『止まれ』



「……」ガコガコ



結果、ハマった。

このハイレグイケメンは、見た目の通り(?)フットワークが軽いキャラだ。


ドリルの様に回転しながら突っ込む特徴的な突進技で攻め込んだ後、インファイトを仕掛ける感じ。


どの技も出が早いから、ハマったら相手は何もできない。気持ちいいね!



《YOU WIN》



「……♪」ガコガコ



んでゲーム、ネット対戦で勝ったら勝つだけプレイできるタイプ(上限10回まで)。

最初の100円はチュートリアル。

次の100円でランダムマッチに突入!



《YOU WIN》

《ランクが上昇しました》



「いいね……」ガコガコ



あっという間に5連勝。

一番最初だから、ランクが一番下。

そのせいか勝てる勝てる!


世界が変わっても、画面のキャラと共に戦う感覚は変わらない。ハイレグイケメンだけど。


無我夢中。

そんな言葉がつい出てくるぐらい、ゲームが楽しい。



《YOU WIN》

《プレイ上限に達しました》



「ふー……!?」



それを迎えた時、ようやく気付けた。



「きみ凄いね。あんまり見ない顔だけど」



高校生か、大学生か、少なくとも俺よりは年上か。

金髪で、同じぐらいの身長。

黒のベストに黒のジーパン。

……あまり使いこんでない、金色の金具が目立つベルト。あとサングラス。


男っぽい服装の彼女。

だが見た目の割に威圧感がゼロだ。

言っちゃアレなんだけど、“着られてる”感が凄い。ごめんなさい。


あっちがタメで来るなら、こっちもタメで良いか。




「そりゃ俺ココ初めて来るし」

「! そ、そうなんだ」



そう返すと、なんか詰まる彼女。

どうした? 視線定まってないけど。



「ここ使うんなら退くよ。ごめんね」

「あっ、あのさ!」


「?」

「勝負しない? もしワタシが勝ったらさ、一緒に遊ぼうよ」

「……は?」



えっ何これ。

今俺、逆ナンされてる?


前の世界じゃ一回も無かったソレ。

もしかしてコレも“逆”なのか。

じゃあ逆逆ナン? もうそれ普通のナンパだね。


俺だって自惚れているわけじゃない。

この世界なら、これがきっと普通なんだ。



「うわあああごめんなさいごめんなさい、やっぱナシで――」

「――いやいや良いって。とりあえず一勝負しよ」



急に弱気になる彼女をなだめてコインを入れる。何だこの子かわいいな。


二百円ね。旧俺の小遣いだしオッケー。



「えっなんでワタシの分も」

「良いの良いの」


「えぇ……」



女の子と格ゲーなんて、普通は出来ないもんだからな。

これぐらいのお礼はしても良いだろう。

男としてね。


さて、お手並み拝見――





《YOU WIN!》


「……ア……」

「(よわっ)」



壁際に追いやった後のハイレグトルネードキック(↓→K)と投げ技によるハメ技で、お姉さん撃沈。

やってて申し訳なくなるレベル。


この技、モーションの割に出が早いし防ぎにくいしで強いんだよね。ハイレグイケメンだけど。



「アザシタ……」

「いやいや。別に最初から勝負なんてどうでも良かったから……遊ぼうよ、何すんの?」

「え」



女の子の誘いだし。

予定もクソもない散歩だ、断る理由がない。



「行きたいとこあるなら、どこでもいいよ」

「い、家……とか。なんちゃって」


「えっ家? 遊ぶのに?」

「そ、その、ゲームとかマンガ置いてるから、どうでしょうか……」

「あ。良いね」



“逆”の創作物、俺、気になります!

これはちょうど良い。

日頃の行いが良いからかな!



「ま、まじ?」

「マジマジ。読みたいと思ってたんだ」

「いっぱいあるよ!」



なんというか……接しやすいし、彼女。

女の子と話すの、前の世界じゃかなり緊張してたんだけどな。


変な感じ!



「じゃ、行こっか」

「了解」


「「「……」」」



さらばゲーセン。

……あの、皆さんこっちじろじろ見るのやめてもろて(恥)。





ゲーセンから歩いて、駅からタクシーで数分。



《――「流石にタクシー代は出すから!」――》



そう言った彼女に任せて――



「おじゃましまーす」

「ど、どぞ……」



そこは、広めのマンションだった。


でっかいリビング。靴がたくさんあるってことはシェアハウスか何かだろうか。



「すげー! 漫画だらけ――あっこんちは」


「えっ誰」

「つ、連れて来た……」

「マ? アンタが? あっこんにちは、ゆっくりしてってね」

「どうもー」



やっぱり一人じゃなかった。

こっちは黒髪でおとなしそうな感じだけど、雰囲気は大人っぽい。


女の子二人と同じ屋根の下。

この状況、すごいね。良い夢見てるね!

まだ覚めなくて良いよ!



「……こ、ここからどうしよ」

「はぁ……こっからでしょ」


「とりあえずなんか読んでていい?」


「うっうん!」

「む、無防備だねぇ……」



適当に棚から一巻を取って、ソファーに腰掛けて。


『魂界戦記』……主人公が事故で死にかけた事をきっかけに、特殊な力に目覚める系のラノベだ。

ボーイッシュな女の子が主人公らしい。結構かわいい。



「……」



……おもしろい!

だけど、挿絵でヒロイン枠? の男がエロい恰好なのが鬱陶しい。



――「ほら。絶対イケるって」「ほ、ほんと?」「家来てる時点で勝ち確、むしろ誘われてる。行け行け」



ただ内容はすごく良いぞ。

二人、なんか小声で話してる声も気になるけど。



アレ避妊具どう付けるんだっけ」「はぁ、今更なに言ってんの……」



「……?」



アレが何なのか知らないけど。

別にいっか、と思えるぐらいにソレは面白くて。




「――ね。その、家に来たって事はさ……」

「!? えっうわちょっ」




近付く彼女に、気付けなかった。

そして、その恰好になっていたことも。



「? か、顔赤いね」

「いや、服……!」


「そりゃ、その……ヤるんだったら脱がなきゃと思って」



黒のベストも。その下のシャツも脱げて。

ラフな格好。下着姿。

無防備過ぎるソレ。


突然の光景。

いきなり過ぎて、処理が出来ない。


身体の熱が上がっていく。



「ね、キミ……女の家に来るって、“そういう”コトで良いんだよね?」



そして、背後。

耳元。大人っぽいお姉さんが囁いて。


“違う”――そう言わなければならなかった。



「ふふっ。ガン見じゃん、この子スタイルだけは良いから」



でも、釘付けになっていた。

初めて見る、現実の女の子の――その姿を。


液晶画面じゃない。

正真正銘、彼女の下着姿。

脱げていく、その艶っぽい肢体。



「っ――」



頭がおかしくなっていく。

身体が思考を拒絶する。


“理性”という存在を、初めて感じた。

そしてそれが、じわじわと無くなっていく瞬間も。


こんなの。無理だろ。



「きゃっ!?」



ソファー。

気付けば彼女を押し倒して。

そのあられもない姿が、本能を後押しする。




「――なあ」


「ひゃ、ひゃい!?」



己の影が、彼女を覆う。

僅かに残った理性が消える、一瞬前。




「良いん、だよな?」




僅かに残ったソレで、声を出せば。




「ぉ……お願いします」




頬を赤らめ、目の前の女の子は頷くから。



「っ」



ああ、もう。止められない――

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