#49 意気投合!

 三連休が明けて、火曜日。放課後、佑ノ介は掃除があったので、僕だけ先に部室に向かった。

 部室の前に着き、中を覗く。すると、治也と七組の二人に混じって、なにやら見覚えのない男子生徒がいた。これはもしかして……?

「あ、友軌、新入会員!」

 僕に気がつくと、快志はそう言った。やっぱり思った通りだ。

「どーも、四組の船岡ふなおかしんです」

 彼はすぐにそう名乗った。

「よろしく」

 僕もそう声をかける。

「話してみたら、こいつも撮り鉄らしいよ。結構ガチめだから、佑ノ介と話が合うかも。おれも話したら面白かったし」

 快志はそう説明した。

「それはよさそうだな~」


「来たよ~」

 そんなふうに話していると、佑ノ介と隼人が同時にやってきた。

「いや~、行く途中に佑ノ介とばったり会ってね。一緒に来た」

「そうそう。ところで、もう一人いるのって誰?」

 佑ノ介が聞く。

「ああ、船岡くんっていうらしい」

 僕は二人に紹介した。

「ここで朗報、こいつ、撮り鉄らしいよ!」

 快志がそう言うと、佑ノ介の表情はパッと明るくなった。

「おお! それは最高! もしかして、結構いろいろ撮りに行ってる感じ?」

「ああ。普段から野田線の沿線でいろいろ撮ってるし、臨時とか試運転とか、検査入場とか廃車回送とかがあったら、絶対撮りに行くね。最近だったら、231の試運転も撮りに行ったし、103の廃車回送とか、まあ最近は置き換えが多いから、いろんなとこ飛び回ってるな。今度見せてやるよ。ああ、あとはあれもあった……」

 こんな感じで、彼は佑ノ介の問いかけに対してペラペラと喋り続けた。佑ノ介がかなりグイグイきたので、一瞬船岡くんが引いてしまうんじゃないかと心配だったが、どうやら真逆だったらしい。僕は途中まで話の内容を理解できたが、途中からだんだんと理解不能になってきた。そんな僕のことを置いて、佑ノ介は目をキラキラさせながら船岡くんの話に聞き入っていた。

「すごいね~、今度一緒に撮影旅行行こうよ!」

「ああ、いいよ。じゃあなに撮りに行くか……」

 なんだか、先週末の僕と状況が似ている。あの時の僕が今の佑ノ介だとしたら、今の僕はあの時の隼人だろう。


「そういえば、鉄研に入ろうと思ったきっかけって何?」

 話がひと段落してから、隼人が船岡くんに聞いた。

「十一月に鉄道同好会ができたって聞いてさ。まあいきなり入っても、まだ出来立てで大変そうだなって思ったし、キリもよくないから、三学期から入ることにした。今までは写真部やってたけど、二学期でやめてきたよ」

「ええ……、兼部すればよかったのに……」

 佑ノ介が残念そうに言う。

「だって、もともと鉄道写真が撮りたくて写真部入ったんだから、鉄道同好会入ったら、写真部にいる意味無くなるじゃん。忙しくなるだけだよ」

 淡々と言う。どうやら船岡くんは、かなり合理的な考え方をする性格らしい。

「でも、ありがとね。そんな真剣な思いで鉄研入ってきてくれて」

「まあね」

 僕が言うと、船岡くんは少し照れくさそうに返した。

「佑ノ介、どうよ、撮り鉄仲間が増えて」

 快志が言った。

「もう最高としか言いようがない……」

 彼はまさに「たまらない……」という感じの表情をしていた。


「そういえば、一月の二十五に、廃止されちゃう東横線の横浜~桜木町に、同好会のみんなで乗りに行くんだけど、船岡くんも行く?」

 少しして、佑ノ介が聞いた。

「ああ、ごめん。おれ、三十日に東横線乗りに行く予定なんだよ。で、二十五は用事があって空いてなくてさ……」

「そっか……、じゃあ、また次の機会だね」

 二人とも少し残念そうだった。

その日は、いつも通り五時半くらいまで活動をして、家に帰った。

(そうだ、東横線に乗りに行くのに、拓海も誘ったらどうだろう?)

 家に着いたあと、僕はふいにそんなことを思いついた。思いついたのなら実行に移すのがいいだろう。僕は早速メールで、

『1/25に、鉄道同好会のみんなと東横線に乗りに行くんだけど、拓海も来る?』

 と聞いてみた。

するとしばらくして、拓海から、『行こうかな』との返事。鉄研のメンバーと、拓海との鉄道旅。これは面白くなりそうだ。


「おれ、今週末も東横線乗りに行くから」

 次の日、僕は鉄研でみんなにそう話した。これも、昨日思いついたことだ。

「二週連続で行くのかよ……。お前最近ヤバいぞ……」

 いつもどおり隼人にそんなことを言われる。

「走行音録るんだよね?」

 治也が聞いてきた。

「そのとおり」

「一、 二往復?」

「いや、一日耐久だよ」

 すまし顔で答えた。

「はあ? 本気?」

 珍しく快志がそんな反応をする。

「これがラストチャンスだもん。やるっきゃないでしょ」

「いやちょっと待てMD何枚使うのそれ?」

 治也が慌てて聞いてきた。とても同業者らしい質問だ。

「うーん……、多少前後するだろうけど、八枚以上は使うんじゃないかなぁ、最低でも」

「ヤバすぎるってそれは……」

 音鉄同士なのに、治也にも引かれてしまった。まあ、発メロ鉄と走行音鉄では使うMDの枚数の桁が違うので、そうなるのも無理はない。

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