昔話
□
愛『抜けた』
空『えっまじで? そんな簡単に?』
愛『おう』
空『ほんとに?』
愛『本当だよ。世話になったな』
空『祝勝会やるか。お前の好きな唐揚げパーティーで』
愛『宿題溜まってるからしばらくだめだ』
空『ええ残念。マジメだなあ』
愛『おう』
空『ほんとに?』
愛『そう言ってんだろ』
□
アレから。
友達となったからには、メッセージアプリの連絡先も交換した。
そして翌日、そんなメッセージ。
でも引っ掛かる。
本当に、彼女は抜けられたのか?
タバコなんかを悪質サプリみたいな売り方してる奴らだぞ?
「……今日帰ったら電話するか」
念の為だ。
心配のし過ぎはよくないけどね。ハゲる!
「あっ北斗先輩お疲れ様です、もう上がりっすか?」
「おうお疲れ。残念ながら、ガッツリ22時までだぜ」
「えっ珍し」
「店長、佐藤が居る時は大体居るのにな。なんか本社の方行ってるらしい」
「はえ~昇給かな」
「だったらなんか奢ってもらおうぜ〜」
「ですね」
「おう! 今日はよろしくな」
午後17時から20時まで。
どうやら、今日は北斗先輩と一緒らしい。
「あ。オレはサボってたら容赦しねえぞ」
「はは、しませんってそんなの」
「マジメだな佐藤は。ま、全然客いねーけど」
見る限り、品出しも陳列もやってそうだった……暇だったんだな。
バックヤードの清掃をする先輩と、人気のない店内を眺める。
「佐藤もすげーよ。ここで男の子がもう半年以上やってんだから。よく女が絡んでくるだろ?」
「慣れですよ慣れ」
「お前変わってんなぁ……オレが愛明生徒なら毎日ココ通い詰めるね」
「ははっ口説いてんですか?」
「バッカお前。女子校近くのコンビニで可愛い現役DKがレジやってんならもう、な?」
「そりゃどうもです」
そう言う北斗先輩は、裏のなさそうな笑顔だった。
……だからこそ。
《——「分かってんだ、それが普通じゃない事なんて」——》
彼女が入っていたであろうローズガーデンが、東瀬の言うローズガーデンと合致するのが信じられなかった。
「……あの、北斗先輩」
「んあ?」
「ローズガーデンのこと、聞いても良いですか」
レジの小銭補充とレシートカートリッジの交換をやりながら。
出来るだけ、軽い雰囲気で話しかける。
「え? ええ、えっと、えー、ローズガーデン? 紅茶の名前か? うまいよな午前の紅茶。まあオレは午後に飲むけどな(意味不明)」
「落ち着いて下さい」
「……」
自分からそれを話題に出すのは良いけど、他人の方から出すのはキツイらしい。
そういうもんか。そういうもんだね。
「いや、ローズガーデンって普段何してたのかなって」
「……これは知り合いから聞いてた情報だけどな」
「……はい」
「地元のこの町を守るってのが目的だ。ただその前は……片親だったりクソ親を持ってたりで、グレかけた奴らが集まってただけだった」
「へえ。でもよく集まりましたね」
「最初は一人だったんだ。そのバカはケンカがちょっと強くてな、売られたケンカ全部買って……全部返り討ちにした。気付けば学年のトップよ、テストの成績は最下位だけどな」
「……」
「でも、倒した奴らは全員居場所が無くてグレてただけだったんだ。ソイツもそうだった。だから、喧嘩の後は意気投合してどんどんその集団はデカくなっていって」
先輩は語る。
まるでその風景を懐かしむように。
「仲間同士でこの町をぶらついてた。それだけで楽しかった……で、その時目についたのが――酔っ払いが男の子に絡んでたり、小学生にカツアゲする中学生が居たり、ひどい場合は
「集団で居たからか、気が強くなってた。下心もあるだろうな。何かの気紛れでもある……とにかくこの町の“悪者”を、彼女達は成敗していったんだ」
「そのうち、助けた側から礼を言われた。そんな事生まれて初めてだった。こんな不良が感謝されるなんてって――で、単純なオレ達は思ったんだよ。“オレ達の力で、この町を守ろうじゃないか”って」
一息置いて、彼女は言う。
「それで出来たのがローズガーデンだ。なんつーか、町のヒーロー気取った不良の集まりだよ」
そう言いながら、ホットスナックのケースを掃除する先輩。
……そうか。
きっと、最初はそうだったんだろうな。
「カッコいいですね、ローズガーデン」
「そ、そう?」
「名前はアレですけど」
「 」
だからバレバレだよ先輩!
……一応聞いとくか。一応ね。
「まさかと思いますけど、タバコの高額売買とか、廃工場で一年最強決定戦とかってないですよね」
「……」
「すんません大丈夫です失礼しました(早口)」
「いや、悪い。あったよ。デカくなったチームは、当然変な奴らも出てくる。下に金をタカったり、町の人に迷惑かけたり。他校に喧嘩売りに行ったり。ローズガーデンも例外じゃなかった」
「え」
「笑えるよな、迷惑掛ける奴を正すって目的の集団が迷惑掛けてんだから。そういう奴らは正していったが……限界はある。ローズガーデンっつー名前を悪用する奴もどんどん出てくる出てくる。もう手が付けられなかった」
「そうなんですね」
「だから治安もマシになった頃に、でっかく解散宣言したぜ。ヤンキ-グループなんてデカくなるもんじゃねえよ」
……え?
「あ、あの。今ってローズガーデン無いんですか?」
「おう。パッと解散したよ」
「……そうなんすね」
「もうそんな名前、今の高校生で知る奴居ねえって。たった一年存在しただけだぞ? でもなんでそんな事オレに聞いたんだ」
「はは、歴史好きなんで」
「変わってんなぁ佐藤は……なんかいっぱい話して喉乾いた、水飲んでくる」
「どうぞ」
ああ、これで分かった。
ローズガーデンは――名前が同じなだけの“紛い物”だ。
尊敬する北斗先輩が嘘を言っているとは考えられない。
「……」
ただ、不安は
その“新ローズガーデン”とやらは、本当に別物なわけで。
ヤンキーなんて“伝説”とかが大好物。
忘れられるわけがない。むしろ知名度は上昇しているまである。
だからこそ、その名前を悪用しているとしか思えないんだ。
そしてそんな奴が、あっさり脱退を許すか?
俺の考え過ぎじゃなければ良いんだが。
「ホントに抜けれたんだろうな、東瀬」
客の居ないコンビニ。
雑誌の整理をしながら外を見て。
遠くの彼女に向け、俺は静かに呟いた。
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