貞操概念逆転世界へ(帰して)

異世界転移



「早く童貞捨ててぇ~」



部活帰り。

仲の良い友達が言っていた。



「誰でも良いんだよ、最低だよな? こんな事言ってるから童貞なんだよって」


「ビッチのお姉さんでも全然OK! むしろ土下座してでも頼みたい!!」


「まあ俺なんて結局、死ぬまで童貞なんだろうけど……」



笑って、諦めた様に。



「……俺が女だったら捨てさせてやったけどな」



だから俺は、苦笑いでそう言った。



「うわっやめろキモ! ホモじゃねーんだよ俺は!」

「冗談だクソ童貞」

「はい寿命縮んだ! 死にまーす!」

「おま……」


「死んだらアレだな、童貞が処女みたいな扱いになってる異世界に行く予定だから!」

「は? なんだよそれ」

「知らね? 貞操概念逆転っていう、最近俺の中で熱いジャンルで——」



遠い記憶。

ありがちな空想話。


そんな風に、思っていた。






高校一年生。

夏休みの最中。


部活で疲れて、眠りについて。



「……っ!?」



夢の中。暗闇の中でジェットコースターにでも乗ったかの様に。


視界がぐるんと回って、激痛。

その痛みで目が覚めたら――



「「!!」」

「お、起きたのか空!」



真っ白の部屋。

頭を触れば包帯。

点滴が腕に。



「……は?」



そんなのは、どうでも良かった。

それよりも――



「あんた達……誰だ?」


「「「……え」」」



病室で俺を囲むように居る人達。

“見た目”だけなら、確かに父親と母親に似ている。

でも、違うんだ。


母親はそんなスーツ着ないし。

父親は……なんか肌キレイじゃない? しかも白い粉ついて――化粧かよアレ。

仕事のストレスでとち狂った?


あともう一人。嫌そうな表情をする中学生ぐらいの女の子。

小さ目な身長……黒い髪留めのポニーテールに、ジトッとした目でこちらを見てくる。

俺のこと嫌いなんだね。凄くわかりやすい。誰だよ。



「夢か! ああ、これ夢だな!」



そう思えば、このわけのわからない世界にも納得がいく。

変な夢見てるわコレ。



「……痛ぇ……」



でも、頬をつねっても痛い。

夢の中でも痛覚あるとか最悪か?


いや。というか。

怪我してるんなら、部活がヤバいじゃねーか――



「――はっ?」



真っ白の掛け布団をめくる。

そこには、怠け者そのものの足があった。


我ながら鍛え上げたと思っていた筋肉はどこにもなく。

ぷよぷよした太ももが晒されていて。

今更ながら、少し身体が重い事に気付いて。


うん。

見なかったことにしよう。



「「そ、空」」



掛かる声。

それが、気持ち悪い。

“同じ”はずなのに、“同じじゃない”ソレが。



「もしかしてだけど、アンタが俺の両親とか言わないよな?」


「……!」

「お、お医者さんを呼んでこよう――」


「――なぁ、俺に答えてくれよ」


「「!!」」



いちいち、俺が言う言葉に驚く三人。


うっとおしい。イライラする。

まるで“俺”を否定されているみたいで。



「……“俺”、“俺”って。空はどうしちゃったんだ」

「分からない。でもとにかく、お医者さんに診てもらわなきゃ……」

「頭打って記憶でも無くしたのか……?」



「……なぁ……」



「きっとそうよ。お医者さんは特に脳に異常は無いって言っていたけれど!」

「なら早く、もう一度診察を――」



「――俺の質問に、答えてくれって言ってんだよ!」



「ひっ」

「ご、ごめんなさいね空。その、私達も混乱して……」


「……こっちもごめん。急に大声出して」



わけのわからない状況。

自分の声を聞かずに、慌てる彼らに腹がたってしまった。


でも……俺の知る父親は、こんな風に怯えない。


よくケンカしたろ!

なのに、なんだよその顔を両腕で隠す仕草。女の子みたいな。



「わ、私は佐藤のぞみ。空の母親」

「ぼ、僕は佐藤わたる。君の父親だ……」


「ぼ……ありがとうございます、分かりました。で、君は?」


「さっきからさ。マジで言ってんの、空兄そらにい

「ちょっとあかり!」


「大マジだよ。教えてくれない?」

「……妹! なんなのさっきから!」


「……そう、か」



ズキズキと痛む頭を抑える。

両親は名前が合致した。

でも俺に、妹なんて居ない。


なんなんだよコレ。

異世界転移? パラレルワールド?


こんな狂った世界、夢じゃなきゃ説明がつかない!



「ふざけんなよ、くそ……」



どうにもならずに天を仰ぐ。

思考の整理は当然ながら落ち着かない。



……まあ、せっかくだし呟いておこう。



「知らない天井だ……(遅)」



「「「…………」」」



黙り込む家族。

まるでお通夜の様な雰囲気。



「……」



うん、すべった。


さっさと覚めろこんな夢!!





▲作者あとがき

というわけで、主人公の過去編です。

ちょっと長めになります。

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