多種目競技混合体育大会
第7話「スミにおけねぇなぁっ!」
俺、咲原唯人は超能力者である。
能力は[
俺は叔母と二人暮らしだ。
叔母の名は佐倉知実。超能力者を研究している科学者で、俺はその面においてもものすごくお世話になっている。少し電波なところに若干のコミュ障を感じないでもないが、俺も人のことは言えないので放っておくことにしている。
「なあ、甥よ」
知実さんは俺を甥と呼ぶ。
「お前はまだ同調能力の扱いに躊躇いがあるな」
知実さんにとって俺は近親の研究対象程度の存在のはずなのだ。
しかし、知実さんは俺の周囲の環境を気にかけてくれる。心配してくれている。
「お前が他人と接するのを嫌っているのはわかるが、能力向上には同調能力のコントロールが必須だ。少しは心を開いたらどうだ?」
同調能力は超能力者が能力使用の際には欠かせない補助能力だ。人間を始め、動物、植物、果ては無生物でさえ、必ず持っている[波長]というものがある。超能力者はこの波長に同調することで、自らの能力を発動できるのだ。
「まあ、お前は両親のこともあるからな。無理にとは言わんさ。だが──友人ができたのだろう?」
「…………」
「五十嵐舞華、それに、佐竹とかいう阿呆もいたな」
「別に、友達ってわけじゃ」
「だが、その二人とは普通に話せているのだろう?」
否定はできない。
「特に五十嵐とはな。友人というのは青春の宝だ。私は嬉しいのだよ。お前の能力云々は抜きにしても」
本当かどうかはわからない。同調すれば簡単に知実さんの思いの真偽は見抜ける。けれど俺は、家では同調能力を使わない。対象が知実さんしかいないからだ。俺は家族に対して力を使いたくないのだ。たとえ、誤ってのことだとしても。
人の心を知るのは怖いのだ──
学校。
「よぉ、中二病!」
佐竹が後ろから声をかけてきた。
「その呼び方やめろって」
「照れんなってーの! ったくよぉ」
「痛っ」
ばしん、と背中を叩かれた。「痛っ」と言いはしたものの、それは反射で、実のところ、あまり痛くはない。しかし意図はわからない。
「スミにおけねぇなぁっ!」
「なんのことだよ」
にやにやしながら、また惚けちゃって、と楽しげに佐竹が答える。
「決まってんだろ。五十嵐と四組の半田のことだよ」
「はあ?」
「五十嵐とは一緒に登校してるしよぉ、半田はお前にぞっこんじゃねぇか! くーっ、羨ましいぜっ」
……どの辺が?
がっつり中二の五十嵐と、何か残念な超能力者、半田。この二人が揃うと箸が転んでも喧嘩するという残念仕様のおまけつき。
それに絡まれて俺は結構疲れているんだが?
佐竹は尚も喋り倒す。
「それにこのあいだはハンバーガーショップで二人に奢ってやったって? 心憎いぞ、お前。どっちか一人にしろよな!」
「……佐竹」
ぐ、と自然、拳が固まる。殴らないけれど。
「ん、なんだ?」
「まさか、あのときもストーキングしてたのか」
「まあな」
お前、学校はどうしたんだとか、そんなことはどうでもいい。些末なことだ。
俺は一つの決意というか、揺るがぬ感情を胸に、低く、その名を呼んだ。
「佐竹
「どした? 改まって」
「ストーカー野郎はずっと廊下に立っていやがれ!!」
耳元で叫んでやった。能力も躊躇なく発動。
佐竹は即座に席を立ち、すたすたと廊下へ出て行った。
佐竹は小学校の頃からの腐れ縁だ。一言で言うなら普通の人間。学力的にはこの黒輝山に入学していることからもわかるとおり、優秀な部類だ。だが、行動や言動に関しては馬鹿だ。デリカシーが中途半端なんだ。けれど──そういうやつだからこそ、俺は平気で能力を使えるのかもしれない。
同調するということはその人物の心を知るということ。どんなに嫌でも、超能力者である以上、それは避けられない。
佐竹はああ見えて、俺という存在にさして頓着していないのだ。だから俺も何も気に病むことなく同調できる。
それは友達ではないだろう。せいぜいただのクラスメイトだ。
五十嵐は……よくわからない。
今はまだ。
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