昔話



愛『抜けた』

空『えっまじで? そんな簡単に?』

愛『おう』

空『ほんとに?』

愛『本当だよ。世話になったな』

空『祝勝会やるか。お前の好きな唐揚げパーティーで』

愛『宿題溜まってるからしばらくだめだ』

空『ええ残念。マジメだなあ』

愛『おう』

空『ほんとに?』

愛『そう言ってんだろ』



アレから。

友達となったからには、メッセージアプリの連絡先も交換した。


そして翌日、そんなメッセージ。

拍子ひょうし抜けしたよ。あっさり脱退出来たなら良いんだけどさ。


でも引っ掛かる。

本当に、彼女は抜けられたのか?

タバコなんかを悪質サプリみたいな売り方してる奴らだぞ?



「……今日帰ったら電話するか」



念の為だ。

心配のし過ぎはよくないけどね。ハゲる!



「あっ北斗先輩お疲れ様です、もう上がりっすか?」

「おうお疲れ。残念ながら、ガッツリ22時までだぜ」

「えっ珍し」

「店長、佐藤が居る時は大体居るのにな。なんか本社の方行ってるらしい」

「はえ~昇給かな」

「だったらなんか奢ってもらおうぜ〜」

「ですね」

「おう! 今日はよろしくな」



午後17時から20時まで。

どうやら、今日は北斗先輩と一緒らしい。



「あ。オレはサボってたら容赦しねえぞ」

「はは、しませんってそんなの」

「マジメだな佐藤は。ま、全然客いねーけど」



見る限り、品出しも陳列もやってそうだった……暇だったんだな。


バックヤードの清掃をする先輩と、人気のない店内を眺める。



「佐藤もすげーよ。ここで男の子がもう半年以上やってんだから。よく女が絡んでくるだろ?」

「慣れですよ慣れ」

「お前変わってんなぁ……オレが愛明生徒なら毎日ココ通い詰めるね」

「ははっ口説いてんですか?」 

「バッカお前。女子校近くのコンビニで可愛い現役DKがレジやってんならもう、な?」

「そりゃどうもです」



そう言う北斗先輩は、裏のなさそうな笑顔だった。

……だからこそ。



《——「分かってんだ、それが普通じゃない事なんて」——》



彼女が入っていたであろうローズガーデンが、東瀬の言うローズガーデンと合致するのが信じられなかった。



「……あの、北斗先輩」

「んあ?」


「ローズガーデンのこと、聞いても良いですか」



レジの小銭補充とレシートカートリッジの交換をやりながら。

出来るだけ、軽い雰囲気で話しかける。



「え? ええ、えっと、えー、ローズガーデン? 紅茶の名前か? うまいよな午前の紅茶。まあオレは午後に飲むけどな(意味不明)」

「落ち着いて下さい」

「……」



自分からそれを話題に出すのは良いけど、他人の方から出すのはキツイらしい。

そういうもんか。そういうもんだね。



「いや、ローズガーデンって普段何してたのかなって」

「……これは知り合いから聞いてた情報だけどな」

「……はい」

「地元のこの町を守るってのが目的だ。ただその前は……片親だったりクソ親を持ってたりで、グレかけた奴らが集まってただけだった」

「へえ。でもよく集まりましたね」

「最初は一人だったんだ。そのバカはケンカがちょっと強くてな、売られたケンカ全部買って……全部返り討ちにした。気付けば学年のトップよ、テストの成績は最下位だけどな」

「……」

「でも、倒した奴らは全員居場所が無くてグレてただけだったんだ。ソイツもそうだった。だから、喧嘩の後は意気投合してどんどんその集団はデカくなっていって」



先輩は語る。

まるでその風景を懐かしむように。



「仲間同士でこの町をぶらついてた。それだけで楽しかった……で、その時目についたのが――酔っ払いが男の子に絡んでたり、小学生にカツアゲする中学生が居たり、ひどい場合は主夫しゅふの引ったくり被害――治安が悪いこの町には、それが普通だった」


「集団で居たからか、気が強くなってた。下心もあるだろうな。何かの気紛れでもある……とにかくこの町の“悪者”を、彼女達は成敗していったんだ」


「そのうち、助けた側から礼を言われた。そんな事生まれて初めてだった。こんな不良が感謝されるなんてって――で、単純なオレ達は思ったんだよ。“オレ達の力で、この町を守ろうじゃないか”って」



一息置いて、彼女は言う。



「それで出来たのがローズガーデンだ。なんつーか、町のヒーロー気取った不良の集まりだよ」



そう言いながら、ホットスナックのケースを掃除する先輩。


……そうか。

きっと、最初はそうだったんだろうな。



「カッコいいですね、ローズガーデン」

「そ、そう?」

「名前はアレですけど」

「 」


だからバレバレだよ先輩!


……一応聞いとくか。一応ね。



「まさかと思いますけど、タバコの高額売買とか、廃工場で一年最強決定戦とかってないですよね」

「……」

「すんません大丈夫です失礼しました(早口)」

「いや、悪い。あったよ。デカくなったチームは、当然変な奴らも出てくる。下に金をタカったり、町の人に迷惑かけたり。他校に喧嘩売りに行ったり。ローズガーデンも例外じゃなかった」

「え」

「笑えるよな、迷惑掛ける奴を正すって目的の集団が迷惑掛けてんだから。そういう奴らは正していったが……限界はある。ローズガーデンっつー名前を悪用する奴もどんどん出てくる出てくる。もう手が付けられなかった」

「そうなんですね」

「だから治安もマシになった頃に、でっかく解散宣言したぜ。ヤンキ-グループなんてデカくなるもんじゃねえよ」



……え?



「あ、あの。今ってローズガーデン無いんですか?」

「おう。パッと解散したよ」

「……そうなんすね」

「もうそんな名前、今の高校生で知る奴居ねえって。たった一年存在しただけだぞ? でもなんでそんな事オレに聞いたんだ」

「はは、歴史好きなんで」

「変わってんなぁ佐藤は……なんかいっぱい話して喉乾いた、水飲んでくる」

「どうぞ」



ああ、これで分かった。

ローズガーデンは――名前が同じなだけの“紛い物”だ。


尊敬する北斗先輩が嘘を言っているとは考えられない。



「……」



ただ、不安はつのる。

その“新ローズガーデン”とやらは、本当に別物なわけで。


ヤンキーなんて“伝説”とかが大好物。

忘れられるわけがない。むしろ知名度は上昇しているまである。

だからこそ、その名前を悪用しているとしか思えないんだ。


そしてそんな奴が、あっさり脱退を許すか?

俺の考え過ぎじゃなければ良いんだが。



「ホントに抜けれたんだろうな、東瀬」



客の居ないコンビニ。

雑誌の整理をしながら外を見て。


遠くの彼女に向け、俺は静かに呟いた。

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