初めての地雷


兄の名前は、佐藤空。

あたしの名前は佐藤あかり

それで……合わせて星空になる様にあたしをあかりと名付けたとか。

子供って自分の名前を決められないから理不尽だ。

“あんな”兄と合わせる? ふざけないで。


で、夏休みの終わり頃。

あんな兄……空兄がお風呂で転んで怪我をした。

それはもう、大派手に。


ドンガラガッシャーン! みたいな。

友達の持ってる少女漫画みたいな音をさせて。



《――「なーあかり、アイス取ってきてー。は? なに? さっさとしろよ」――》


《――「あかりって私服のセンス無さすぎ! モテないっしょ? そもそもブサイクだから意味ないか(笑)」――》


《――「パパ、おこづかい足りない~。あかりの分ボクに加えてよー」――》



……ざまぁ!

いや、ほんと、せーせーした!


日頃の行いが悪いからこうなるんだ。


お父さんとお母さん、友達には良い顔!

妹のあたしには言いたいやりたいワガママ放題!

ゴミ! カス! 魔王!



「……っ!?」


「……うわぁ(小声)」



だから、空兄が目の前で跳び起きた時は思わずため息が出た。


お父さんもお母さんも心配して、毎日毎日お見舞い。

一週間は天国のような生活だったのに……これで終わりかって。



「あんた達……誰だ?」



――ああ、しょうもな!!


どうせ空兄の事だから、構ってもらおうとしてるんだ。

ああやってれば両親が慌てるって分かってるから。


……その割に、声が違いすぎるけど。



「もしかしてだけど、アンタが俺の両親とか言わないよな?」



……その割に、なんかガチで焦ってる感じだけど。

というか“俺”ってなに? 空兄は媚びっ媚びの『ボク』でしょ?



「――答えてくれって言ってんだよ!!」



……いや、いやいや。

空兄のこんな声聞いたことないって。

おかしい。変だ。


……ふ、ふっ(笑)。

あんな性悪ゴミ兄のことだ。

どこまで皮被ってるのやら。


ここはいっちょ、あたしが化けの皮を剥がして――



「さっきからさ。マジで言ってんの、空兄」

「大マジだよ。教えてくれない?」

「……妹! なんなのさっきから!」

「……そう、か」



演技、演技だから。

この、消え入りそうな声も演技。


きっとそう。じゃなきゃおかしい。



「ふざけんなよ、くそ……」



――頭を抑える彼。

それはどう見ても、あたしの兄の姿ではなくて。



「「「…………」」」



それはココにいる全員が感じていたらしい。


両親もあたしも。

まるでお葬式の様に、黙り込んでしまった。


なんかそのあと言ってたけど、誰も突っ込める雰囲気ではなかった。

それを言うなら天井じゃなくて“床”でしょって。タイミングもおかしいし。

本当に……空兄はおかしくなっちゃったみたい。






一応色々検査みたいことされて、全く異常がないと診断結果。


というかナースさん、ほぼ男だったんだけど。

んで聴診器持ったお医者さんが女の人で。

……普通、“逆”じゃない?


そんなこんな。

結局この悪夢は覚めないまま、俺は退院した。

身体が違うせいか最初は動かしにくかったけど、今は完全に俺の身体だ。


しっくりくるね。腹筋してたらナースさん(男)にメッてされたけど。は?

なんだそれ、可愛いと思ってんの? めっ


そして退院。



「……」


「「「……」」」



うん。気まずい。

帰りのファミリーカー、車内は沈黙である。


というか、母さん(仮)って車まったく運転出来なかったよね。

普通にハンドル握ってる。無免運転? 降りまーす! 

……ほんと、誰だよ。



「あ……あの時に、空の携帯壊れちゃってたんだった」

「……そうですか」


「ま、また買いに行かないとな!」

「……すいません、迷惑掛けます」


「「……」」



あーもうやだこの空間!

というか、風呂で転んだって何? 全く身に覚えないって!


アレか? もう一人の俺的な?

変わってやるから出て来いよ! AIBOOOO!


……。

無理そう。



「……じー……」

「??」



で、横の女の子……妹(仮)はずっとこっちを見つめてくるし。

ストレスでハゲそう!



「……あー、そういえば部活の顧問にはなんて言ってます?」

「「「……?」」」


「え」

「空は帰宅部じゃないか……。手芸部やめただろ?」


「……は? 俺が帰宅部?」

「そ、そうよ」


「…………」



衝撃の事実。

元手芸部、現在帰宅部らしい。んなわけあるか。

俺から部活取ったら何も残らねーよ。


一応この道10年目なんすけど!

……我ながら期待の新人で、一年からレギュラーだったんですけど?

チームメイトが、俺を待ってるんですけど?


あーあ。もう止めだ。

確信した。

これ夢だ。そうに決まってる。



「……だ、大丈夫?」

「あー。はい。大丈夫です」


「空……本当に、空なんだよな?」

「そうみたいですね」


「……ご、ごめん。変な聞き方して」



うん、親の発言としたらかなりヤバいねそれ。


でも大丈夫! なんたってココ、夢ですから!



「あー、妹さん?」

「………」



黙っちゃったよ。

いやそりゃそうか。どんな呼び方だよって。


……どう呼んでたんだ?



「あかり、ちゃん?」

「……っ」


「あー、ごめんな。どう呼んだらいい?」

「……好きにすれば」


「んじゃ『あかりちゃん』で」

「それ以外!!」

「あ、『あかり』で……」



うん、妹にちゃん付けは無いわな。

ごめんね。居た事ないから!



「というか……あかりって漢字はどう書くの?」

「……ほし。星って書いて『あかり』」


「へぇ。綺麗だし、可愛い名前で良いね」

「…………は?」


「え」

「馬鹿にしてんの!? “可愛い”って!」

「え、いや。そんなつもりじゃ」

「やっぱり……やっぱり“空兄”だ!!」



プイッと顔を背けるあかり。

……えっ今のどこに地雷あった?



「「「…………」」」



はい、また空気死にました(笑)。

誰か酸素スプレー持ってきてー!

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