第20話「大切にしろよ」
「五十嵐、右だ!」
「わかった。はあっ」
俺たちは今、同調能力で[
俺が同調で察知した位置を五十嵐に教え、それを元に五十嵐はその凄まじい直感で逃げ道に回り込む。自然とこんなコンビネーションを取っていたが、能力者を捕らえるには至っていない。
けれど集中を掻き乱すには充分だった。[
それを利用して、まず[
相手に捕まらないように立ち回るのは結構疲れたが、それは相手も同じ。要は体力勝負だ。
体力勝負で負ける気はしない。俺はこれまで幾人もの殺し屋から逃げ延びているし、五十嵐は体力に底があるのかというところから疑問だ。
決着はすぐについた。
とさり。力尽きた[
俺たちより幼い、小学生くらいに見える女の子だった。だぶだぶの服で体型はよくわからないが、袖から見える腕は折れてしまいそうなほどに細い。
ぽとりとその手から落ちたボウガンを拾い上げ、五十嵐がぽつりと呟く。
「さっきの攻撃はやはりこいつからだったか」
「ああ」
頷きながら、俺は同調能力にもう一人の人物が引っ掛かってきたのを感じた。
「マサッ!」
「ん?」
建物の陰から唐突に現れた人物は、女の子と同い年くらいの子供だった。顔立ちが似ているので、兄弟だろうか、とぼんやり思った。
「[
予測していた能力名を口にすると、びくん、と彼の肩が跳ねる。しかしそれだけで、彼は俺をぎっと睨み付けた。
マサと呼ばれた彼女を助けにすぐ五十嵐に飛びかからない辺り、子供らしくない冷静さが垣間見え、少し苦いものを感じた。
「……この子、マサっていうんだ」
俺は口の中の味を払拭するために、話題を振った。彼は険しい目付きをそのままに「だったらどうした?」と吐き捨てる。
「返してほしい?」
「当たり前だろ!」
どこかテンプレートじみたやりとりに、なんだかやるせなくなってきた俺は、簡単に今の状況を打破するための言葉を口にした。
「じゃあ、君の名前を教えてくれ」
彼は俺のあっさりした要求にきょとんとし、「わかった」と小さく頷いた。
「おれはマキ。マサは兄弟なんだ。返してくれ」
……俺は素直にマサを返した。
そして、虚しい思いに囚われながら、[
「マキ、能力を解除し、その子とともに立ち去れ」
直後、ふっと辺りの景色が揺らいだ気がした。マキはマサをおぶって、街の雑踏の中に消えていく。
その背中を見送りながら、俺は口にせずにはいられなかった。
「マキ、その子を、大切にしろよ」
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