貞操概念逆転世界へ(帰して)
異世界転移
「早く童貞捨ててぇ~」
部活帰り。
仲の良い友達が言っていた。
「誰でも良いんだよ、最低だよな? こんな事言ってるから童貞なんだよって」
「ビッチのお姉さんでも全然OK! むしろ土下座してでも頼みたい!!」
「まあ俺なんて結局、死ぬまで童貞なんだろうけど……」
笑って、諦めた様に。
「……俺が女だったら捨てさせてやったけどな」
だから俺は、苦笑いでそう言った。
「うわっやめろキモ! ホモじゃねーんだよ俺は!」
「冗談だクソ童貞」
「はい寿命縮んだ! 死にまーす!」
「おま……」
「死んだらアレだな、童貞が処女みたいな扱いになってる異世界に行く予定だから!」
「は? なんだよそれ」
「知らね? 貞操概念逆転っていう、最近俺の中で熱いジャンルで——」
遠い記憶。
ありがちな空想話。
そんな風に、思っていた。
☆
☆
高校一年生。
夏休みの最中。
部活で疲れて、眠りについて。
「……っ!?」
夢の中。暗闇の中でジェットコースターにでも乗ったかの様に。
視界がぐるんと回って、激痛。
その痛みで目が覚めたら――
「「!!」」
「お、起きたのか空!」
真っ白の部屋。
頭を触れば包帯。
点滴が腕に。
「……は?」
そんなのは、どうでも良かった。
それよりも――
「あんた達……誰だ?」
「「「……え」」」
病室で俺を囲むように居る人達。
“見た目”だけなら、確かに父親と母親に似ている。
でも、違うんだ。
母親はそんなスーツ着ないし。
父親は……なんか肌キレイじゃない? しかも白い粉ついて――化粧かよアレ。
仕事のストレスでとち狂った?
あともう一人。嫌そうな表情をする中学生ぐらいの女の子。
小さ目な身長……黒い髪留めのポニーテールに、ジトッとした目でこちらを見てくる。
俺のこと嫌いなんだね。凄くわかりやすい。誰だよ。
「夢か! ああ、これ夢だな!」
そう思えば、このわけのわからない世界にも納得がいく。
変な夢見てるわコレ。
「……痛ぇ……」
でも、頬をつねっても痛い。
夢の中でも痛覚あるとか最悪か?
いや。というか。
怪我してるんなら、部活がヤバいじゃねーか――
「――はっ?」
真っ白の掛け布団をめくる。
そこには、怠け者そのものの足があった。
我ながら鍛え上げたと思っていた筋肉はどこにもなく。
ぷよぷよした太ももが晒されていて。
今更ながら、少し身体が重い事に気付いて。
うん。
見なかったことにしよう。
「「そ、空」」
掛かる声。
それが、気持ち悪い。
“同じ”はずなのに、“同じじゃない”ソレが。
「もしかしてだけど、アンタが俺の両親とか言わないよな?」
「……!」
「お、お医者さんを呼んでこよう――」
「――なぁ、俺に答えてくれよ」
「「!!」」
いちいち、俺が言う言葉に驚く三人。
うっとおしい。イライラする。
まるで“俺”を否定されているみたいで。
「……“俺”、“俺”って。空はどうしちゃったんだ」
「分からない。でもとにかく、お医者さんに診てもらわなきゃ……」
「頭打って記憶でも無くしたのか……?」
「……なぁ……」
「きっとそうよ。お医者さんは特に脳に異常は無いって言っていたけれど!」
「なら早く、もう一度診察を――」
「――俺の質問に、答えてくれって言ってんだよ!」
「ひっ」
「ご、ごめんなさいね空。その、私達も混乱して……」
「……こっちもごめん。急に大声出して」
わけのわからない状況。
自分の声を聞かずに、慌てる彼らに腹がたってしまった。
でも……俺の知る父親は、こんな風に怯えない。
よくケンカしたろ!
なのに、なんだよその顔を両腕で隠す仕草。女の子みたいな。
「わ、私は佐藤のぞみ。空の母親」
「ぼ、僕は佐藤
「ぼ……ありがとうございます、分かりました。で、君は?」
「さっきからさ。マジで言ってんの、
「ちょっと
「大マジだよ。教えてくれない?」
「……妹! なんなのさっきから!」
「……そう、か」
ズキズキと痛む頭を抑える。
両親は名前が合致した。
でも俺に、妹なんて居ない。
なんなんだよコレ。
異世界転移? パラレルワールド?
こんな狂った世界、夢じゃなきゃ説明がつかない!
「ふざけんなよ、くそ……」
どうにもならずに天を仰ぐ。
思考の整理は当然ながら落ち着かない。
……まあ、せっかくだし呟いておこう。
「知らない天井だ……(遅)」
「「「…………」」」
黙り込む家族。
まるでお通夜の様な雰囲気。
「……」
うん、
さっさと覚めろこんな夢!!
▲作者あとがき
というわけで、主人公の過去編です。
ちょっと長めになります。
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