王子様抱っこ


「後半ヤバかったっすね……」

「ああ……」



前半の暇さを取り戻すかのように、客が大量に来た。


別にコンビニってタイムセールとかないんだけど。

割引シールはあるけどね。フードロス削減!



「こういう時に限って、荷物受け取りとか多いんよな」

「ね」

「ってもう20時越えてんじゃねーか!? 上がれ上がれ!」

「あ、了解です」

「夜遅くなったらあぶねえからな――ん?」



ふと、先輩が窓を見やる。



「どうしました?」

「ぁ……いや。なんか騒がしいと思ってよ、さっきから原付がよく通ってんだ」



……あ、もしかしてアレか。

今日が例の集会か?


もう東瀬には関係ないからどうでも良いけど。



「どっかの不良達が集まってなんかやってんですかね」

「ココは多いからな。タクシー呼ぶべきか……」

「いやいや大丈夫ですよ。家すぐそこなんで」

「そうか?」

「ここ居たら嫌でも慣れましたしね」

「ハハハッ、違いねえな」



不良は基本クレームなんてつけないからマシだ。あの厄介客は酷かったけど。

嫌な客は大体ヒステリックオッサンかセクハラババア。


この前は他所よその割引シールうちの商品に貼って持ってきたオッサン居たからな。怖い怖い。



「じゃ、これ買って上がります。お疲れ様でした」

「おつ〜」



セルフレジで切らしていた逆エナドリを購入。

制服とそれを詰め込んだ鞄を持って、店の外に出る。



「騒がし……」



確かに、原付か何かが走る音が聞こえてくる。

歩く夜道。


ほんの少し、スピードを早めて――



「……東瀬、やっぱ大丈夫じゃなかったか」



原付のブレーキ、タイヤが地面に擦れる音。

それが一つ。二つ三つ……周囲で木霊する。


走って帰る気もない。

そっちから来るならそれで良い。


大体“どこ”の奴らかは分かる。



「なんで居るの、なんて言う気も起きないな。“ローズガーデン”」



迫る音。

俺は足を止めた。



「――おい!」

「――よ、よお。この前は世話になったな?」


「いえいえ。ジュースは奢りでいいよ」


「ッ! くそ、調子狂うぜ……」

「お前は今から――」



現れたのは、あの厄介客二人。

そして――



「――おォおォ。結構良いオトコじゃァーん?」


「「っす……」」



厄介客二人が頭を下げる。

そこに居るのは、とにかくデカい女の子。


身長は180を超えて……筋肉も結構ある。

もちろん俺より高い。

威圧感すげー!


オーガかな?



「なに笑ってんだァ、オメエよォ」

「強そうだなって思って」

「おォ? そうだろ? なんたって、アタイはローズガーデン……いやこの街で2番目に喧嘩が強えんだ」

「格闘技でもやれば?」


「好きに暴れられねえ喧嘩に興味ねえなァ」

「ま、現実のルールもろくに守れない馬鹿なら無理だな」


「あ?」

「ん?」



デカい身体が、目の前に近付いてくる。

中々の迫力だった。


うん、すごい巨乳(胸筋)だね。



「オメエ、喧嘩売ってんのか?」

「売ってないよ」


「……オウ。ビビって声震えてんぞ?」

「はぁ? いや普通に喋ってんじゃん。鼓膜を筋肉が塞いでんのか?」

「んだとコラぁ」

「病院行けよ。結果は“不良”だろうな(笑)」


「あ?」

「ん?」



顔を近づけて、身体の熱を感じる程に。



「……」

「……」


「お、オーガさん」

「どうしました?」


「ッ! な、なんでもねエ!」



顔を赤くするオーガちゃん(♀)。

どうやら男の耐性は無いらしい。可愛いね。


ちょっと見つめたらコレだ。

背高い女の子も嫌いじゃないよ。

残念ながら、遊んでる暇は無さそうだけど。



「で? 俺はどうすりゃいい。東瀬の繋がりだろ? 行くとこあるならさっさと連れてけ」


「な、なんだコイツ」

「ムカつく……」


「じゃあ帰るもん(だだっ子)」


「「「オイ!!」」」

「うっさ!!」



夜中に騒ぐな迷惑だろ!

マジでヤンキーは声がデカくて困る。





「「ひゃっはー!!」」


「…………」



俺の横には、原付が二台。

通りの少ない車道を爆走中。


……そう、二台である。



「ホッホッホッ」

「なんで一人は走ってんだよ」



王子様抱っこ……あっちの世界で言う『お姫様抱っこ』で俺を抱えて、行き先不明の場所へ向かう異性耐性少なめオーガ(♀)。



「コイツ、先輩が乗り物苦手なのを……!!」

「いや知らない……そうなの?」


「ホッホッ、う、うるせエ!」



この図体で、ハートは小さい。

メンタルトレーニングでもした方が良いんじゃないですかね?



「タクシーでも呼べば良いじゃん」

「ホッホ、んなダセー真似するわけねえだろ! ホッホッホッ」



ジジイの笑い声みたいになってるけど。

そんなになってまで、男を抱えて走るのはダサくないのか……?


まあいいや。人の価値観ってそれぞれだし。

この世界で初めて王子様抱っこされたかも。



「案外良いもんだな。楽で」


「「満喫してんじゃねぇ!!」」



まだまだ拉致らちは始まったばかりだ!


……東瀬、無事で居てくれよ。

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