第29話「冗談だろ?」
俺は力なく笑う。
「嘘だろ、冗談だろ? いつもみたいなさ。そうやって俺を茶化したいだけだろ? なあ、佐竹」
俺の言葉は虚しく響く。佐竹はほとんど無表情で、俺に答える様子はない。冗談だ、といつものように笑ってはくれない。
カッターナイフを見る限り、殺すつもりはないのは確かだ。切り裂くにしてはボロいカッターだし、目に殺気がない。殺気はないが、害意はあるのだろう。ただ、その害意も感じられない。だからといって、冗談と言ってくれるわけでもなさそうだ。
無表情ながらに、本気であることは伝わってくる。
だが、しっかり目を合わせてくるわけではない。これは俺の能力対策といったところか。佐竹には何度も食らわせているから、知っていてもおかしくない。
だが何故佐竹が、俺を暗殺するようなことに? 佐竹は超能力者でもなければ、怪しげな組織のエージェントというわけでもないだろう。ごくごく普通の高校生のはずだ。
それとも、俺が気づかなかっただけで、佐竹は密かに秘密結社の一員にでもなっていたのだろうか。俺の能力を教えたのは浅はかだっただろうか。
「静かにしろ。声を上げようものなら首を掻き切る。だが、クライアントから、なるべく無傷でと頼まれている。……しかし、最悪生きていればそれでいいとのことだ」
「馬鹿を言え、喉なんか裂いたら、俺の能力は使えなくなるぞ」
交渉してみるが、鼻で笑われた。佐竹とこんな会話なんてしたことがなくて、違和感ばりばりだが。
佐竹は淡々と続ける。
「超能力はお前の[
肌が粟立つ。今日の佐竹は冴えている。逆に俺が何故気づかなかったか疑問を抱くほど冷静だ。
……待て、つまり俺が冷静じゃないということか。冷静になろう。
今までのやりとりで佐竹に多大な違和感を覚えた。それは佐竹が俺の超能力云々の話を中二病の一言で片付けてきたからではない。
超能力を信じていない佐竹が、超能力なんて言葉を使うだろうか? どういう能力がある、とか、クライアントとか、それこそ中二感満載である。その口で人を中二病とは、全く、どの口が言うのか。
……と、問題はそんなところではない。深くもない付き合いだが、腐れ縁だ。五年以上の付き合いがあれば、だいたい相手にどういう言動傾向があるかくらいわかる。俺の直感が訴える。ここまで冷静に俺につらつらと脅しをかけてきているのは、
佐竹が超能力を信じていないというのもあるが、落ち着いてみると、おかしなことがある。
知実さんの発明品、カロンはよく飽きもせず、俺にくっついている。今まで存在を忘れるほどにカロンは静かだった。……つまり、超能力者が近づいているという警告音を鳴らしていない。目の前に佐竹という敵がいるというのに。
佐竹が超能力者じゃないことは、誰より俺が知っている。佐竹に躊躇いなく能力を使う俺だが、それは佐竹が一切抵抗してこないからだ。超能力者なら、同調にぶれが生じたり、
それなのに、佐竹が[
そこから導き出される結論は一つ。
「──[
静かに結論を告げる。佐竹に動揺は見られない。だが、波長の揺れまでは誤魔化すことはできない。無能力者である佐竹の波長が揺れるのはおかしい、という帰納的推理によって、佐竹が能力者に取り憑かれている、という結論に辿り着く。
[
「佐竹、俺から離れろ」
その隙に俺は佐竹に同調し、[
そして、おそらく[
使役系の超能力である[
故に、俺がどれだけ躊躇おうと、その
以前、知実さんに指摘された、
佐竹は糸の切れた人形のように、俺から離れて、がっくりと倒れる。
俺は危機から脱すると、ふう、と深く息を吐いた。一か八かではあったが、賭けには勝ったようだ。佐竹との今までの全てが否定されなくてよかった。
「おい、佐竹」
ぺちぺちと頬を叩いて起こす。あと五分などと宣うので、俺は二度目の[
「起きろ、佐竹明宏!!」
直後に跳ね上げられたように起き上がった佐竹が面白くて、動揺している佐竹をよそにくすくす笑ってしまった。
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