第30話「物騒ですね、この街も」
佐竹と通学なんていつ以来だろうか。
「なんか悪いな、咲原。俺倒れてたって?」
「ん、まあ」
佐竹にはそういう風に伝えておいた。[
それに、先程の[
[
それと、これで一つわかったことがある。[
普通の通学路に戻った俺たちが歩いていると、後ろから声がかかった。
「おはよう、咲原くん、佐竹くん」
「おう、倉伊」
佐竹もいつの間に友達になったのか、気安く声をかけているが金髪碧眼の麗人は眩しい。日本に慣れているからか、対人経験が極端に少ないからか、俺は佐竹のようにすぐに答えられなかった。
倉伊はイギリス人と日本人のハーフで、日本に来るにあたって、日本語をある程度勉強したらしい。だから、見た目に反して日本語ペラペラだ。ただ、まだ基礎的な日本語しか知らない様子。現代語とか若者言葉とか言われるものにはまだ疎いらしい。
「そういや、物騒なニュースあったよな。俺襲われたの、案外その犯人だったりして」
「え、佐竹くん、襲われたんですか?」
「よくわかんねぇけど、咲原が倒れてるところを見つけたって。それより朝刊見たかよ」
朝刊の話ならナウい。
「あれだろ、三人の男の変死体」
「そうそれ」
殺された三人、昨日俺が会っているんだけどな。そういえば、五十嵐が事情聴取受けているんだっけ。
「物騒ですね、この街も」
倉伊の言葉に俺は頷く。殺人がどうの飲酒運転がどうの、景気のいい話の方が少ないが、自分の身の周りでなければ所詮は他人事なのだ。まあ、当事者でなければ全ては他人事なのだろうが、身近で殺人が起こると、物騒だなとか怖いなとかは思う。暗殺者からいつも追い回されているのはさておき。
「五十嵐が参考人らしいってのは聞いたけど、五十嵐は絶対犯人じゃないだろ」
佐竹が珍しくまともなことを言うものだから、ついつい引き込まれる。
「ほう、その心は?」
「五十嵐は中二病だが、厨二病ではねぇからな」
発音だけでは全くわからんが、言いたいことはわかる。
倉伊が首をこてんと傾げた。項で結ばれた金の尻尾がさらりと揺れる。
「ちゅーにびょーにも種類があるんですか」
「ああ。日本語は奥が深いからな」
それで日本語の奥深さを語るのもどうかと思うが、まあ、日本語というより現代語だ。佐竹がテキトーなことを吹き込まないうちに説明しておく。
「倉伊、この二つの[ちゅーにびょー]っていうのは漢字での書き方が違うんだ。
片方は中学二年生で中二病。まあ、中学二年生くらいのなんかよくわからない言葉のかっこよさとか設定とかに溺れることを指す。
もう片方は厨房の厨と書いて厨二病だ。中学二年生との大きな違いは、その重症度かな。厨二病はあまり好かれない。人様に迷惑をかけることがあるからな」
説明をふむふむと聞いていた倉伊が、ふと切なげな表情になる。
「人に迷惑をかけるのは、よくないですね」
ごもっともだ。
「確かに、そういう点で言ったら、五十嵐さんは人に迷惑をかける感じの人ではありませんからね」
「どちらかっつーと、人を助ける方が多いんじゃないか?」
危うく口を滑らせるところだったが、昨日俺が五十嵐に助けられたのは事実だ。それ以前にも、五十嵐には色々と助けられていて、俺はある程度の信頼を置いている。
──佐竹に言われた「好きなんだな」という言葉を否定できない程度には友達やってる。
さて、もしかして、流れで俺が警察さんの御厄介になるかもしれないけれど、そんなことより、俺は警戒しなければならないことがある。
[
先程、倉伊の発言で一つ引っ掛かるところがあった。
倉伊は変死体の事件の話が出たとき「物騒ですね、この街
できたばかりの友達を疑うのもどうかと思うが、知実さんによれば、[
[
倉伊がこの街に来たのと、[
でも、接近するために同じ学校に入るというのはありがちだが、手っ取り早い。……友達になろう、なんて言ってしまったが。
俯いて、そんなことを考えながら、俺は登校した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます