第20話「大切にしろよ」

「五十嵐、右だ!」

「わかった。はあっ」

 俺たちは今、同調能力で[瞬間移動フラッシュジャンプ]の能力者らしき人物を探し出し、相手取っている。

 俺が同調で察知した位置を五十嵐に教え、それを元に五十嵐はその凄まじい直感で逃げ道に回り込む。自然とこんなコンビネーションを取っていたが、能力者を捕らえるには至っていない。

 けれど集中を掻き乱すには充分だった。[瞬間移動フラッシュジャンプ]も異空間ディメンジョン系の超能力で、射程はさして長くないが、文字通り瞬間移動する能力。自分のいる空間と目的地までの間の道のりをショートカットできるというものだが、対人ではなく空間同士を同調させる能力であるため、発動には並々ならぬ集中力がいる。

 それを利用して、まず[瞬間移動フラッシュジャンプ]を潰すことにした。別にダメージは与えなくていい。集中力を乱すだけで能力は充分に無効化できる。

 相手に捕まらないように立ち回るのは結構疲れたが、それは相手も同じ。要は体力勝負だ。

 体力勝負で負ける気はしない。俺はこれまで幾人もの殺し屋から逃げ延びているし、五十嵐は体力に底があるのかというところから疑問だ。

 決着はすぐについた。

 とさり。力尽きた[瞬間移動フラッシュジャンプ]の超能力者が倒れ伏す。五十嵐はそれを捕らえた。能力の使用過多のためか、気絶している。

 俺たちより幼い、小学生くらいに見える女の子だった。だぶだぶの服で体型はよくわからないが、袖から見える腕は折れてしまいそうなほどに細い。

 ぽとりとその手から落ちたボウガンを拾い上げ、五十嵐がぽつりと呟く。

「さっきの攻撃はやはりこいつからだったか」

「ああ」

 頷きながら、俺は同調能力にもう一人の人物が引っ掛かってきたのを感じた。

「マサッ!」

「ん?」

 建物の陰から唐突に現れた人物は、女の子と同い年くらいの子供だった。顔立ちが似ているので、兄弟だろうか、とぼんやり思った。

「[妨害者ストッパー]さん?」

 予測していた能力名を口にすると、びくん、と彼の肩が跳ねる。しかしそれだけで、彼は俺をぎっと睨み付けた。

 マサと呼ばれた彼女を助けにすぐ五十嵐に飛びかからない辺り、子供らしくない冷静さが垣間見え、少し苦いものを感じた。

「……この子、マサっていうんだ」

 俺は口の中の味を払拭するために、話題を振った。彼は険しい目付きをそのままに「だったらどうした?」と吐き捨てる。

「返してほしい?」

「当たり前だろ!」

 どこかテンプレートじみたやりとりに、なんだかやるせなくなってきた俺は、簡単に今の状況を打破するための言葉を口にした。

「じゃあ、君の名前を教えてくれ」

 彼は俺のあっさりした要求にきょとんとし、「わかった」と小さく頷いた。

「おれはマキ。マサは兄弟なんだ。返してくれ」

 ……俺は素直にマサを返した。

 そして、虚しい思いに囚われながら、[傀儡王パペットマスター]を発動させる。

「マキ、能力を解除し、その子とともに立ち去れ」

 直後、ふっと辺りの景色が揺らいだ気がした。マキはマサをおぶって、街の雑踏の中に消えていく。

 その背中を見送りながら、俺は口にせずにはいられなかった。

「マキ、その子を、大切にしろよ」


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