貞操逆転、女子高校前、コンビニバイト。

aaa168(スリーエー)

「ヤらせてください(土下座)」

始まりの土下座


高校から帰宅後、電車で数十分。

佐藤空さとう そら』。

少し色褪いろあせた名札を、制服に付け気合を入れる。



「っし、今日も頑張るか」



目が覚めたら、常識が逆転していた。

何故か女子高生がレベルの低い下ネタで盛り上がって、男子はおすすめの化粧品で盛り上がっている。


そんな世界。

俺だけがおかしい世界。

それに少しは慣れて来た頃、家の近くのコンビニバイトに応募した。


……俺の記憶では、確か男子校が近くに会ったはずなのに。

面接を受けて働き初めて——そこが初めて女子校だと判明した。



「おざまーす。入りますね」

「あっ佐藤君、学校おつかれさま」


「店長眼鏡変えました? かっこいいですね。インテリって感じで」

「へぇっ!? あ、ありがと……」



いつも通り歯切れが悪い店長(アラサー・独身女性)の自己肯定感を上げながら裏に入っていく。

……そう、この世界は“女性”は“かわいい”ではなく“かっこいい“と言う方が喜ばれる。


普通なら、男にかわいいなんて言うのは誉め言葉がない時に言う言葉だが……この世界は逆だ。



「そ、その。佐藤君も、その、かわいいね」

「あざっす」


「えへへ……」



こんな感じで、本気で男への“かわいい”が最上級の誉め言葉なのだ。

……慣れるまでは時間かかったよね。


何もうれしくない! 

言えないけど!



「しゃっせー(俺)」

「いらっしゃいませ! (店長)」



コンビニバイトはやることが多い。

この世界の女子校生の好物は、前の世界の男の好物。

つまりホットスナックに、ネタ系のお菓子とかがかなり売れる。あと“下系”。


今はそれの品出し中だ。

平日は夕方17時~21時。土日はいつでも。

週3~4日程度、適当にシフトを入れている。


ここで働くのは好きだから、もっと増やしても良いんだけど。



「……」

「……ぁ、あの……」



店長がやると仕事にならない下系……“避妊具”やら“ドリンク(意味深)”などなど整理中。


これに関しては前の世界と変わらないよな。

違うのは、使うのが男から女になっただけで。

男用の避妊具より、女の子用の避妊具が一般的なこの世界。


責任取るから! とかあっちから言われた時は流石に頭が真っ白に――



「あのっ!!」

「うわっ!? は、はい?」



唐突に声が掛かり、その主を見上げる。

少し長めのショートカット。

黒髪。俺より少し低いぐらいの背。


目についたのは、黒のジーンズに紺色のカーディガン。

それを見る限り、結構気合が入った服。

前の世界ならボーイッシュな恰好。


で。それが今は――地面に伏っしているわけだが。



「(土下座)」

「……おいおいおい」



なんで土下座してんの? ここコンビニっすよ?

客は居ないし、店長も書類整理中だから別に良いけど。


いや良くはない(冷静)。



「う、噂を、聞きまして!!」

「???」

「私の名前は『椿 小晴つばき こはる』です! よろしくお願いいたします!!」

「よ、よろしこ……えっとバイト募集は今はしてな——」



礼儀正しい。

俺とは真逆だ。


声もよく通るし、部活とかやってるのかな?



「——や、ヤらせて、ください」

「は?」



礼儀どこいった?

ナイフで背中を刺された気分。

確かにさっきから、彼女からの視線をずっと感じたけど。


まさかずっとそう思って?



「処女……捨て、させて下さい……! なんでもします……!!」


「……」



――童貞に処女。

“それが持つ”価値なんて、男女同じのはずなのに。


なぜか昔の世界では『男』が低く、『女』が高く。

今の世界では言わずもがな。

その価値も、逆転している。


それにしたって問題だらけ。

一番問題なのは——“これ”が数十回目だということ。

しかしながら、こんなにも必死な様子なのは珍しい。



「今日の20時。バイト上がるから、その時ココで待ってるよ」



だから――“折れた”。

なんたって土下座だぞ土下座。


普通じゃない。何か深い理由がある。

……純粋な下心であるなら、それはそれで良いや。


こんなビッチなんかで良いのであれば――



「っ……はい!」



世界が救われた様な表情になる彼女。

こんな顔をされて、『やっぱナシで』なんて断れる理由もない。



「かゆ……」



首。

虫刺されを掻きながら嘆く。

ああ……本当に、意味の分からない世界に来てしまった。










▲作者あとがき


書きたかった逆転系。

応援頂けると幸いです。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る