変わっていく世界



アレから一日学校を休んで、今日は登校。

昨日は、親父が心配していたから病院に行って診てもらって。


軽い打撲だけだったから、すぐに学校には行けるみたいで助かった。



「行ってらっしゃい」

「……行ってくる」



朝。手を振る親父にそう返して、愛明に向かう。

前までは考えられなかった日常だった。


バスに乗って、十数分。

バスから降りて、数分程度。


通学の途中……ローズガーデンの奴らが見えた気がした。



「あッ!!」

「?」


「こ、こんなんで許されると思ってねえけど……すまんかった!」



と思ったら、近付いて謝られた。



「……気にしてねえし、アレはケジメだから」

「い、良いのか……?」


「ああ。そう言ってるだろ」

「!!」



正直……あの夜の事があったからこそ、親父と仲直りも出来た。


そもそもあの事態を招いたのはアタシが弱かったから。


だから良いんだ。

また突っかかって来るならその時はその時だが。



「あ、あたしも……!」

「オレも!!」

「ほんとすんませんした……!」


「……」



かといって、ココまでアタマ下げられると困る。

なぜなら――



「……あ、アレ」「ヤバくない?」「あれがローズガーデンを壊滅させたっていう……」



周りからの目が、絶望的というか。



「……ん? ローズガーデンを壊滅?」


「えっ知らない?」

「アレから皆ローズガーデン抜けて、崩壊したんだぜ」


「マジかよ……」


「そりゃ、あんなこと言われたら」

「目が覚めたというか……」

「そもそも、もうリーダーも人が変わっちゃってるし」


「は?」


「あっ知らねーの?」

「なんか人が変わった様におとなしくなって」

「学校でもずっと」



知らなかった。

逆に怖いんだが、それ。



「“アレ”のショックで、精神入れ替わっちゃったみたいな噂だ」


「あれ?」


「“裁きのキス”だぜ!」

「いやホント、伝説だよなぁ……」



何故か誇らしげに話す彼女達。



「“稲妻”!」

「“鋼の双玉”!」

「“ローズガーデンを接吻キスで終わらせた男”!」



か、かっけぇ……。

アイツそんな羨ましい二つ名を?



「マジカッケー!」

「それがあのコンビニに居るって言うんだから!」

「あー、オレも痺れさせてほしい……」


「それはオススメしねーぞ」


「え」

「な、なにを知ってんだよ!」


「……何だと思う?」

「「!!!」」



意味深げに笑う。

面白いぐらい大きく口を開けて固まる二人。


ちょっとぐらい、アタシだって優越感に浸っていいよな。



「じゃあな、テメエらは工業科だろ」



それをスルーして、普通科の教室へ向かう。

次第に減っていく派手な奴ら。

元々、ヤンキーが多いのは工業科だけ。


アタシは普通に大学とか行きたい。

親父みたいに、スーツを来たカッコいいサラリーマンになりたいし。

やりたいことは……今から見つけていく。



「……」「あ……」「こ、こわ……」



で。

普通科、突き刺さる視線。



《——「もう東瀬はローズガーデンの一員でも何でもない、ただの普通の女子高校生だろ」——》



これが、普通の女子高生に向けられる視線か?

そう言ってやりたいが、これは自分の身から出たサビだ。


“普通”に、ゆっくりと溶け込むしかない。

もう逃げない。

自習用の教材を机に広げて、ホームルームまで時間を過ごす。



「……」



……ぜんっぜんわかんねぇ……!

なんでアタシ、高1なのに大学受験用の買っちまったんだよ!



「……あの〜」

「……」



ああ駄目だ、これはミスった。

おとなしく高1用の買いなおさねえと。



「もしもし〜?」

「…………」



ああでも、せっかく買ったんだからもったいないよな。

わけわかんねぇけど、とりあえず無理やり一回答え見ながら問いて——



「佐藤さまのパンツはボクサー型」

「ッ!?!?」


「これで反応するんだ」

「て、テメエ誰だ?」


「『夏目なつめ 夏帆かほ』だよ。自称、夏から生まれた女だよ」

「……マジで誰だよ……」


「貴方の、さ、“竿姉妹”……」

「は?」



コイツ今なんつった?

竿姉妹?

竿……? パンツ?



「(察し)」

「そういうこと、よろしくね愛ちゃん」

「なっなんでテメエがアタシの名前を。別クラスだろ?」

「さぁ。何でだろうね」

「もしかしてアイツが?」

「……」ピュー

「……変な気、回しやがって」



口笛で誤魔化す夏帆とやら。

分かりやすすぎる。


きっとアタシが学校に友達が居ないと知って、根回ししたんだろう。

佐藤なら――そう思えてしまう。



「でも、勉強するヤンキーって絵面おもしろ」

「んだとコラ」

「あははは! すごいすごい、本当にそう突っ込むんだ!」

「……」

「で、夜は佐藤さまに突っ込まれ――」

「おい止めろ!!!」



いつも一人だった、1-Bの教室。

帰っても、ろくに話せない父親。


そんな日々。

まさに灰色。

アタシが逃げ続けていた、この世界は――



「はは、聞いてた通り面白いね!」

「うっせぇ……」



アイツに出会ってから。

びっくりするぐらいに色付いていく。











「そういや、あの時の叶がやられたやつって……」

「ああアレ? スタンガン」

「は?」

「キスして、その隙に太ももへ持ってってビビっと」

「な……」

「お前らスケベだし、どーせ口元しか見てねーからバレてないかなって」

「……そうだな」

「ミスディレクションってやつね(ドヤ顔)」

「み、ミス?」

「はは、そう。スカート短いからやりやすかったよ。不良だからこその成功ね」

「ズリいやり方しやがって……」

「でも上手くいったろ?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る