第21話「ゴール!!」
到着はかなりぎりぎりだった。
本番直前の練習時間はなくなり、もう競技の準備が始まっていた。佐竹に色々と文句を浴びせられたが、五十嵐と大急ぎで入場し、準備をした。
出場は八組。四組ずつ走り、それぞれの上位二組が決勝レースを走る。
一レース目に俺と五十嵐は走った。楽々の一位。ただ、二レース目の一位と二位のペアはどちらも徒競走やマラソン等で上位に入賞していた者たちだ。
でも俺は負ける気がしなかった。いや、負けたくなかった。
「いがr」
「咲原」
「……何?」
「勝つぞ」
先を越された。
でも、思いは同じだったからかまわない。
「ああ!」
決勝レースが始まった。
俺と五十嵐はぶっちぎりで一位だった。途中までは。
中盤地点で俺たちは躓いて転んだ。
すぐに立ち上がったが、既に二組に追い抜かれていた。幸い、前半のリードのおかげであまり差は広がっていない。まだ勝つチャンスはある。
「五十嵐、行けるか?」
「無論だ」
五十嵐が不敵に笑うと俺たちはペースアップした。会場にどよめきが起こる。残りは五十メートルほど。ここからペースアップしても希望はない。普通なら。でも俺は負ける気がしなかった。五十メートルもあれば充分だ。
まず一組目を抜く。この時点であと三十メートルほどだった。一位の組は二、三メートル先。十メートルほど走って、その差は一メートルほどにまで縮んだ。そこからは相手のペアも粘る。残りは十メートル。俺と五十嵐は歩幅を広げた。特に何の合図もない。けれど寸分違いもなく、同じ歩幅、同じ速さで。
残り五メートル。一位のペアと並んだ。隣のペアはまだ諦めていない。でも、俺たちは負けない──!!
「ゴール!!」
佐竹の声がやけに真に迫っていてらしくなかったのが、なんだか笑えた。
「咲原っ五十嵐っ……お前らすげぇよ! 感動した!!」
「佐竹、痛い」
「おう、すまん」
佐竹ははにかんで、ばしばしと俺の背中を叩いていた手を止める。
「……で、結局どっちが勝った?」
「わかんなかったか? お前らが優勝だよっ!」
しばし俺と五十嵐が沈黙した。走り終えたばかりで、いい具合に熱くなった頭がなかなかクールダウンせず、理解するのに時間を要する。
「……ゴールの瞬間の記憶がない」
「右に同じ」
「俺たちが優勝ってことは、俺たちが優勝ってことだよな」
「日本語としてものすごくおかしいが、間違ってはいないな」
「おいおいお前ら大丈夫かよ……」
佐竹が不安げな顔になる。が、直後には満面の笑みに戻り、言った。
「ついでに、紅組の優勝だぜ!」
それはついでなのか佐竹。
そんな考えがよぎったそのとき、後ろから何かが飛んでくる気配がして俺と五十嵐は伏せた。しかし、足が結ばれたままだったので、互いに頭をぶつけ、呻いた。
「「痛っ」」
「ふごっ!」
ちなみに飛来した物体は玉入れの玉のようで、見事に佐竹の顔面にヒットした。
振り向くと、半田がいた。一瞬舌打ちが聞こえた気がしたが、それ以上に笑顔が怖かったので忘れることにする。
「優勝おめでとうございます」
「ああ。……半田」
昼に一応世話になったことを思い出す。
「ありがとう、色々と」
「!!!」
半田は真っ赤になって後退る。それを見て五十嵐は半眼になり、低い声でツッコむ。
「……crown takerに懸想するなよ?」
「よ、余計なお世話ですっ!!」
半田が何故か逃げて行った後、俺と五十嵐は足を解いて保健室へ行った。
「先生……いないな。とりあえず五十嵐、足の傷洗ってこいよ。手当てくらいならできるから」
「ああ、すまない」
五十嵐が行っている間に俺は救急箱を用意した。
五十嵐の怪我は先程転んだときのものだけだ。他は特になかった。俺も目立って怪我はない。
今日も生きている。
五十嵐に出会うまではただ必死でそのことに何かを思う暇もなかったが、今は心の底から安堵している。
『友人というのは青春の宝だ』
ふと知実さんが言っていたことを思い出す。
確かに、そうかもしれない。
五十嵐が戻ってきたらちゃんと言おう。
ありがとう──と。
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