アイドル(性別不詳)
「なんであんなこと言ったんだよ……」
寝て起きたら、昨日の事が急に恥ずかしくなった。
テンション上がってたにしろ、あんな話するべきじゃなかった。
仲良くなってまだ一日目だぞ?
距離の取り方バグってんのか?
唐突が過ぎるだろバカ。
……それぐらい、この世界の男友達ってのに浮かれてたんだろうか。
「相当キてんな。俺も」
「……すぅ……空くん……」
布団で寝る彼を眺めながら、静かにため息を吐く。
時刻は朝5時にもなっていない。
歯磨きの後に、トレーニングウェアを着用。
いつもの筋トレ時間だ。
本当はランニングもやりたいが、流石に客が居るのに家を空けるわけにはいかない。
ヨガマットを引いて腹筋30回。
腕立て伏せ30回。
ブリッジにスクワットはちょっと頑張って。
……アレな話、この二つは“下半身”が関わってくるからね。
あーしんど。
前の世界じゃ、もっと筋トレしてたって考えると凄いね。昔の俺。
「ふー」
シャワーを浴びて、スッキリした身体で柔軟体操。
そうしていると――
「……おはよぉ……」
「おは」
「ストレッチ……? 朝から凄いなぁ」
「その前に筋トレやってっけどね」
「す、すご」
「習慣だよ習慣。あ、歯磨きは新しいのそこにあるから」
「うん……」
寝ぼけた目のまま、彼はリビングからドアを開けて洗面台へ。
……もちろん綺麗にしてある。
うちは来客が多いからな。
「ぐちゅぐちゅ、ぺっ……ふぅ。ありがと、ここホテルみたい!」
「まあね。色々取り揃えてるよ」
「やっぱり家に田中さんとか高橋さんとか遊びに来るの?」
「っ、しょっと……いやいやアイツらは来たこと無いって。一応異性だぞ、あいつら」
「――じゃあ、誰が来るの?」
声。
ストレッチの手が止まる。
来客。
それはつまり、女の子だ。これまで抱いてきた彼女達。
当然ながら——俺は、学校じゃ“おんな男”……当然ビッチなんて思われていない。
不純異性交遊なんて笑って吹き飛ばせる行いを、俺は隠して過ごしている。
「……?」
「あーその……家族とかさ。というかまあ、備えあれば憂いなしだろ?」
「そっか。そうだよね」
嘘は言っちゃいない。
俺が女の子を連れ込んでいる事なんて、当然バレてはいけない。
気が緩んでいた。
ずっと気を付けていたはずなのに。
女の子とは無縁。
だからこそ、今の立ち位置がある。
高橋に田中。委員長……他色々、学校の女友達。
もしそれがバレてしまったら——あの学校での友人関係は崩壊する。
「あ……あー。早くしろよ、始発間に合わねーぞ」
「わ、ほんとだ!」
「朝飯も食ってる時間無いな」
「いいよぉそんなの。ボクこれでも結構忙しい身だから、朝食抜きなんてザラ!」
「そんな忙しいヤツが、こんなとこに泊まり込みで遊んで良かったのか?」
「うん!」
「そうか。本人が言うなら何も言わな――」
「モデルの仕事、延期してもらっちゃった☆」
「……」
「何か言ってよぉ」ポカポカ
「やっぱすげーわアイドル(軽蔑)」
「やめてよその目」ポカポカ
「い、痛くねぇ……」
もはや懐かしいその必殺技を受けながら、二人で玄関に向かう。
「じゃ、また学校で☆」
「ああ」
靴を履き、扉に手を掛ける彼に。
「なあ、かなた——」
“お前は、本当に男なのか?”
「——ねえ、空くん」
それを言い掛ける前に、彼が被せる。
「ボク達、もう“男友達”だよね?」
そのまま大きな瞳で、まっすぐ問う彼。
何もかも見通してしまいそうな、綺麗なそれ。
……ああ、そうだ。
かなたは、俺の大事な友達。
この世界で初の、“男友達”。
「ああ。当たり前だろ」
それで良い。
“秘密”なんて、誰でも抱えているものだ。
それは——当然、俺自身も。
自業自得の爆弾を。
“彼”だけ秘密を暴いて自分だけは隠すってか?
都合が良過ぎるんだよ。
それをするなら、俺の秘密も暴露しなきゃ対等じゃない。
だったら、共に抱えて行こうじゃないか。
この逆転世界で――“普通”に生きるのが無理なんて、俺が一番知ってる事だ。
「やったぁ☆」
「また“女”の遊び、教えてやるよ」
「えへへ……それじゃまた、学校でね!」
「おう」
ご丁寧に、変装姿で駆けてく彼。
それを見送って——ドアを閉めた。
「……」
昨日から今まで、たくさんの事があり過ぎたよ。
脳の処理が追い付かない。
夢と言われたら信じてしまう。
こちらを魅了するような仕草の数々。
そのくせ、“可愛い”と言った時のあの反応。
最後に……言葉を失わせる程の圧力。
ただ一つだけ、分かることは――
「やっぱすげーわ、アイドル」
――アイドル(性別不詳) 終――
△作者あとがき
ココまで読んでいただきありがとうございました。
カナ=タンの性別については分かりにくくすいません。まだ謎ということで……読者様の見解に委ねます。たくさんのコメント感謝です(ビビってます)
そして作者の歴代最多のフォロワー数を達成&☆3000突破(ビビってます)
本当にありがとうございます。
応援コレからもしていただけると幸いです。
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