おかしな兄


やっぱりアレから、空兄の様子がおかしい。



《――「へぇ。綺麗だし、可愛い名前で良いじゃん」――》



あんな罵倒をしてきたから、身構えたけど。



《――「あーごめんね? 気悪くしたら謝るからさ……」――》



アレからずっと、あの空兄が私に謝り倒してきた。

もうわけわかんない。

明日は台風が三つぐらい来ないと割に合わない。



「家は変わんねーのな……」



やがて、我が家に到着した。

遠い目をして呟く空兄。



「じゃあその、とにかくゆっくり過ごして?」

「分かりました。迷惑かけてすいません」


「! その、空。敬語なんて使わなくて良いんだぞ」

「そうよ」


「……すいません。しばらくはコレでお願いします」


「無理はしなくて良いから……」

「わ、分かったわ」



父母と息子の会話とは思えない!

なにこの空間……一緒に居るだけできつい。


というかホント、なんで敬語!?



「……俺の部屋はどこですか?」

「あかりと一緒よ」


「えっ。あ、間取りも一緒だからか……」



思い出したかのように呟く彼。


そう。このマンション、家族四人には狭すぎる。

だからあたしと兄で一部屋を共同で使ってるのだ。



《――「は? 電話してるのこっちは。あーごめん。ボクの妹がうるさくて」――》



なのに。

彼は夜遅くまで友達と電話!



《――「あー片付けといて」――》



私の領域にゴミ捨てるし。



《――「電気消せって? まだ24時じゃん、うっせーんだよブサイク」――》



あたしは部活があるのに。

毎日毎日部屋に籠って。遅くまで寝そべってスマホ弄り……。

片手にはお菓子ね。将来は豚!



どうせ、今からも――




「じゃ、俺ランニング行ってきます」

「「「えっ」」」




どこいくねーん!!!






時は夕方。

走りまくって、一時間程。

ちょっと暗くなってきた。



「はっ、はっ。あーサイコー」



外、最高。

運動最高。

あの空間から抜け出した、解放感ったらないよね。


ただこの身体、鍛えてなさ過ぎてすぐヘバる。

夢の中だから意味ないけど……筋トレって楽しいからね。

むしろこんなたるんだ身体だ、伸びしろもきっとすごいはず。



「ただいまです」

「……お、おかえり」


「あ。ご飯作ってくれたんですね」

「当たり前じゃないか。空は家族なんだぞ?」


「……ああそうでしたね。ごめんなさい、いただきます」



食器を洗う父さん(仮)がそう言ってくれる。


どうやら俺以外の皆さんは食べていたらしい。

四人掛けのテーブルに、一人分の料理が並べられている。


気まずいから助かるよ。

というか、父さん(仮)、食器洗い大の苦手だったのにどうした? 家事に目覚めた?



「うま。夢の中なのに」



運動後の飯は最高!

あっという間に完食!



「そ、空が好き嫌いしてない……?」

「ありがとうございました。おいしかったです」


「……あ、ああ。おそまつさま」



食器を拭く父さん(仮)にそう言って、お皿を持っていく。

すげー。皿一個も割ってないよ。



「お風呂入るかい?」

「あー、入ります」


「分かった。じゃああかりがあがったら――」


「――ふー……あ」

「あ」



どうやら、たった今あがったらしい。

洗面台から顔を紅くして出てくる彼女。


ドライヤーの音からして、そんな気はしてたけど。


ポニーテールを解いて、濡れたミディアムヘアーのパジャマ姿。

髪がびちゃびちゃじゃねーか。



「おいおい、ちゃんと乾かさないと」

「えっ。なに?」


「髪まだ濡れたままじゃん」

「……う、うるさ。何なの急に」


「え。髪は女の命っていうだろ?」

「は? ふざけてんの? それ言うなら“男の命”でしょ!」

「えぇ……」



わけわかんね。

ちょこちょこ、こういう食い違いが起きるんだけど。



《――「馬鹿にしてんの!? “可愛い”って!」――》



前のアレもそうだ。

どこか、俺の常識とこの世界は違う。



「あー。ごめん、またやっちゃったな」

「……別に良いからっ」



またプイッと彼女は顔を背ける。うーん。


ぶっちゃけ、この子だけは“元々家族じゃなかった”から、話していて楽なんだ。

妹とも思えないけど。

アレだ。ただの俺より年下の女の子って感じ。いとこに近いかな。


だから、仲良くなりたい。

この空間で唯一の、“普通”に接せる相手になりそうだから。



「でもま、男女関係なく髪痛むからさ。せっかく綺麗な髪なんだし」

「……めんどい」


「あ。乾かそうか?」

「……ほんと、なんなの……っ」


「一応あかりの兄なんだろ。俺は」

「もういい……! やるんなら、さっさとして!」

「了解」



洗面台に二人で。

そこには高そうなドライヤー。


えっと、くしは……あったあった。

これ前の俺の? 名前書いてるよ(笑)。

高そうなの使ってんなー。


ドライヤーも櫛も、前の俺が強請ねだったのかな?



「やるね」

「ん」



――ブオー



そしてスイッチオン。

小さい頃は、俺も親に髪を乾かしてもらっていた。


気持ちいいんだよなアレ。

恥ずかしくて、小学生になってからは自分でやったけど。



「……ぅ」

「痛くない?」


「ん……」



目を細める彼女。

気持ちよさそうだ。



「しっかり乾かさないとダメだよ」

「……わかったから」



まだちょっと、俺に対しては冷たいけれど――



「かゆいとこありますかー(美容師のアレ)」

「ふっ。なにそれ」



あ、笑った。

なんというか、かわいいな。

俺に妹が居たら……こんな感じだったんだろうか。


キモッ自分。

脳内妹が欲しすぎて、こんな壮大な夢作っちゃった?


充分堪能したから! 早く覚めてくれー!!












▲作者あとがき

おかげさまで★4000&百万PV達成しました。

早すぎです。

本当にいつも応援ありがとうございます。


お察しかもしれませんが……今章はちょい重め&ちょい長め&ちょい下成分多めになる予定。

カクヨム様のセーフラインが分からないので、もしかしたらお叱りを受けて修正されるかもしれません。

良ければお付き合い頂ければ幸いです。

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