第24話

「さてと、内容はどうするかあ」

 今度は僕が切り出す。

「まあ、活動内容と活動場所を乗せて、あとは『来てください』的な文を載せればそれでいいと思う」

「そうだね。あとは活動日も。活動内容は、『会員どうしで、鉄道の楽しさ、面白さを語り合って、定期的に鉄道を使って旅に行く』っていういつもの文言でいいかな」

 僕が言うと、四人は賛成してくれた。

「活動場所だけど、北校舎の三階の……、ここは……鉄道同好会の部室ってことで書いちゃっていいんだよね……?」

「いいと思う。ここ、それ以外に名前無いし」

「活動日、まだ決めてなかったけど、どうする?」

 四人に聞く。

「基本的にはフリーでいいんじゃない? 放課後に時間があったら勝手に集まるみたいな」

「そうだね。同好会だし、そのくらいがちょうどいいのかな」

「旅の計画とか立てる時で、みんなで話し合いが必要だって時には、予定がない人は基本来るっていうことにすればいいと思う」

 利府くんが言った。

「それがベストか。基本緩いけど緩すぎないちょうどいいラインって感じでね」

 僕はメモをとりながら言った。

「で、活動内容とかいろいろ書いた下に、『興味のある人は、北校舎の三階の、鉄道同好会の部室へGO!』みたいなことを書けばいいと」

「いいじゃん!」

「じゃ、この内容でよろしく」

 そう言いながら、隼人にメモを渡した。

「了解。ええと、いつ頃までに作ってくればいい?」

「そうだなあ……。写真も必要だろうし、まあ今週の金曜くらいが理想。来週の月曜日くらいまでには作っておいてほしいかな」

 今日は火曜日である。

「OK。頑張る」

 

 木曜日、松川先生が時刻表を買ってきてくれた。

「おっ、ありがとうございます!」

「大切に使うんだぞ~」

 先生はそう言いながら、僕に時刻表を渡してくれた。

「もちろん大切にしますよ。僕達にとって、時刻表は聖書みたいなもんですから」

 一緒にいた利府くんが、前に僕が考えていたのと同じことを言った。時刻表は、一枚のページに折り目が付いてしまっただけでも悲しくなる。

 僕は、時刻表を部室の棚に置きに行った。時刻表は定期的に新しいものに替えるが、古いものも捨てずに棚に置いておくつもりだ。これは、のちの代までの決まり事にしようと思う。


 そして、同好会のポスターは金曜日に完成した。

「いや~、佑ノ介にカメラ貸してた割には早かったね~」

 僕は言った。

「いや、おれたち、水曜日はすぐに帰ったじゃん? あの後、佑ノ介とそのまま写真を撮りに行ったんだよ。それで、そのあと爆速で仕上げた」

 なるほど。本当に頼もしいやつだ。

「作ってるうちに迷っちゃってさ。三種類あるんだけど、どれがいい?」

 隼人はそう言いながら、クリアファイルからポスターを出した。

「おお~! 今回も相変わらず、クオリティーすごいね……」

 前回と同じく、色づかい、文字の配置ともによくできていて、とても見やすい。この短時間でこのレベルのものを三つも作ってくるなんて、とても僕にはできない芸当だ。

「左が、話し合いでできた書き方に一番忠実に作ったやつ。で、作ってるうちに、勧誘の文は上のほうに書いたほうが目立つんじゃね? って思い始めたから、真ん中のやつを作った。右のやつは、写真を多めに入れたバージョン」

 隼人はそう説明してくれる。

「それにしても今回の写真、めっちゃ綺麗だね」

 ポスターには、夕陽に照らされながら走る203系や103系。それに、夕暮れ時を走る野田線の写真が載っている。

「いや~、使い慣れないカメラだし、コンパクトカメラだから性能も良くないし、しかも夕方ときてるからね。シャッタースピードが上げられなくて困った。唯一の救いは、撮った写真がすぐに確認できたことかな」

「佑ノ介、何回かブチ切れかけてたもんな」

 隼人にそう言われると、佑ノ介は「あはは……」と苦笑いをした。状況が容易に想像できるから面白い。


 僕達は、どのポスターを使うか決めるために、三分間ポスターを眺めたあとに、一番いいと思ったものに手をあげることにした。

「じゃあ、票をとるよ」

 僕は四人に呼びかけた。

「左のやつがいい人」

 これは誰も手をあげなかった。

「真ん中のやつがいい人」

 隼人、快志、そして僕が手をあげた。

「佑ノ介と利府くんは、右のやつ?」

 二人は、「うん」と頷いた。

「そしたら、多数決で、真ん中のやつで決定だね」


 使うポスターが決まったので、僕と隼人は活動予定表とポスターを持って、生徒会室に向かった。生徒会室に行くのは、鉄道同好会の案を提出しに行った時以来だ。またあのオタク嫌いの水沢会長に合わなければならないのかと考えると少し憂鬱な気持ちになるが、生徒会役員の任期は今月いっぱいである。水沢会長や、優しく応対してくれた片岡さんに会うのはこれで最後になるかもしれないと思うと、少し寂しい気持ちにもなる。


 そんなことを考えているうちに、生徒会室の前に着いた。今回はドアをノックする役目を押し付けることなく、僕がドアをノックし、先に教室に入った。

「ああ……、君達か……。どうした……?」

 生徒会室には、生徒会長しかいなかった。無愛想な態度の極みでそう聞く。

「鉄道同好会として活動を始められることになったので、活動予定表を出しに来たのと……、あと、同好会のポスターを校内に貼らせてもらおうと思って」

「なるほど。じゃあとりあえず、活動予定表出して」

 僕は活動予定表をファイルから出した。会長はそっけない態度で、それを受け取る。

「これー、旅行の計画って書いてあるけど、どういうこと? 旅行には行かないわけ?」

 会長は怪訝そうな顔でそう聞く。

「ああ、それなんですけど、先生の都合で、同好会としては旅行に行かないってことになって……、それだと書くことがないので、『旅行の計画』って書きました」

「なるほど。ま、先生と相談したならいいのか。じゃ、これは生徒会で預かるね」

 会長はそう言うと、予定表をいったん横にはけた。

「で、ポスターは? どれ?」

 隼人はそう言われると、ポスターを机の上に置き、生徒会長に見せた。

「意外とやるなあ……」

 すると、会長の口からそんな言葉が漏れ出る。その直後我に返り、「いや……、なんでも……」と言ったが、僕はその一言を聞き逃さなかった。「これが鉄道オタクの実力ですよ……?」と、ニヤリと笑って言ってやった。生徒会長は返事もせずに黙っている。


「あのー、掲示させてもらってもいいですかね?」

 しばらく沈黙が続いたので、隼人が確認をとった。

「いいよ、貼って。掲示するなら、北校舎の階段の、二階と三階の間の踊り場のところと、鉄道同好会の部室の前にしてな」

「分かりました。では、これで」

 僕達はそう言って、椅子を立ってドアに向かって歩き出した。ドアを開けようとしたところで、「まあ、良かったじゃん」と、生徒会長が呟くように言った。

「え?」

 僕が聞き返そうとすると、会長は照れくさそうに目を逸らした。そして最後に、「鉄道同好会、楽しくやれよ」とこれも小声で言った。言い終わると、僕達が最初に来た時と同じように、そそくさと部屋の奥にある机に引っ込んでしまった。僕達は呆気にとられながら、「ありがとうございました」とだけ言って、場所を後にした。


「やっぱり、根はいい人だったんだね」

 僕は言った。

「前にあの女子にいろいろ言われてたから、それで反省したっていう可能性もあるけどな……」

 隼人は苦笑しながら言った。

「まあどちらにしろ、最後に『楽しくやれよ』って言ってくれたから良かったじゃん」

「ま、そうだな」

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