“私と佐藤”


「あっ! おはよう高橋さん」

「……おはよ」



朝、あまり人のいない教室。

掛かる男子の挨拶に返す。

ちなみに私の名字……『高橋』は名字多いランキング第三位! 

田中は四位! 勝った!


家に居るとゲームばっかりしてしまうから、今日はかなり早めに学校に来た。

宿題をする為。


なんてこった。我ながら私らしくない!



「おい話しかけたらー?」

「どうしよっかなー……?」



……そして教室、何か視線を感じる。

最近ちょっと強めの。



「行っちゃえよ!」

「チャンスだぞー」



横から聞こえる黄色い声。

昔の私なら……春が来た、なんて喜んでいたかもしれない。


――正直言おう。

私は、このクラスの男子はほとんど嫌いだ。

この二年になってから。



「! え? 早くない?」



でもその中で、例外の男子が二人いる。


一人は可愛すぎるで有名な、吾妻かなた。

もう一人は、名字ランキング第一位を誇る――



「おはよ、高橋」

「え。佐藤がなんでこの時間に」



『佐藤空』。



《――「高橋も『ストリートギア』やるんだ。一回対戦どう?」――》



彼とは、よくゲーセンで遊ぶ仲だ。

男子が格ゲーなんて聞いて舐めてたけど普通に上手かった。最初は普通に負けた。


今では切磋琢磨しあう仲だ。

最近は結構勝ち越し中!


変わったヤツだけど、私は親友だと思っている。

一緒に居て楽しいし。



「宿題ココでやろかなって。高橋は?」

「同じ!!」

「良いね〜協力作業でいくか」



いつも通り。ごく自然に、彼は私の前の席に座る。

ちなみにそこは田中の席だから大丈夫。



でも――



「チッ……」「あーあ。なんで来るんだよ」



――コレが、私がクラスの男子を嫌いな理由だ。


聞こえるか聞こえないかぐらいの、佐藤に対する声。


だからつい気になった。



「佐藤って他クラスには男友達居ないの?」



たまたま二人だけになったから。


そんな事を、彼に聞く。

うちのクラスはともかく、他クラスとはどうなのかなって思って。



「居ないな」



して、返答。

サラッと彼はこう言った。



「……そ、そっか」

「嫌われ者なんでね。俺は」


「あっちが勝手に嫌ってるだけじゃん」

「はは、ありがと高橋。でもまー俺も悪いから」


「なんかやったの?」

「そういうわけじゃない。けど良いんだよ」



まるで、どこか達観した風で彼は言う。

理不尽を受け入れる様に。


したたかだ。女ながらそう思った。



「佐藤ってホント、男じゃないみたい」

「俺はか弱い乙男おとお……」

「は?」

「は?」

「いや、無理あるって!」

「お前らがもっと弱いだけだわ」

「なんだとこらー!」

「よわっ」

「……ぐっ」



全く威勢の無いファイティングポーズ。


……というか、佐藤って筋肉結構ついてる。

がっしりではないけど、何というか柔らかくはなさそう。


ま、負ける?

多分やり合ったら……組み伏せられて。

そのまま――



「」ゴク

「? 高橋はさ、格ゲーじゃ強いのにな~」

「え、え? 佐藤って下段ばっか使うから対策しやすいの!」

「ま? 気をつけよ」

「あっやばっ言うんじゃなかったー!」

「良い事聞いたわ。今度覚悟してね」

「うわー!! 今の無し!!」

「知ってるか? ミスったコマンドは戻らないんだよ――」



「――おい!」


「!?」

「ん?」



教室の隅。

格ゲー談義に花を咲かせていた。


だから――気付けなかった。



「佐藤君、さっきからうるさい!」



さっきの陰口(になってないけど)では足らないのか、近くまで来てそう言う男子A。


……なんで私には言わないんだよ。



「さ、さと――」

「ああごめんね。トーン抑えるから」



でも彼は、柔らかく対応。

大人だ。


別に、今はホームルーム前。

授業中でも自習時間でもなんでもないから、佐藤は何も悪くないのに。


なんならアイツらだって騒いでるし。



「……ッ」



唇を噛む男子A。

逆上すると思いきや、静かに対応されたからだろう。


でもそこで、後ろから助太刀するかのように男子Bが割り込んでくる。



「高橋さん、勉強してるんだけど。邪魔してるって思わないの?」


「は? そんなこと――」

「確かに俺が無神経だったな。気を付けるよ、ごめんね。今からちゃんとやるから」


「……ッッ!」



そんなこと私は微塵も思ってない。

意味不明な言いがかり。

もはや逆上を狙っているかの様な煽り。


でも、それを彼は受け入れて反省の対応。


こうしてしまえば――



「なんなんだよッ」

「い、行くぞ」



――退散しかない。



「……佐藤って、怒りの感情とか無いの」

「オレ ロボ ジャナイ」

「そこまで言ってない!」

「はは、ムカついてたよ。ずっと」

「え」

「当たり前だろ? ガマンガマン」



涼しい顔をしてそう言う彼の横顔。




「慣れてんだよ。“クレーマー”には」




凛々しくて、まるで氷の様なそれに。



「……」



思わず、見惚れてしまった。

髪も整えてないし、化粧もしていないっぽい。


でも――この教室の男子の中で一番、綺麗きれいに見える。



「なに? なにか顔に付いてる?」


「な、なんでもない!」



やっぱりコイツは変わってる。

他の男子にはないモノがある。


『可愛さ』はない。

『あざとさ』なんて塵一つない。


でも確かに、かれるものが――



「ああ言い忘れてた。お前が使ってくるハメ技に比べたらカス」

「ほ……褒めてるのそれ?」

「褒め半分嫌味半分……あっおはー田中。委員長」


「佐藤今日早い! 珍しい!!」

「素晴らしいですね、いつもギリギリだというのに」


「宿題やってないから今やってる」

「だと思った」ズコー

「……少し見直した私が馬鹿でした」



途端に騒がしくなる私達の席。


でも。

みんなは気付いてないだろうけど。


私だけ。

きっと私だけが、佐藤の魅力に気付いているんだ。



「……“私と佐藤”は、今から宿題だから!」


「えー二人してなに? 私諦めてたのに」

「全く。宿題という字は宿で題と書いて――」

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