#41 田舎のあったかさ

 十七時十七分に須坂に着いた。

「ええと、ここから利府くんのおじいちゃんとおばあちゃんの家までは、歩いていくんだよね」

「そう。ごめんね、この人数だと車に乗りきれないからさ」

 そう話しながら、駅舎を出る。駅前には三、四階建てのビルが建ち並んでいて、商業施設もあった。地方の小都市としてはまずまずの規模だろう。

 歩道橋を渡り、駅の反対側へ出た。こちら側は閑静な住宅街で、特に商店などは見当たらなかった。最初に駅を出た側が町のメインなのだろう。

 住宅地を歩いていくと、辺りは開け、周りは田畑だけになった。

「お母さんの実家は、リンゴ農家をやってるんだよ。この辺に畑がある」

「信州りんごってことかあ、美味しそう」


 駅から歩いて十五分ほどで、利府くんの祖父母の家に着いた。畑の中にある、小さな集落の中の、二階建ての一軒家だった。

 利府くんが入り口の引き戸をコンコンとノックし、「来たよ~、お邪魔しま~す」と言って中に入った。鍵はかかっていなかった。僕達はちょっと待ったあと、利府くんに続いて中に入った。

「みんなよく来たわね~! ささ、早く上がって」

 ほどなくして利府くんのおばあさんが出てきて、僕達の顔を見るなり大歓迎してくれた。利府くんも優しいが、この人もいい人そうだ。

「靴はそこに入れてちょうだい。ちゃんと手を洗うんだよ」

 おばあさんは優しくそう言うと、奥のほうへ消えていった。

「みんな初めまして、弘大のおじいちゃんです」

 靴を揃えていると、今度はおじいさんがやってきた。

「どうも、お世話になります」

 五人であいさつした。

「てか、弘大にめっちゃ似てる!」

 快志が利府くんに言った。確かに、顔が全体的に利府くんと似ている気がする。

「よく言われるよ。僕はお母さん似で、お母さんがおじいちゃんに似てるんだよね」

「つまり、利府くんもおじいちゃんと似てるってことか」

「そうそう」

「風呂沸かしてるから、順番に入っちゃってな」

 僕達がそんなことを話していると、おじいさんはそう言った。確かに、早くさっぱりしたほうががいいだろう。僕達は家の中に上がり、二階の一間に荷物を置いて、各々風呂に入る準備をした。五人が順番に入っていると時間がかかってしまうので、二人が湯船につかり、その間に一人が体を洗うことにした。狭かったが、それはそれで楽しかった。


 風呂から上がり、僕達は広間に座って夕食ができるのを待っている。

「じゃあみんな、メリークリスマス!」

 すると、開いているふすまの外からおじいさんの声が聞こえた。見ると、手にはローストチキンが乗った皿を持っている。

「お、これってもしかして……?」

 隼人が期待のこもった声色で言う。

「そう、弘大が友達を連れてくるって言ってたから、クリスマスチキン、買ってきたのよ」

 するとおばあさんも入ってきて、そう説明してくれた。

「おお、ありがとうございます! 今年はクリスマスらしいものは食べられないと思ってました!」

 嬉しさでいっぱいだ。

「なんか、孫が五人一気に来たみたいで嬉しいわ~」

 おばあさんも嬉しそうに言う。

「そういえば、さっきからもう一人おばさんがいるけど、誰?」

 僕は利府くんのおじいさんとおばあさんの後ろにいる、もう一人の人影に気付いていた。

「あ、隣のおばさんだ! こんにちは」

 すると利府くんがあいさつをしたので、みんなで軽く会釈する。

「『弘大くんの友達の顔がみたい。クリスマスだしね』って言って、急に来ることになったのよ」

 おばあさんはそう説明した。「ご近所さんはみんな親戚」みたいな、田舎ならではの人のつながりは、やっぱりあったかくていい。


 夕飯の献立は、ご飯、ローストチキン、大根と魚の煮物、そして味噌汁だった。和食の中に、ひょっこりと「洋」の要素があるのが面白い。

「それじゃあ、乾杯!」

 おじいさんの掛け声で乾杯した。

「みんな、遠慮せずにどんどん食べてね。ご飯のおかわりはいっぱいかるから」

 おばあさんはにこにこと笑顔でそう言った。


「ところで弘大、この四人の友達とは、どういう付き合いって言ってたっけか……?」

 食べ始めて少ししてから、おじいさんが聞いた。

「同じ高校に通ってて、『鉄道同好会』っていうのを四人と作ったんだよ」

「じゃあみんな電車が好きなのか。よかったねぇ」

 おじいさんはふわりと笑って言った。うん、この柔らかい感じの雰囲気、やっぱり利府くんとよく似ている。

「みんな長野は初めて?」

 今度はおばあさんが聞いてきた。

「僕は初めてです」

 隼人が言う。確か、隼人と快志は長野県自体が初めてで、僕と佑ノ介は、この辺に来るのは初めてだったはずだ。

「来てみてどうだった?」

「自然が豊かで、癒されました。住んでみたいくらいです」

「そりゃあ良かったわ~」

「そういえば、一人だけ小っちゃいのがいるけど、あんただけ中学生かい?」

 だんだんとお酒に酔ってきたおじいさんが、僕のほうを見て冗談っぽく言った。

「いや立派な高校生ですよ!」

 僕は強めの口調で言った。

「でもほんとに可愛らしいわねぇ~。うちの子にしたいくらい」

 おばあさんにもそう言われた。あと十センチ身長がほしい。


 そういえば、さっきから快志が食欲を爆発させている。今までは、高校生にとっては少し高いものを食べてきたので、食欲が抑えられていたのだろうが、無料の食べ放題に来たようなものだ。抑えられていたものが一気に噴き出したのだろう。乾杯をしてから、おかわりを何回も狂ったように繰り返している。食べ盛りの高校生が来るということで、鍋いっぱいにご飯が炊いてあったが、快志はそれを空っぽにしてしまった。

「いっぱい食べたわね~。元気な証拠よ!」

「そうだ! 食う子は育つ!」

 おじいさんとおばあさんはそんな快志をベタ褒めしている。

「その割には身長も伸びないし、かと言って太りもしないんだよな……」

 隼人は快志を見つめながらそう言った。きっと、ものすごく代謝がいいのだろう。


「さあ、ケーキもあるわよ~」

 たくさん食べて大満足の状態で広間に座っていると、おばあさんは奥からケーキを持って現れた。

「え⁉ ケーキも買ってきてくれたんですか⁉ ありがとうございます!」

 これにはみんな大興奮だ。

「八等分でいいわよね」

 そう言って、おばあさんはケーキを包丁で八つに切り分けた。大きなケーキだったので、八等分でも十分に満足できた。

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