第12話「二人三脚に出ましょうよ!!」

 黒輝山学園はマイナーな私立校ながらもランクAの難関校である。そのため合格者の総数が毎年定員割れを引き起こしていて、全校人数がとても少ない。

 だからといって、イベントが少ないかというとそうでもない。むしろ二月に一回というかなりのハイペースで開催される。

 その最初のイベントが多種目競技混合体育大会というやたら名前の長いものだ。要するに、運動会だろ。何故、運動会のタイトルをもじる必要があったんだろうか。

 体育大会では生徒が五百人程しかいないというのを感じさせないほど多くの競技が盛り込まれ、かなりの盛り上がりを見せるという。

 ただし、先輩方によれば、生徒はその一日、地獄を見ることになるらしい……


「なあ、咲原は何に出るんだ?」

 放課後、ホームルーム後に体育大会の話し合いが出て、クラスが若干ざわめいていたところで、五十嵐が声をかけてきた。

「徒競走かな。あと千二百メートルマラソン。走るの得意ってわけじゃないけど、走り慣れてるし、何より個人競技だし」

「リレーはだめなのか?」

「無理。まず、タスキを受け取るって考えただけで手が震える」

 俺は対人恐怖症でその上コミュニケーション障害がある。コミュ障は軽度なんだけど、対人恐怖症の方は特定の人物以外はもうお話にならないくらい。

「だな。無理することはない。ただ──あと一種目は出なくてはならないぞ?」

「そうなんだよね……」

 一人三種目。これが体育大会出場ノルマである。多すぎる種目数と少なすぎる人数のためだ。なら種目数減らせよ、とツッコミを入れたい。

「ちなみに、五十嵐は何に出るんだ?」

「うむ、私はベストメンバーリレー、ハードル走、女子レスリング、イベント柔道エトセトラエトセトラ、かなり誘いが来ている」

「五十嵐はスポーツ万能だもんな」

「まあ、どれにするかはまだ明確には決めていないのだが」

「そーんなお二人におすすめの種目が!!」

 どこから湧いたのか、佐竹が出てきた。

「じゃーん!!」

 佐竹は一枚の紙っぺらを出した。

「「二人三脚に出ましょうよ……?」」

 思わずユニゾンになった俺と五十嵐の目の前に出された紙には確かにそう書いてあった。

「そう! なんだ、既に息ぴったりじゃねぇか!! まさに『二人三脚に出ましょうよ』!!」

 二人三脚、二人三脚……と俺は記憶を手繰りよせる。

「片足結わえて走るって、あれ?」

「そのとーりっ!! ルール覚えてんなら話が早い! お前ら出ろよ! これ、今年からの新興競技で人が集わねーんだよ」

「佐竹、俺が対人恐怖症なの、知ってるよな?」

「だからじゃねぇか! いい加減克服しろよ。俺ら高校生だぜ! それに」

 佐竹は下手くそなウインクの後、小声で言った。

「五十嵐となら、お前も大丈夫だろ?」

「え」

 五十嵐となら……?

 佐竹は「エントリー用紙とってくるぜ」と言い置いて消えた。人の話を聞け。俺は五十嵐を見た。何かを考え込んでいるようだ。

「うーむ、二人三脚か。果たして残りの種目との兼ね合いが可能だろうか。うーむ」

 一体いくつの種目に出るつもりなんだよ、と思いつつ、訊ねた。

「五十嵐、どうする?」

「ん、二人三脚か?」

「ああ」

「お前が出るのなら、構わない」

 意外とあっさりOKが出た。一体何を悩んでいたのか、いささか疑問だ。とりあえずこれで最低ノルマの三種目はクリアだ、とほっと胸を撫で下ろす。

 なんだかとても恨みがましい視線を感じた気がしたが、その正体が半田であることを知るのは少しあとの話だ。

 とにもかくにも俺と五十嵐は二人三脚にエントリーした。


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