第4章
#27 とある秋の日
空は淡いオレンジ色に染まり始めている。西日に照らされた教室に、帰りのホームルームの終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
日直の号令がかかり、全員で「さようなら」とあいさつをすると、各々帰りの支度や部活に行く準備を始める。僕もリュックに必要な物を詰めて帰り支度をし、教室を出た。
「よし、鉄研行くか」
佑ノ介にそう声をかけ、彼と一緒に鉄道同好会の部室へ向かう。
これまで、この学校は勉強をするための場所でしかなかった。でも、これからは違う。鉄道同好会ができたことで、放課後の楽しみができた。そのことは、学校生活を送るうえで大きなモチベーションになっている。きっと、他の四人も同じだろう。
部室に入ると、すでに隼人が来ていた。
「おっ、隼人! 珍しいね、おれたちよりも早くホームルームが終わるなんて」
「今日は先生が出張でいなくてさ。他の先生がホームルームをしたから、めっちゃ早く終わったんだよ」
「なるほどね。そういうことか」
「早く終わりすぎてなんか変な気分だわ」
隼人は真顔で言った。
「なんだー、今日はおれらが一番最後か~」
隼人と話していると、利府くんと快志がやってきた。
「まあそんな日もあるよ」
佑ノ介が言う。
「じゃ、これで全員揃ったね」
僕は教室を見回してそう言った。
「だな」
「で、今日なんだけど、いま十一月の十日じゃん? そろそろ冬休みに行く鉄道旅の行き先と、行程を考え始めたいんだよね」
四人に言う。
「確かに、もうそんな時期か~。じゃ、今日はそれについてだな」
僕は黒板に、「冬休み 鉄道旅計画」と書いた。
「どこ行く?」
「二泊三日で行ける範囲がいいから……、甲信越とか、東北とか?」
「その辺だよな。寒そうだけど」
利府くんの提案を、黒板に書く。
「あとは北陸、寒いのが嫌だったら、東海とかでもいいよね」
確かに、冬の甲信越や東北、それに北陸などは極寒だろう。
「北陸いいね~」
利府くんが言った。そういえば前に、「鉄研ができたら、みんなで北陸に行きたい」と言っていた気がする。
「候補としてはこんなもんかな?」
「そうだね。出すぎても決めにくいし。じゃあ、今回もくじで決めちゃおっか」
北茨城に行った時以来、旅の行き先の候補が何か所かあるときは、くじで行き先を決めることにしている。人数が多ければ多数決で決めるのもいいが、五人だと、多数決をするにしては少なすぎるのだ。
「じゃあ、おれ裏紙取ってくるわ」
そう言って、僕は教室を出た。職員室の前に、自由に使っていい裏紙が置いてあるのだ。
紙を取ってきて教室に戻り、くじを作った。そのくじを空き箱の中に入れ、ワサワサとかき混ぜる。
「じゃ、利府くんが引いて」
ちょうど隣に利府くんがいたので、僕は彼にくじが入った箱を差し出した。
「あ、おれ……?」
利府くんは少しびっくりしながらも、くじを引いた。
「どうだった?」
「えー、行き先は……!」
利府くんはくじをちらっと見てから、僕が夏にやったのと同じように、テレビの司会のような口調でそう言った。
「甲信越になりました~!」
「おお~」
特にそれほどのことでもないのだが、利府くんの口調に乗せられて、謎の拍手が巻き起こった。僕の時は申し訳程度のリアクションだったのに、どうも面白くない。まあ、あの時は知り合ってからあまり時間が経っていない頃だったので、まだそこまでリアクションができるほど打ち解けていなかったというふうに解釈しておこう。ただ、実際はどうなのか……。
「じゃ、いつも通り計画タイムといきますか」
そんなふうに疑心暗鬼になっていると、快志が言った。利府くんが棚から時刻表を取り出す。
「とりあえず今日は、ざっくりとした行程だけ決めちゃおっか」
「そうだね」
「えーと、甲信越だから、中央本線で行くか、碓氷峠を越えて、軽井沢からしなの鉄道で行くかだよね。主に」
利府くんが言う。「主に」と言ったのは、鉄道マニアの場合、わざと他のマイナーな路線を経由して甲信越入りすることがあるからだろう。
「おれは松本城を見てみたいし、もし乗れたら飯山線とかも乗りたいなあ」
隼人が言った。
「
佑ノ介が言う。
「姨捨駅は一回行ったほうがいいよ~。あそこの景色は本当に最高だから」
利府くんが自慢げにそう言う。母方の祖父母が長野にいるという利府くんは、信州にはとても詳しいらしい。彼が勧めるなら間違いないだろう。
「じゃ、姨捨は決定だな」
「姨捨って、何線だっけ?」
快志が聞く。
「篠ノ井線」
「じゃあ、松本、姨捨、飯山線って行くなら、中央線から信州入りするのが良さそうだな」
「それがいいと思う」
その後、一泊目は松本、二泊目は長野に泊まることが決まった。一日目は、中央本線で松本に直行しても時間が余るので、夏に山梨に行った時に乗り損ねた、小海線に乗ることにした。二日目も、松本を観光した後すぐに姨捨に向かうと、列車の時刻がうまく合わなかったので、その前に大糸線にでも乗ろうかということになった。
「じゃ、細かいことはもう少し旅行が近づいてからにしようか」
「そうだね。日程が決まってからだな」
そんな感じで旅行の計画が進むなか、木曜日、隼人から気になる情報が入った。
「なんか、近いうちに231の増備が再開するらしいよ」
「え⁉ マジ?」
僕は驚いて言った。
「うん。ネットにあがってた」
「そっか……。103系もいつまでもつか分からないな……」
佑ノ介が寂しそうに言う。実は、常磐快速線のE231系の増備は、今年の四月以来されていなかった。しかし、いよいよ増備を再開する時期が来たらしい。
「あと何編成だったっけ? 103系」
隼人にたずねる。
「基本編成と付属編成が、残り六本ずつだったと思う」
「一月に走行音を収録しようと思ってたけど、それまでもつかなあ……」
「今まで増備されてた時期は、三週間に一本くらいのペースだったから、もつとは思うけど……。まあ、今のうちに録っといたほうがいいんじゃない? 置き換えのペースが速まるかもしれないし、数が減ると、収録もしにくくなるだろうし……」
「そうだよな……」
「とりあえず、すぐ収録に行って、一月になってまだ残ってるようだったら、もう一回録りに行ったら? 須賀川くんだったら、何回録りに行っても飽きないでしょ」
利府くんが言う。僕の性格をよくわかっている提案だ。
「そうだね。じゃあ、今週末にでも行こうかな」
「いやフットワーク軽っ!」
隼人はそう言いながら吹き出した。
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