#42 白熱! 夕食後の卓球大会

「ちょっと待っててね、今いいもの持ってくるから」

 ケーキを食べ終わって、この上ない幸福感を味わいながら広間でぐってりとしていると、おばあさんはそう言って、またなにやら部屋の外へ消えていった。

(食べ物だとしたら、もう食えないんだけどな……)

 そんなことを思いながら、おばあさんが戻ってくるのを待つ。しばらくすると、ガラガラと何かを持ってくる音が聞こえた。

「おお、卓球台だ!」

 隼人は一気にテンションを上げてそう言った。

「そうそう、お正月に親戚が集まると、みんなでやるんだよ。今から五人でやろっか」

 利府くんはそう言って立ち上がる。正直お腹がいっぱいで動くのは少々きついが、みんながやろうというのなら、もちろん僕も参加するつもりだ。

「よし、やろうぜ!」

 快志が声をあげた。

「おれ中学まで卓球部だったんだよね。よし、本気出すぞ~!」

 隼人もそう言って腕をぐるぐると回した。

「少しは手加減してよ~?」

 本気のスマッシュなんて喰らったらたまったもんじゃないだろう。同じように、バレー部のスパイクやサッカー部のシュートなんかも怖くてしょうがない。

「まあおれも久しぶりだから」

 隼人はそう言うが、言ったって僕も中学校の体育の授業以来だ。空いた期間的にはそう大差ないだろう。


 まずは僕と隼人でやることになった。まさか最初の相手が隼人とは不運なもんだ。

「回転かけるのとスマッシュはやめてよ?」

「えー、それじゃあ面白くないじゃん。まあ、最初だからいっか」

 隼人はあまり乗り気ではなさそうだが、まあ手加減はしてくれそうなのでひと安心だ。

「じゃあお先にサーブどうぞ。先に十一点とったほうが勝ちで。あ、デュースはなしね」

 隼人からボールを渡された。とりあえずサーブを打つ。しばらくラリーが続いた。しかし、しばらくして、隼人は絶妙なところにボールを打ってきた。

「いや今のは無理だよ……」

 思わずそんな言葉が漏れる。対する隼人は、「回転とかはかけてないよ?」と余裕の表情だ。

 その後もできる限り頑張ってみたが、結局隼人には勝てなかった。まあ、三点取れただけマシだろう。

 次に、利府くんと隼人でもやったが、同じような結果に終わった。


「次佑ノ介と友軌でやれよ」

 快志が言った。

「いやおれ卓球とか無理なんすけど……」

 佑ノ介が言う。彼は球技全般苦手だ。対して、快志は意地の悪そうな笑みを浮かべている。なんだか嫌な予感がする。

「まあ、とりあえずやろうよ」

とは感じながらも、僕は佑ノ介にそう言った。佑ノ介は、しばらく「でも……」と言ったりうめき声をあげたりしていたが、最終的には、「まあ、友軌となら……」と言って渋々引き受けてくれた。

 

まずは僕がサーブを打つ番だ。「行くよ」と合図をして打ち返しやすそうな軌道で打ったが、佑ノ介はラケットを思いっきり空振った。

「どんまい! 次頑張ろ!」

 すぐにフォローを入れてあげる。

 そして今度は佑ノ介がサーブを打った。しかし、ボールは思い切り手前に落ち、二回ほどバウンドしてネットを越えて、僕のほうにコロコロと転がってきた。快志がそれを見て大笑いしている。

「いや笑わないでくれる?」

 佑ノ介がキレ気味で言った。快志は「ごめんごめん」と言ったが、その後も顔を伏せたまま「くくっ……」と声をあげながら肩を震わせている。まったく反省している様子はない。やはり思った通りで、佑ノ介の下手な卓球を見て、面白がりたかっただけだろう。僕はそんな快志を思い切り睨みつけ、佑ノ介は軽い舌打ちを以てプレイを再開した。

 その後も佑ノ介にフォローを入れつつ試合を進めたが、結果は十一対四で僕の勝ちだった。佑ノ介が四点取れるなんてすごいじゃないかと思うかもしれないが、これは佑ノ介のプレイが上手かったからではない。佑ノ介のプレイがある意味予測不可能過ぎて、僕でも対応しきれない部分があったからだ。


 何回か試合をして、今度は快志と隼人の番になった。

「おれ自信あるから、ハンデなしでいいよ」

 快志は言う。

「お、いいね~。じゃあ、容赦なくいかせてもらうわ」

「来いやっ!」

 二人ともノリノリである。これは面白くなりそうだ。

 まずは快志が思い切り回転をかけて隼人の意表を突き、一点を先取した。僕達は歓声をあげる。しかし、これで隼人が怯むわけがない。そのあとすぐに同じように回転をかけて、同点に追いついた。しかしそのあとは快志が点を取りまくり、ついに十対五で快志の絶対優勢になった。

「行け~!」

 みんなして快志を応援する。しかし、ふと横を見ると、佑ノ介は「ミスって負けろミスって負けろ……」と呪いの呪文を唱えている。やはり、さっきの恨みがあるのだろうか。


そして……


 快志が強烈なスマッシュを放った。隼人は反応が遅れ、ボールを返すことができなかった。

「よっしゃあ! 勝った~!」

 快志は点が決まるや否や、そう声を上げて飛び上がった。

「クソぉ……。これは悔しすぎる……」

 対して、隼人はラケットを握りしめたまま卓球台に突っ伏している。そりゃあそうだ。元卓球部のプライドが台無しになってしまったのだから。


「なあ、三本勝負にしない?」

 そうしてしばらくすると、隼人は悔し紛れにそう言った。

「お、いいよ! やろうぜ!」

 快志も乗り気なので、そのまま二回戦が開幕することになった。面白くなってきたぞ……!

「よし……!」

 さっきまで楽しんでいる様子だった隼人だったが、ここにきて彼の目つきが変わった。どうやら、スイッチが入ったらしい。


 二ゲーム目は、序盤から隼人が快志を翻弄しまくった。どんどん快志から点を奪っていく。

「頑張れ~!」

 快志を応援するが、やはり隼人は強かった。あっという間にマッチポイントに迫り、十一対六で快志を負かしてしまった。

 

 ここまで引き分けだ。次は期待の三ゲーム目。と、ここで快志が眼鏡を取った。「いや、本気になったとはいっても、眼鏡取ったら見えなくね?」と思っていると、快志は取った眼鏡をせっせと拭き始めた。どうやら、気持ちを整えているらしい。


「よし、やろう」

 眼鏡を拭き終わると、快志は再び眼鏡をかけてラケットを持った。そして隼人も戦闘モードに入ったのち、快志はサーブを打つ。

 少しのラリーのあと、快志は一回戦の最後に打ったような強烈なスマッシュをまたもや放った。隼人はすかさず反応したが、ラケットをかすっただけで打ち返すことはできなかった。

「よしっ!」

 快志はそう言って小さくガッツポーズをする。

「いいぞ~快志ぃ!」

 ギャラリーもこの通りの盛り上がりだ。まあ、三人しかいないが。

 調子が出てきた快志は、その後も続けて点を取り、五対二で優勢となった。しかし、ここから隼人が猛反撃をする。快志が少し疲れてきたところを狙って、変化球の集中砲火を浴びせかけてきたのだ。あっという間に六対七に逆転してしまった。

「いや今までこんな球打って来なかったよな⁉」

 快志が驚きながら言う。

「これ楽しいわ。感覚戻って来た」

 そんな快志に対して、隼人はラケットをひょいひょいと振りながらそう言う。どうやら絶好調らしい。

 これは快志の劣勢か……? と思われた。しかし、快志も諦めない。意地で隼人に追い付き、両者マッチポイントになった。

「行け行け~!」

「マジでどっちも頑張れ~!」

 最後の一点は長かった。互いに色々な技を出し合い、試合は白熱した。夕飯後の遊びとは思えないくらい、盛り上がっている。

 

そして、ついに終わりの瞬間が来た。快志がボールを打って、一瞬油断しかけたその隙に、隼人が思いっきりスマッシュを放ったのだ。

「痛ってぇ……」

 よりによってその一発は快志の顔面に直撃した。

「ああ、ごめんごめん。まあ、これでおれの勝ちだな」

 隼人は笑って言った。

「うん。やっぱり本気出されたら無理だった」

 快志も悔しそうに笑って言う。

「いや、でもそっちもいいプレイできてたよ」

「お、ありがとう!」

 快志がそう言うと、二人はガッと熱い握手を交わした。肌寒い部屋の中でやったのに、二人とも汗ばんでいた。なお佑ノ介が、快志の顔面にボールが直撃したのを見て、「おれを馬鹿にしたバチだ」と吐き捨てるように呟いたのは、聞かなかったことにしておこう。


 そのあとは、チーム乗り鉄とチーム撮り鉄に分かれて戦ったりした。チーム撮り鉄には佑ノ介がいたので、チーム乗り鉄の圧勝だった。なんだか、佑ノ介がかわいそうになってきた。

 最後は、隼人が勝ちすぎてなんかムカつくということで、隼人とその他三人とで、三対一になって戦った。さすがに三人相手では隼人も無理らしく、隼人はボロ負けだった。


「いや~、めっちゃ楽しかった~!」

 快志が汗を拭きながら言った。ほんと、みんなもう一回風呂に入ったほうがいいんじゃないかというレベルだ。

「また利府の家に来たらやりたいな」

 隼人も言う。

「だね。じゃあ明日も早いし、今日はぼちぼち寝ようか」

 僕はそう呼び掛けた。みんなも、「そうだね」と言う。だが、寝るとは言ったものの、熱が冷めることはなく、僕達はその後もぺちゃくちゃ喋りながら起きていた。

 そんな中、おばあさんは洗濯物まで引き受けてくれた。本当に、至れり尽くせりで感謝しかない。


 結局、僕達は十二時半まで起きていた。六畳間に五人で布団を敷いて寝たので、林間学校みたいで楽しかった。しかし、隣で寝ていた快志の寝相が悪すぎて、何度も脚や腕が乗っかってきたのには困った。そのうちイライラしてきたので、布団の上から思い切り叩いたら、寝返りを打って落ち着いた。

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