第2章

第10話

 一学期が終わり、夏休みが始まった。

より五人の仲を深めるという目的も兼ねて、僕達は日帰りで鉄道旅に出かけることにした。


「で、どこ行こうか」

 佑ノ介の家に集まって、計画を練る。最近はここが、だんだん僕達の「たまり場」になってきている気がする。

 僕達が佑ノ介の家にお邪魔し始めた最初の頃は、佑ノ介にもともと友達があまりいなかったこともあって、佑ノ介の両親はとても驚いていた。しかし、今ではこの状況にも慣れたのか、特に佑ノ介のお母さんは、お菓子やジュースを持ってきてくれたりして、自然に接してくれるようになった。


「五人だから、18きっぷが使えるJR沿線がいいよね」

 僕がそう言うと、四人は賛成してくれた。

「東海道方面だと伊豆、静岡、名古屋。甲信越だと甲府、松本、長野。上越線方面だと越後湯沢。東北方面だと会津若松とか仙台。常磐線方面だと北茨城とか浜通りとかがあるね」

 利府くんが時刻表の路線図を見ながら、ざっと行き先をあげる。

「結構あるな……」

「正直言って、今言ったところ全部行きたい」

「これ決まんないよな……」

 そう言って、全員黙り込んでしまった。


「そうだ! くじ引きで決めようよ」

 そう言ったのは佑ノ介だった。

「あ、そっか! それならすぐ決まるな」

 他のみんなもそれに賛成する。メモ紙があったので、そこに一か所ずつ行き先を書いて二つに折った。さすがにくじ引き用の箱はなかったので、机の上に置いてあった筆箱の中身を全部出し、そこに紙を入れて混ぜてから引くことにした。

「誰が引く?」

 四人に聞く。

「ここは友軌でしょ」

 快志がそう言った。

「おれでいいの?」

「だって友軌が部長やるんでしょ? こういうのはやっぱ代表者がやんないと」

 確かにその通りかもしれない。他の三人も、「引いて」と言ってくれているので、ここは、行き先決定という重要な「任務」を、背負わせてもらうことにした。

「じゃあ、引くよ」

 そう言って、僕は筆箱の中に手を突っ込んだ。目をつぶり、少し大げさにその中で手をワサワサとやる。そして、一枚の紙を掴んで、取り出した。そこには、「北茨城」の文字。

「と、いうわけで、行き先は、北茨城に決定で~す!」

 僕はバラエティー番組の結果発表よろしく、四人に向かってそう言った。思ったより反応が鈍かったので、手振りでリアクションを求めると、少しの間が空いたあと、「おお~」という歓声と、申し訳程度の拍手が帰ってきた。なんだ、この中途半端な演出は。


「で、何したい?」

 そのあっさりとした空気のまま、隼人がそう言った。「完全にスベったな……」と、少しばかり悲しい気持ちになる。そんな中、利府くんは閉じていた時刻表を開いた。ひとくちに北茨城といっても、楽しみ方はいろいろある。日立周辺を観光してもいいし、水郡線に乗って袋田の滝に行くのもまたいい。少し足を延ばして福島の浜通りに行くこともできるし、いわきから磐越東線を使って郡山に抜けることもできる。ここからまた長くなりそうだ。


「浜通りとか気になるなあ。たまに草野行きとか久ノひさのはま行きとか見かけるし」

「確かに。仙台方面行くときはいつも素通りしちゃうけど、海とか綺麗そうだもんね」

「くじでは出なかったけど、その辺も行けない距離ではないから、行ってみるか」

「そうだね~。あと、日立電鉄とかも乗りたい」

 珍しく佑ノ介が、「撮りたい」ではなく「乗りたい」と言った。日立電鉄は、常北じょうほく太田おおた鮎川あゆかわ間の18.1キロを結ぶ、地方私鉄だ。

「日立電鉄は一回乗ったことあるよ。地方の小さなローカル電車って感じで、僕は好きかな」

 利府くんが言った。

大甕おおみかで乗り換えられるし、これも乗ろうか」

「だね」

「日立電鉄で常北太田まで行って、そこから水郡線に乗り換えて、袋田の滝に行ったら面白そう」

 そう言ったのは快志だ。

「それいいな~」

「じゃあ、まず浜通りのほうに行って、それから大甕まで戻って日立電鉄乗って、最後は袋田の滝に行くってのはどう?」

 僕はそう言った。四人は首を縦に振って、賛成してくれた。

「そしたら、日立周辺でお昼食ったらちょうど良さそうじゃん?」

「それだったら、大甕に『おさかなセンター』ってところがあるよ。海鮮丼とかが食べられる」

 利府くんが言った。

「ええめっちゃいいじゃんそれ!」

 僕は思わず叫んだ。よだれが出てきそうだ。

「じゃあ、お昼はそこで決まりだな」

 隼人がそう言う。

「そしたら、そんな感じで決まりかな」

「うん。OKだと思う」

 旅の計画はひとまず落ち着いたので、僕達はそれぞれ家に帰った。日にちは、八月の頭のどこか都合のいい日、ということになった。詳しい日取りなどは、メールなどでやり取りして決めればいいだろう。

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