然別の人とも会うけど。



「私、そんな友達いないし! 遊びに行く予定無いし!」

「目が死んでますよ……」

「仕事が恋人、みたいな?」

「まあ愛のカタチはそれぞれっすね(目そらし)」

「さっ、ささ佐藤君は彼女とかいるのかな??」

「居ませんよ。一生出来ませんね俺には」



俺も仕事が恋人とか、そんな感じの事言える大人になれてたら良いけど。

未来は分からない。


ただ、少なくとも労働は好きだ。

働いてその分お金がもらえる。


当たり前の事かもしれないけど、それが嬉しい。



「佐藤君、かわいいのになぁ……」

「……はは。ありがとうございます」



“かわいい”。

この世界じゃ最高の褒め言葉が全く嬉しくない時点で、俺に恋愛は無理かもしれない。



「人来ないし、溜まってそうだから灰皿ボックス掃除してきますー」

「えっ私やるよ? あれくさいし」

「いやいや。たまには俺がやりますって」

「そ、そう? じゃあ……」



さっきまでリーマンがたむろってたから、結構溜まってるはずだ。

この世界じゃ、まだタバコの規制は緩い。


もちろん吸うのは女性が多いが。

昼休憩のリーマンに大学生グループ。後は婆さん。


もちろん男も吸うけど、割合は少ない。



「おーおー溜まっとる……くっさ」



使い捨てのゴム手袋をはめて、灰皿ボックスから吸殻を回収。

水に濡らして、そのまま袋に入れて。


凄い臭い。

俺も男だから、淡くタバコに憧れみたいなのはあったけど……この臭いを嗅いじゃうと、ね。


百害あって一利ぐらいはあるだろうが、ちょっと俺には手が出ない。



「っし、終わり」



ただ、掃除はしっかりやる。

灰皿ボックスの内側、外側、灰の投入口……そこを雑巾で磨くように掃除。


汚くなるものだからこそ綺麗にしがいがあるってもんだ。



「――っ」

「? あれ?」



掃除が終わり、ゴミを全部捨てたところで――お客さんが一人、駐車場の影へ行くところが見えた。


愛明女子高等学校……うちの近くにある女子高の制服。略称は『愛明』。

茶髪のロングヘアーをなびかせながら、足を広げてしゃがむ。

やがて、懐からそれを取り出した。



「……」



ライターを。

おいやってんなコイツ。


どこか意を決した様な顔をして、もう一個のポケットから小さな箱を――



「――白昼堂々、未成年喫煙か?」

「ッ!?」


「やめとけ。一応義務だから言っといてやるよ」

「う、うるせぇ」



学校さぼって、コンビニの影でたむろ。

お手本みたいなヤンキーだ。



「あと制服でタバコ吸うなよな、自分は未成年ですって言ってるようなもん。学校に通報したら一発だぞ?」

「……ほっとけ」



優しく忠告したのにこの態度。


ヤンキーって感じで実に良い。

この世界の女子高はあっちの世界の男子校。つまり彼女達みたいなのがうようよ居る。

特に『愛明』の工業科はヤバイって聞いた。


こっちの世界は結構ヤンキーが多く感じるよね。うちのコンビニの客見てたらそう思う。



「タバコ吸った後のキスって苦手なんだよなー」

「は?」


「男はそういうの敏感だから。止めといた方が良いんじゃない?」

「さ、さっきから何なんだよテメェ」


「通りすがりのコンビニ店員で、一応“義務”を果たしてる」

「べつに……男になんて興味ねぇ」



目を逸らす彼女。

既にポケットにライターとタバコは仕舞っている。



「大嘘じゃん」

「あぁ!?」


「おもろいね君」

「おい――生意気言ってっと、ヤッちまうぞコラ」



や、やっちまうぞこら!


噴き出しそうになるのを堪える。

面白い程にヤンキーなセリフだったから。



「な、なんだよ」



目と鼻の先、彼女の顔が近付いている。




「実はキスもしたことないのに?」

「っ!!!!!」



あ、固まった。

みるみるうちに顔が真っ赤になっていく。



「――た、試してやろうか? あ?」

「お好きにどうぞ」


「!?」

「するなら早くしろ、これでも時給が発生してるから」


「な、な……」

「カウントするぞ、10、9、8……」



顔を真っ赤にしたまま、右往左往する彼女。

ヤンキーさんはどうやらかなりの初心うぶらしい。



「1、0。はい終わり」

「……ぁ……」



何回か素振りを見せたものの、結局一歩は踏み出さず。

肩を掴む手を払いのけて影から抜ける。


これ以上サボるわけにもいかないからね。



「じゃーな、学校行けよ! タバコ吸うなよ! 立ち読みすんなよ! あーあとコンビニ前で一般客の妨害すんな! あとは……ああそうだ、チャリだけは改造するなダサいから! たまに見るけどこっちが恥ずかしい!」



黙ったままの彼女に好き放題言ってから店内へ。

聞こえてるかどうかなんて知らないが、きっと彼女はもう“吸わない”。


……多分ね。



「店長すいません、戻りました」

「さ、佐藤君大丈夫……? 臭くなかった?」


「平気っすよ。ちなみに店長ってタバコ吸うんですか?」

「い、いや……す、吸った方がカッコいいかな……」

「それは人によりますけど。少なくとも息は嗅ぎたくないですね」

「吸わない! 一生吸わない!!」 

「ははっ店長のそういうとこ好きですよ」

「 」

「よし……今度はトイレ掃除でもしてきますか」



まだまだコンビニバイトは始まったばかり。

全身ピッカピカにしてやるからな!

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