世紀のナンパバトル


「ねーねー。結構遊んでるんでしょ?」「連れの子も一緒に――」


「――あっ」



そして目が合う。

サングラスの向こうの大きな瞳が、確実に助けを求めている。


……失念していた。俺の責任だ。

あんな美少年――ほっとかれるわけがない。

マスクにサングラスを過信過ぎてたよ。


お姉さんホイホイだったね。



「見ないうちに騒がしくなったな。かなた」

「佐藤くん!」



だから、走って向かった。

数分ぶりの再会。

心配そうな顔が溶けて、笑顔に変わった。



「なんだお前ら」「この子達はアタシ達と――」



で。

四人席のテーブルには、あまりにも多い人数。



「なんだと?」「席座ってたのはアタシ達だからそっちが帰れ。ほらお兄さんもこっち来てよ」

「「あ?」」



というか騒ぐな。

ナンパVSナンパとかいう人生初の状況。


勝手に戦え!



「ど、どうしよぅ……」

「すげーなこれ。カス映画に出来そう」

「ええ」



このまま帰ってやってもいいけど、流石に周りの客に迷惑になる。

ヒートアップしてるし。


怪獣を放置して帰宅すれば、当然その星はめちゃくちゃになってしまう。



「ちょっと提案があるんですけど。良いですか」


「「「「?」」」」



あ、こっち向いた。

話は聞いてくれそうだな。



「このままじゃ埒が明かない」


「だから勝負しませんか。分かりやすく、そうだな……『腕相撲』とかで」


「勝者はこの席に座れる――みたいな感じで。どうですか?」



王にでもなったつもりか? なんて言われそうなセリフ。

だが、問題ない。



「良いね」「アタシも」

「負ける気しないし」「分かりやすくて良いじゃん」



快諾である。そりゃそうだ。

この世界の女の子は、腕っぷしが強ければモテると思ってる子が結構多い。

そして、その“強さ”を俺達に見せつけられるとするならば……もう決まりだ。



「さ、佐藤くん」

「大丈夫大丈夫。俺に任せてろ」



心配そうなかなたにそう返して。



「――じゃ、二本先取でいきますか。それぞれ自信ある方はこっちに」



「こう見えても昔は――」

「アタシだってアメリカ留学で――」


「はいスタート」



テーブル。肘を置いて、両者の拳をセット。

そして離せば――争うお姉さん達。


「「うぐぐぐぐっ」」


「うわぁ……」



すげー必死な顔してるよ。横でかなたが引いてんぞ!





結果。

勝ったのは、俺をナンパしたお姉さん達だった。


白熱した良い試合でした……(感動)。

特に土俵際に追い込まれてからの、かなた派お姉さんの耐えは凄かった。


コーラが欲しくなるね。あっさっき買ったわ。



「く、そ……」「お前なに負けてんだよ!」「お前もでしょ!」

「余裕だったな」「アタシ達、アメリカ行ってただから」



かなた派の方はすこし非力だったね。

でも、本当に熱い勝負だった。


男を取り合うお姉さん達……まあ、ちょっとかっこよかったけど。


とぼとぼと帰っていく、かなた一派。

背中には哀愁が見える。



「帰れ帰れー」「じゃ、約束通りアタシ達と……」


「じゃ、勝ったお姉さん達は――」



さて。



「――俺と勝負しましょうか」



ここからが本番だ。



「「「え?」」」



お姉さん達と、かなたの声がハモる。



「俺達が参加しないとは言ってませんよ」

「……君、本気?」「勝ったら今度こそ一緒に遊んでもらうよ、じゃあ」


「それはお好きにどうぞ。じゃあやりますか」

「さ、佐藤くん」

「大丈夫大丈夫。かなたはスタートよろしく」


「“男の子”だからって容赦しないよ!」



負けフラグを積み重ねていく彼女達。

ゆっくりと肘を机に。

お姉さんも同様。


まあまあの筋肉量。

この世界じゃ、基本腕っぷしは女の子の方が男より強い。


身体的にもそうだけど、男は女が守るもの――そういう逆転した考えもあるからね。



「す、スタート!」


「っ――」

「!? う、うそッ!?」



でも俺は、別の世界の人間だ。


肩に体重を載せるイメージ。

油断した彼女の腕全体を、一気に机にねじ伏せる!



「ふー。俺の勝ちですね」

「「……ま、まじ?」」



前の世界じゃよくやってたから慣れてるんだよ。

それに、男として女の子には負けたくない――だから結構鍛えている。


……思い出す。この世界に来てからの体力測定。

痩せてた時とはいえ、周りの女の子が俺の記録を優に超えていく光景。絶望である。


もちろん俺だけがショック受けてたけど。

周りの男子共はキャーキャー言ってた。テメエら悔しくないんか? ないよね!

シャトルランで死にそうになってたのは俺だけ!!



「スタート!」

「よいしょ」

「ぐうううッ!?」



もう一人の方も難なく勝ち。

実を言えば、さっきのナンパお姉さん同士の戦いで彼女たちはかなり疲弊している。


あの熱の入りっぷりだったからな。


だからこそ、消耗していない俺の腕は余裕で彼女たちに拮抗出来る。

計画通り……(暗黒微笑)。



「も、もう一回」

「どうぞ」


「スタート!」

「ふんっ」

「あ、あ……」



無事勝利。

筋肉は全てを解決する!


いやーノリが良いお姉さんたちで助かったね。



「嘘だぁ……」「男の子に、ぼろ負け……」

「すいませんね。そういう約束だから」



ここはファーストフード店。

周りの目もある。腕相撲やり始めた時からかなり目立ってた。


今うだうだ言い始めたら、それこそ生き恥だろう。

この世界で言えば、“女”として。


帰らざるを得ないのだ。

ここで帰らなかったら? 腕の次は足を使うのよ足を(ガチ逃走)。



「……くぅ」「帰る……」



良かった。普通に折れてくれた。

まあ流石にそこまで恥知らずではないだろう。


……求められるのには悪い気はしないんだ。

前の世界じゃ逆ナンなんてされたことなかったし。

女の子の誘いを断るなんて、理由が無ければしたくない。


しかしながら、今日はかなたが居る。



「はは、連れが居ない時なら付き合うんで」

「「ほんと!?」」

「ほんとほんと。また偶然会ったらね」

「次会えたら運命ってことね!」

「うんそうそう(てきとう)」



そんな風に手を振って、退場していく彼女達とはお別れ。

世紀のナンパバトル(ステージ:ファーストフード店)は無事終幕。



「お待たせ、大分冷めちゃったな」



なんとか勝てて良かったよ。

後ろ、ずいぶんと待たせてしまった彼に振り向く。




「ぁ……う、ん」




……なんか顔赤くね?

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