第3話「何が面白いんですか」
珍客──佐竹が前に言っていた。俺のところを訪ねてくる客を総称してそう呼ぶんだ、と。あのときはからかわれていることがわかっていたので怒ったが、今は全面的に同意する。今、俺の目の前にいる女の子を珍客以外の何と呼んだらいいのか、わかる人がいたら教えてほしい。
珍客ポイントその一。初対面なのに俺の名前を知っている。
珍客ポイントその二。女の子。
珍客ポイントその三。この子は間違いなく超能力者だ。
「咲原に用か?」
「はい。……あなたは誰です?」
珍客ポイントその四。俺を知っているのに五十嵐を知らない。学年主席入学者なんて、目立つだろうに。
「それで、あの、込み入った話なので、席を外してもらえませんか?」
「む? 私がいると問題があるのか?」
「秘匿事項なので無関係の人間には話したくないのです」
秘匿事項、という怪しげな言葉に頭が凍りついた。──しまった、この子も中二か!
「無関係ではないぞ。私はこのcrown taker咲原 唯人を守る定めの下に生まれた[
「何をっ、特能者でもないくせに偉そうに!」
「超能力者が偉いのか? それは断じて違うな。能力の有無に関わらず、人は平等だ!」
「あらあら矛盾していますわ! それでは咲原くんをcrown takerと呼んで特別扱いしているあなたは何ですの?」
「crown takerは能力者の呼称だ! それで咲原の身分をどーのこーのと言っているわけではない!!」
「ほうほう、それでは私もcrown takerということになりますねぇ」
「何!?」
第三者からすれば不毛すぎる論争が、ここで一旦止まった。
「おい、お前もcrown takerだと!? どういうことだ!?」
「あ、えっと、その……」
五十嵐の優勢に変わる。半田は五十嵐の勢いに飲まれて戸惑い顔だ。おそらく言い過ぎたというのもあって口をつぐんでいるのだろう。
「そのくらいにしてやったら? 五十嵐」
「咲原」
「ここ図書室だし、静かにしないと」
「うむ、そうだな」
「半田も、諦めてここで話しなよ」
「……はい」
一転してしょんぼりする半田の様子がおかしく思えて、つい笑ってしまった。
「何が面白いんですか」
「いや、何でもない。それで、話って?」
「まず、改めて自己紹介します。私は特能者保護組織[WHAT]に所属しています、半田美月と申します」
「特能者保護組織?」
「[WHAT]とは面白い名だな」
半田によると、超能力者=特能者で、秘密裏に組織された非営利組織らしい。特能者の育成、保護を行っているのだという。
「咲原くんの[
つまり、組織への勧誘ということか。
「私たちに加わってくだされば、能力向上だって望めますし、身の安全だって仲間たちが守ってくれます。どうです?」
この話を聞いて、俺の中にあったのは多種多様ながらも結果的には一つの感情──恐怖だった。
「ごめん、無理」
即答。半田がええっ!? と驚きの声を上げる。俺は理由を続けた。
「俺、コミュ障に対人恐怖。人が多いとこ、知らない人と話すの、無理。あと、能力向上は、足りてるから」
「足りてるってどういう……?」
「足りてるったら足りてるんだ!!」
俺の脳裏に浮かんだ人物に、一瞬背筋に悪寒が走る。
私の研究を差し置いて、そんなどこの馬の骨ともわからん連中についていくのか。失望したよ。……ん? 押し売りされた? ならばお前には断れまい。それはどこのどいつだ? 私が少々灸を据えてやろう──なんて、あの人が言う姿が何故だろう、明瞭に浮かぶ。
駄目だ。あの人に会わせちゃいけない。
「か、帰る。もうなんかやだ。うん、帰るよ」
「ちょ、咲原くん!?」
「帰るったら帰るんだーーー!!」
今の俺の声が、今日の図書室の中で一番うるさかったかもしれない……
「五十嵐、どこまでついてくる気だ?」
「うむ、今日はそっちの方に用があるのでな。ついでにお前の家にも寄らせてくれないか?」
「……あの人が許すかなぁ……?」
俺の保護者は、かなり難儀な人だ。
「そこは私の交渉術の見せどころだろう」
案外、大丈夫かもしれない。
「ところでお前の家の家族構成はどうなっておるのだ?」
「俺と、叔母さんが一人」
「父母兄弟は?」
「いない。──あそこだ」
五十嵐の問いをばっさり切り捨てたところで、ちょうど我が家が見えてきた。
俺の家はすぐにわかる。
何故なら、白衣の叔母が悠然と家の前で待ち構えているからだ。
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