#6 課題・はじめての鉄旅 前編
そして週が明けて、月曜日になった。放課後、僕達五人は本宮先生のもとに向かった。
「本宮先生、五人揃いました!」
先生の顔が見えるとすぐに、僕は嬉しさ全開で言った。
「おお……、そうか!」
本宮先生は、喜びと驚きが混じったような顔をしている。
「いや~、よかったよ。なにせいつもあんまり目立たない二人だったから、人を集められるかどうか不安だったんだよ。」
「いや……、まあ、そうですね……」
僕は苦笑して頭を掻きながら答える。
「じゃあ、ここだと他の人の邪魔になっちゃうから、場所を移動しようか」
そう言って、先生は僕達を、自動販売機の横の長机があるスペースに案内した。先生の「ここだと他の人の邪魔になっちゃうから」という言葉が、人数が増えたことを実感させる。
長机を挟んで、先生と僕達は向かい合わせになって座った。先生は新しく来た三人のクラスと名前を聞いた後、今後のことについて話し始めた。
「これでちょうど五人だから、同好会を作るための条件は満たされたね。それで、次にやるのは、顧問の先生を探すってこと」
「顧問になってくれそうな先生はいるんですか?」
僕がそう聞くと、先生は顔を曇らせる。
「それが……、今この学校にいる先生は、全員がそれぞれ担当の部活を持っちゃってるんだよ」
「つまり……、顧問になる先生がいないってことですか……?」
佑ノ介が不安そうな顔で聞く。
「いや、その部活の代表の先生じゃなければ、その部活の担当をやめて、鉄道同好会の担当になることもできるよ」
「本宮先生じゃ、だめなんですか?」
「顧問になってあげたい気持ちは山々なんだけど、先生は卓球部の代表で、動けないんだよね……」
残念そうに言う。
「じゃあ、探すしかないんですね」
僕は言った。
「ただ……」
先生がなにやら難しそうな表情で言う。
「先生が動いてくれるって保証はないからなぁ……」
僕達は一気に不安になった。
「やっぱり、厳しいんですか?」
「君たちの場合、活動目的が『鉄道について語り合う』っていう、趣味に近いものだからね。そうすると、どうしても優先度が低くなっちゃうかもしれない……」
「そうですか……」
佑ノ介はしゅんとした様子で言う。先生の言っていることはよくわかるし、むしろ、こうなる可能性のほうが大きいだろうと予想はしていた。
「鉄道が好きな先生がいれば、喜んで引き受けてくれると思うんだけど、この学校の先生には、鉄道好きの人はいなかったと思うからなぁ……」
先生はそう続ける。しかし、僕はここで、佑ノ介と出会った時のことを思い出した。やはりまだ、諦めるには早い。
「先生」
「うん?」
「僕と佑ノ介は、最初、鉄道好き同士とは全く知りませんでした。でも、ある日柏駅の撮影地にお互いがいるのに気づいて、鉄道好き同士と知ったんです。
要は、実際に行動してみないと、自分たちが求めてる人がいるのかどうかって、分からないと思うんですよ。まだ諦めるのは早いと思います。だから先生、どうか、僕達のために顧問探しに協力していただけませんか?」
僕は思ったままのことを伝えた。
「君たちのその熱意には、感心したよ……」
少しの間ののち、先生は言った。
「その熱意を無駄にさせないために、先生も頑張ってみるとするかな」
先生は嬉しそうな顔をしていた。
「本当ですか⁉」
利府が前のめりになって言う。
「先生に、任せなさい」
そう言われた瞬間、辺りが一気に明るくなった気がした。
「ありがとうございます‼」
もう、感謝の気持ちでいっぱいだった。
「とりあえず、一週間待っててくれ。それで顧問の先生が見つからなかったら、なにか新しい方法を考えてみよう」
「分かりました。よろしくお願いします」
僕達は一礼すると、それぞれ帰りの支度をするべく教室に戻った。
顧問探しはひとまず本宮先生に任せ、その間に僕達は、仲を深める目的も兼ねて、具体的にどんな部にしていきたいかを話し合う。向こう一週間の方針は、とりあえずそんなところになった。
はずだったのだが……
「おっはよー」
「おはよう、じゃあそろそろ行こうか」
土曜日の朝八時、僕達は柏駅の改札前にいた。
なぜこうなったのか。それは、三日前に利府くんが、
「せっかく話し合いをするんなら、ひとの家に集まるより、大回り乗車でもしながらのほうがいいんじゃない? そのほうが気遣わなくて済むし、話も弾むだろうし」
と提案したからである。
実に利府くんらしい提案だが、これにはみんな賛成だった。というわけで、突如、大回り乗車に出かけることになったのである。
ちなみに行程は、柏→常磐線→
それにしても、このメンツで休日に集まるのは初めてのことだが、いつもお互いに制服姿でしか見ていないので、私服でいるのを見るとなんだか変な感じがする。
南柏までのきっぷを買い、改札を通る。まず乗車するのは、普通列車の高萩行きた。
415系のボックスシート車が来たので、僕達は空いているボックスシートを確保した。しかし、ここである問題が発生する。
「四人掛けだから、一人余るね……」
「確かに、どうするか……」
仕方なく、一人ずつ順番に立って、数駅ごとに交代で座るということにした。しかし、やはり何だか中途半端だ。
「でもさあ」
隼人が言う。
「もう土曜日だけど、まだ顧問の先生見つかってないわけじゃん。今から今後の鉄道研究部のことついて話し合っていくわけだけど、もし顧問の先生が見つからなかったら、どうするの?」
確かに、それは僕も不安だ。月曜日に顧問の先生が見つからなかったからといって、完全に顧問の先生が見つからなくなってしまうというわけではないが、もし本当に最後まで見つからなかったら、僕達の努力は無駄になってしまう。
「まあ、見つかると信じようよ。見つからなかったときのことは、そうなったときに考えよう」
隼人はやはり不安だという顔をしながらも、頷いた。
「そういえば、最初、鉄道研究部を作るために動き出したのは、友軌と白石って聞いたけど、最初に作ろうって言いだしたのはどっちなの?」
快志が聞いてきた。
「五月になる前くらいに、おれが鉄道研究部を作りたいって考えだして、それから鉄道好きの人を探してた。そしたら、中間テストが終わった後に佑ノ介と出会って、おれが佑ノ介に、一緒に鉄道研究部を作ろうって誘ったんだよ」
僕はそう説明した。
「じゃあ、最初に考え出したのは友軌ってことなんだね」
「うん」
「だったらさ、友軌が部長で良いと思うんだけど」
そう言ったのは隼人だった。見ると、他のみんなも賛成のようで、首を縦に振っている。部長を誰にするのかという話はあとでしようと思っていたが、これは僕に決定ということでいいだろう。
「じゃあ、そうさせてもらうね」
「よろしくな」
かなりあっさりと決まってしまった。
「なんか久しぶりに茨城に来たなあ」
と、佑ノ介がつぶやく。
土浦を過ぎると、車窓に筑波山が現れる。
「そういえば、白石ってカメラは何を使ってるの?」
快志が外の景色を眺めながら聞いた。
「キヤノンのEOS(イオス)7だよ。高校の入学祝いに、親に買ってもらった」
「奇遇だね~! おれもEOS7だよ!」
「えっ? ほんとに? なんだか嬉しいな~」
「やっぱりさ、視線入力は便利だよね~」
「え、そうかな……? おれは置きピンしちゃうから、あんま使わないかも」
「なるほどなぁ~」
「あのさあ、視線入力ってなに?」
僕は二人に聞いた。
「あ、友軌は知らないんだ」
佑ノ介は言う。
「EOS7には、フォーカスポイントが七つあるんだけど、自分の視線の特性をカメラに学習させて、ピントを合わせたいフォーカスポイントを見つめると、そこにピントを合わせてくれるんだよ。それが、視線入力AF」
「ふつう、フォーカスポイントを選ぶときには、ボタンを操作して選ぶでしょ? でも、視線入力だったらフォーカスポイントを見つめるだけだから、その手間が省けるってわけ」
快志が説明を加える。
「確かに便利かも。おれのカメラには付いてないの?」
「友軌のカメラって確か、EOS Kiss 5でしょ? だったらついてないね」
少し残念に思ったが、別に無くても不便というわけではないから、仕方ないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます