第25話「ずっと思ってたんだけど」
ブーン、ブーン。
……なんだろう? これは。さっきからバイブ音がすごい鳴っているんだけど。肩口で。
いや、心当たりはある。ありすぎる。けれど、これはないと思う。
「これが
知実さんが言っていた超能力者接近の警告音、だと思う。いや、カロンに搭載された機能だっていうのは聞いてたけど、まさかこんなに虫っぽい音が出るとは思ってなかったよ? さすがというか何というか。知実さん、センスがどうかしている。
バイブレーションっていうのは蜂の羽音のことを言うらしいから危機意識を持たせるにはかなりいい代物なのかもしれないけどね、羽虫に蜂の羽音つけてどうするのさ?
人間的には全然警告音っぽくないよ!
とはいえ、暗殺者だか何だかが接近してきているのは確か。俺が感じるだけで三人。ってか多くね?
……あー、もしかしてあれか、この小さな振動は他者に聞かれないようにするためなのか。気づいていることに気づかれないようにする、と。随分気端の回った機能である。呆れた。
俺は足早に、五十嵐の家へ向かう。学校とは反対方面なのだが。
五十嵐に電話したところ、今日は家に来てほしい、と。というか、昨日友達になった倉伊の家っていうのが、五十嵐の家の方が近いらしいんだよね。倉伊ん家ってどういうとこなんだろうって気になりはするけど、昨日知り合ったばっかりでいきなりお宅訪問するのもな。初めての友達だから、距離感測るの難しい。
まあ、知り合ったばっかで自宅に突撃した五十嵐とかいるけどな。まあ、あいつは論外だ。
そういえば、友達を家に招いたことってあんまないかもしれない。招いたっていうより、押し掛けられたことの方が最近は多いな。何か対策を立てなければ。……まあ、五十嵐と半田は無害だから別に警戒する必要がないんだけど。
ああだこうだ考えていると、五十嵐の家が見えてきた。そこにちらちらと五十嵐家の門と家を確認する制服姿の金髪碧眼の少年がいた。男子制服じゃなければ少女でも通っていたかもしれないそいつは間違いなく、倉伊だった。
「よ、倉伊」
「あ、咲原くん」
俺が寄っていくと倉伊が門を指差す。正確には、表札を指差していた。そこには立派な筆文字で「五十嵐」の三文字が並んでいる。
表札がどうかしたのだろうか、と思っていると、倉伊はぼんやりした表情で呟く。
「これ、
案内されたのか。あれだけフレンドリーな五十嵐ならあり得なくはない。
ただ、倉伊の質問に思わず笑ってしまった。日本人でも一度はぶつかる疑問だろう。
あの黒輝山学園に満点入学したやつがこんな初歩的なことがわからないのが何かとても微笑ましかった。俺は告げる。
「
「えっ、そうなんですか?」
倉伊が目を丸くするものだから、笑ってしまう。五十嵐を「ごじゅうあらし」と読むのは誰もが一度は通る道だ。日本語ぺらぺらなこいつが間違うとは思ってなかったが。
となると、表札とにらめっこして呼び鈴を押していない可能性がある。俺はインターホンを押した。「はぁい」と華やいだ声が聞こえる。今日も三十越えてるとは思えないくらい若々しい、五十嵐の母の声だ。五十嵐と似た美人さんである。そういえば、五十嵐の父親というのに会ったことがないな、と思うが、まあ、所詮友達だ。そんなに踏み込む必要もないだろう。
俺が咲原です、と名乗ると、舞華を呼ぶわね、と言った。
やりとりを終えると、倉伊が訊ねてくる。
「今のは?」
「五十嵐の母さん。一回だけ会ったことあるけど、五十嵐にくりそつ」
「くりそつ?」
「あ、そっくりって意味ね」
日本語って難しい、と思った瞬間だった。チャラ男な腐れ縁の佐竹の口調が少しずつ移りつつある。改めねば。
「栗が卒業するのかと思った」
むしろその発想の柔軟性を俺は評価したい。
なんて馬鹿なことを考えていると、バタバタと五十嵐が出てきた。いつもは迎えに来てもらっているので、五十嵐がバタバタと忙しない様子だと少し違和感がある。
玄関から五十嵐の母が覗いていた。
「あらあら、両手に花ね」
「それ男が言うやつだから!」
顔を真っ赤にし、ツッコミを炸裂させる五十嵐など、そうそう見られるものじゃない。がっちりと目に焼き付けておこう。
赤面状態の五十嵐が少し乱雑な口調で「行くぞ」と出てくる。五十嵐が母親に翻弄されているのを見るのは面白かったが、五十嵐に恨まれても快くない。それに学校には早く着きたいので、歩き始めた。
ふと、五十嵐が俺の方に寄ってくる。
それからこっそりと、
「その肩についてるやつなんだ?」
と聞いてきた。倉伊もいるので小声だ。
「知実さんの発明品だよ」
「ふむ」
というか、これに気づくとは。
「ずっと思ってたんだけど」
「なんだ?」
倉伊の耳に届かないように更に声をひそめる。
「お前、本当は超能力者じゃねぇの?」
すると、五十嵐は肩を竦めた。
「私に定められているのはcrown takerを守るという[
後ろの方から「中二乙」と笑う佐竹の声が聞こえた。耳いいな。
とりあえず、佐竹をひっぱたいて、四人での登校となった。
そういえば、いつの間にかカロンの警告音が止んでいた。五十嵐効果でもあったんだろうか。
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