第11話「それはもう十倍くらい」
さて。
あれから毎日、半田と登校することになった。
つまり。
「何故お前がいる?」
「あなたこそ、どうしているんですか?」
五十嵐と半田の睨み合いに毎日挟まれながら登校する羽目になっているということだ。
「さっさと行ったらどうだ? いつだったかは追尾がばれたと悟るや否や、逃げていたのだからな」
「あなたこそ、さっさと行ったらどうです? 咲原くん、中二病の方はご遠慮したいそうですよ?」
「それをお前が言うのか」
「それをあなたが訊きますか」
「ふふふふふふ」
「ほほほほほほ」
怖い。はっきり言って、逃げたい。でも俺が逃げたらことがややこしくなるということが数日前に実証されたのでこらえている。どこぞの誰かさんが毎日懲りずに送り込んでくる殺し屋の方が可愛く思えてくるくらいだ。
「大体、[偽りの
「役に立ちますよ! でなきゃ特派員なんかやれません」
「ふん、本人が実戦で動けるかどうかだな。でなきゃどんな便利な能力でも宝の持ち腐れというものだ」
「私の方が役に立ちますよ! あなたなんかより遥かにね。それはもう十倍くらい」
十倍──理想と現実の狭間をいくような微妙な数字だな。
「では見せてもらおうか、特派員の実力とやらを!」
何だか聞き覚えのあるような台詞を言い、五十嵐は立ち止まる。
「出てこい[
ずっとつけてきていた気配が立ち止まる。振り向くと血色の悪い痩せ細った男がいた。
「やるねぇ、お嬢ちゃん。能力なしにしては上出来だ。でも、よかったのかなぁ? 闇討ちの方がやりやすかったんじゃないの?」
「やろうと思えばとうにしているさ」
五十嵐が不敵に返すと、男は骸骨みたいながりがりの顔を歪めた。
「舐めんなよ、このアm」
「舐めているのはどちらだ?」
いつの間にか五十嵐は男の後ろに回っていて、左手を締め上げている。──速い。全然見えなかった。
「低級な罵倒の礼をしてやってもいいぞ?」
「ぐぅっ」
ミシミシと嫌な音がして、男が呻く。
「ま、こんな骨粗鬆症紛いの利き腕を折ったって何の自慢にもならんさ。そこでだ」
五十嵐が半田を見た。
「半田、こいつをお前の力で気絶させろ」
「えっ!?」
「なんだ、できぬのか?」
「やれますっ」
挑発に簡単に乗る半田。思ったより単細胞なんだと思いながら、一抹の不安を覚えた。
大丈夫だろうか。
半田は男に近づくと、空いていた右手を取り、思い切り握りしめた。そして目を閉じてふと呟く。
「うわ、あんた、ものすごい低体温ね」
「ほっとけ」
放たれた一言に俺は思わず、殺し屋の方に同意してしまう。心の底からどうでもいい情報だ。
「じゃ、上がるのと下がるのとどっちがいい?」
「はあ?」
「あんたに聞いてないわ。どっちが見たい? 五十嵐さん」
「うむ、難しいのはどちらだ?」
「こいつ、低体温だから下がる方」
「なら、下がる方で」
意味不明な会話を終えると半田は黙り込んだ。一分、二分と沈黙が続く。
最初に男の異変に気づいたのは、左手を締め上げていた五十嵐だった。
「……冷たい?」
見ると、元々の顔色のせいでわかりづらいが、男は先程より青ざめていた。
「なん、だ……? 寒い……? や、眠い……?」
「そりゃあね。さすがに眠くなってくれないとあんたただの化け物よ」
「どう、いう……」
「只今、三十度を切りました。人間の致死体温ですね」
「なっ」
がくり、と男は崩れた。
「死んだのか?」
五十嵐が訊ねる。そう訊きたくなるくらい、男の唇が紫に変わっていた。
「生きてますよ。こいつだって一応特能者ですし、保護しませんとね」
「最後のは
昔、どこかで一人の男の自由を奪い、目を塞いで痛みを与え、恐怖だけで人は死ぬのかという実験があった。それの応用だろう。
「うーん、どうでしょう? こいつ、気味悪いくらい低体温だったからなぁ」
半田の返答に何だかぞっとしたが、事なきを得たのでよしとしよう。
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