第53話「何がわかるっていうの?」

 五十嵐の苛立ちがひしひしと伝わってくる。ここにいるだけで怒られているような錯覚さえ覚える。それくらい、苛立っていた。

 まあ、今回の作戦で一番気苦労が絶えなかったのは五十嵐だからな。仕方ない。

 作戦の内容はこうだ。毎日、半田と同調し、強制力フォーシングをかける。けれど、強制力フォーシングによる半田の能力解除はせず、能力にアクセスするだけ。それを何日も何日も繰り返す。すると、半田の能力を強制力フォーシングで支配してくる側の強制力フォーシングが弱ってきて、アクセスし直すために、半田の元へやってくる、という寸法だ。

 読みは当たり、田辺美星は現れた。

「何故……」

「どうしてこのプロセスを思いついたか? それとも、どうしてこのプロセスを[知っていた]かかな?」

 美星は動揺しているようだった。

 超能力者の能力を操るなんてマッドサイエンスにも程がある。それゆえに半田と美星がいた組織は壊滅した。健一朗さん曰く、資料はほとんど残っておらず、大半が能力により燃やされた。

 燃やされた、となれば、当然物を燃やせる能力である[発火物スターター]の犯行だと推測できる。つまり、美星は全ての資料を燃やしたつもりだったのだろう。

 けれど、資料がその施設にだけあるとは限らない。

「最近では政府非公認ではあるものの、超能力研究のための[学会]が存在して、日夜超能力について研究しているんだ。その[学会]の会員の一人が佐倉知実といってね、俺の叔母なんだよ」

 懇切丁寧に説明しておく。佐倉知実という名に美星はぴくりと反応した。超能力研究者に知り合いでもいれば、知っていて当然だろう。

「資料は論文という別な形式だったけど、[学会]に存在したよ。えーと、[強制力フォーシングによる超能力の能力補助、もしくは使役]だったかな。人道的でないことも、論文にするくらいは許されるってわけ」

「……なるほどね、[傀儡王パペットマスター]が業界で厄介と言われるわけだわ」

 ちゃんと調べてはいないが、一組織を壊滅させたほどの超能力者だ。社会の暗部……例えば、暗殺業界などを知っていてもおかしくない。何なら暗殺者かもしれない。

「まあ、知実さんが高名な研究者じゃなきゃできなかったけど、ひとまず誘き出すのは成功だ」

 美星が不愉快そうに顔を歪める。

「誘き出したら何だ? ちゃんと調べたんなら、私が美月にかけた強制力フォーシングが完全には解けていないことも、わかっているんだろう?」

 そう、美星の言う通り、美星の束縛から半田が逃れられたわけではない。あくまで美星は半田と弱まった繋がりを繋ぎ直しに来ただけだ。

 だが、それを許してしまえば、半田はまた暴走状態のようになる。美星がそうなるように操ってしまうから。

「というわけで」

 俺は美星の前から退き、先程からずっとスタンバってる人を前に出した。

 五十嵐はぱきぱきと指を鳴らしていて絵面が物騒になっている。ここまで我慢してもらったので……

「あとは心置きなくどうぞ」

「ああ。[発火物スターター]、お前の相手は私だ」

「……は?」

 まあそうなるだろう。美星もわかっているはずだ。五十嵐が超能力者ではないことを。

 たぶん俺が[傀儡王パペットマスター]でどうにかするとか考えていたのだろう。だが、今回はここが[傀儡王パペットマスター]の使い所ではない。

「[王]の邪魔はさせない」

「生意気な……」

 美星の同調能力が発動し、[発火物スターター]を発動させようとしているのがわかった。

 が。

「なっ……火が、点かない……!?」

「生半可な覚悟しか持たんやつが私に敵うものか」

 予想はしてたけど五十嵐すげーな! マジで[発火物スターター]の発動止めよった。

 強制力フォーシング重視の能力なら、無意識でも強制力フォーシングを操れる五十嵐で充分なのでは、と作戦を立てたが五十嵐すげーな。

 本当にやるとは思っていなかった。

 さて、俺も呆けているわけにはいかない。俺は俺の役目を果たさないと……

「あんたに……」

 おっと。

 五十嵐の煽りがよく効いたようで、熱気が伝わってくる。

「何がわかるっていうの?」

「五十嵐!!」

 俺と五十嵐の間に炎が生まれ、五十嵐の姿が見えなくなる。

「構うな、咲原!! 半田のところへ行け!!」

 無事のようだ。

「ああ、行ってくる」

 無事でいろよ。

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