「お前は一体、どっちなんだ?」



「だ、だいじょうぶ……?」

「あ、ああ。ごめん」



心配そうに見る彼。

せっかく楽しい雰囲気なのに、俺が壊してどうする。



「あはは、なんか意外!」

「なにが?」

「佐藤くんって、そんな顔するんだね」

「んだそれ」

「……だってその。クラスの男の子から嫌な事言われても余裕そうだし」

「あー……」



不思議そうに彼は言う。

まあ、実質教室のほぼ半分は“敵”だからな。



「半分が“味方”だから、なんとかなってるだけ」

「!」

「実際一年生の時、不登校気味だったし」

「えっ」

「その時は誰一人友達居なかったからな」

「……そ、そうなの?」



今となっては懐かしい。

もしかしたら俺は、あのままだったら死んでたかもしれない。

こんな狂った世界、転生してやるぜってね。



「そうそう。ぶっちゃけ、かなたにも嫌われてると思ってた」

「っ――そ、そんな事ない!!」

「!?」

「あ。ご、めん」

「びっくりした。そんな否定しなくても」

「だって……違うから」

「そっか。俺は男の友達とか居ないからさ、勝手に思い込んでたよ。ごめんごめん」

「ぼ、ボクもごめん」



クラスの男子全員が俺をみ嫌っているなんて事は無いだろう。でも、毎日毎日悪口が聞こえて来たら嫌でも苦手意識が出てくる。


だからこそ、最初に彼から声を掛けられてきた時も警戒と困惑気味だった。今はこんなんだけど。



「かなたは、他の男子とは違うんだな」

「……うん」


「じゃ、同性同士じゃなきゃ出来ない話でもしよう(唐突)」

「へっ」



そうと決まればもう何も疑わない。

“吾妻かなた”という人間は、きっと良いヤツだ。


それが、今の彼の反応で分かったから。



「かなたって、アイドルだしやっぱり恋愛禁止なの?」

「っ! ぼぼ、ボクのところはそこまで厳しくないよ。でも……まあ、暗黙の了解みたいな?」

「へえ、まあそうだよな。ちなみにクラスメイトの中で気になる奴は居る?」



何時いつぶりだろうか。

こうやって、男同士の恋バナなんて。


テンション上がってきた。



「…………」ジー

「? ああ俺から言えって? 俺はまだ居ない……というか、彼女なんて一生無理だから諦めてる」



無言でこっちを見つめてくるから、俺から言う。

一番つまらない回答だけど……ま、事実だ。


こんなビッチ野郎に、恋愛なんて出来るとは思えない。

この世界で――俺は『逆』だ。

そしてまた、自分から“価値”を地の底に落とした。


だから、付き合うとか結婚とか……そういう事を出来る気がしないのだ。



「……そんな事、無いと思う」

「そう? ありがとう、クラス1モテる奴から言われると嬉しいよ」

「えへへ、そんな事な――」

「あるよ。お前めちゃくちゃ可愛いからな」



コイツ自覚無いのかよ。

ぶっちゃけ他の男子が可哀そうになるレベル。


俺は論外として、結構うちのクラスってレベル高いとは思うけど……それでもかなたには敵わない。

ゲーム的に言うならTier0だね。チート級の可愛さ!



「……へ、ぇ?」



いやそんな顔真っ赤になる?

アイドルだったら言われまくってるだろうに。


こんな最底辺の“おんな男”からのセリフなんて、それこそ聞き流されると思ったんだけど。



「大体の女の子なら、すぐに好きになっちゃうだろうね」

「……」

「?」

「ぉ……女の子じゃ、無かったら?」

「え」



何言ってんの?

意味が理解出来ない。

男だったらって事か?


俺は別にホモではない。

もちろん愛のカタチはそれぞれだ。

しかし、同性愛者ではないからあまり気持ちは分からないわけで。



「ど、どうなの?」

「分かりません。普通に俺は女の子好きだし」

「ぅ……そう、だよね。“普通”は男の子は、カッコいい人が好きだもんね」

「まあそうだろうな。ただ、俺みたいに他の男子とは好みが違う場合もあるかもよ」

「へっ?」

「あっ……いや、かなたになら良いか」

「?」



口が滑った。

でもいいや。

もしかしたら、少し彼には引かれてしまうかもしれない。

だけど、せっかくできた同性の友達だ。


少しぐらいさらけ出しても良い。

かなたには。


恋バナなんて……めちゃくちゃ久しぶりなんだから。

本来この世界じゃ“おかしい”事も、彼の前では口が滑ってしまう。



「俺さ。カッコいい子じゃなくて……“可愛い”女の子がタイプなんだよ」

「!!!」



逆転した世界にとって、それはきっと少数派。

だけど、世界が変わっても俺は変われない。

変わろうと思った事も無い。


俺はそうだった。


残念ながら……好みだって、もちろんね。



「ははっ。な、“普通”じゃないだろ?」

「…………っ」

「引いた?」

「……ボクだって、そうだよ」

「そうなの?」

「“カッコいい”人が好きなんだ。ボク」

「え」



それ……“普通”じゃね?


さっきからどうした。

それじゃ、まるで――



「ぁ。あはは! そうだね、確かに普通だった」

「びっくりした」

「遊び疲れちゃって変な事言っちゃったぁ、ごめんね」

「ならもう寝るか。明日早いんだろ? 布団引いて来るよ」

「ボクも手伝う!」

「助かる」



お互いハッとしたように話を止める。

これ以上はきっとよくない。


寝室、家族とかに使う来客用の布団を敷く。

時刻は22時を超えたところ。

高校生にとっちゃ早いかもしれないが、たまには早寝も良いだろう。


というか大分遊んだからね!



「俺は風呂入ってくるから。かなたは布団入って寝てろ」

「そうする。ふぁぁ……あ、でもボクお風呂入ってないからきたない……」

「気にすんな。ファンからしたらむしろ価値上がるんじゃね(適当)」

「さいてー!」ポカポカ

「はいはい分かったら入ろうね」

「……もー。ふぁあ……」



可愛い欠伸をして、かなたは布団へ入る。

慣れない遊びをしたからか、だいぶん疲れていた様子で。



「今日はお疲れ」

「……うん。空くんと、また遊びたい……」

「バイトが無い日なら」

「やったぁ……」

「いやでも絶対かなたのが忙しいだろ」

「そうだった! ボク、アイドルだったぁ……すぅ」

「おま……まあいいや。おやすみ」



寝息を立てる彼を確認して、電気を消した。



服を脱いで、シャワーを浴びて。

さっきは、やけに汗をかいたから。




「お前は一体、“どっち”なんだ?」




呟きは誰にも聞こえぬ様に。

そっと、シャワーの音に紛れさせた。


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