第5話「ストーカーが多すぎるな」
「ストーカーが多すぎるな」
五十嵐が登校中に呟いた。
「そだね」
同調能力のせいで視線が普通より数倍痛い俺は口調がおかしくなっていた。
「っていうかわかるの?」
「ああ。佐倉氏の視線と、五十メートル後ろに一人、十メートル後ろに二人。佐倉氏のはまあ除外するとして」
「ちょっと待った」
「何だ?」
おそらく五十嵐の言う[佐倉氏の視線]とは知実さんがいつも俺を追尾させている超小型の遠隔操作型カメラだ。どれくらい小型かというと、砂ぼこりといい勝負、なのだそうだ。
つまり──
「なんで視認不能のカメラまでわかるんだよ!?」
「うむ、勘だ」
「勘!?」
納得いかない。こいつ、本当に普通の人間か?
俺の不信感を隠そうともしない視線を一切気にせず、五十嵐はさらりと続けた。
「ちなみに他の三人のうち二人は名前もわかるぞ。十メートル後ろの片っ方が佐竹とかいうやつ、もう片っ方が半田だ」
「すごいな、お前の勘……」
もう呆れを通り越して感嘆する。俺も波長の特徴からある程度人を判別できる。付き合いの浅い半田はよくわからないが、一人が佐竹なのは間違いない。
五十嵐の言葉を裏付けるように十メートル後ろの二人が反応する。そそくさと逃げるように去って行った。
「ああ、もう少しいてくれればよかったのに」
「なんでさ?」
「一番後ろのあいつは、この状況を待っていたようだからな」
五十嵐が言い終えるのとほぼ同時に五十メートル後ろの人物が動いた。といっても、片手を上げただけ。
しかし。
「咲原っ!」
鎌鼬が俺を襲った。五十嵐が突き飛ばしてくれたおかげでなんとか無傷で済んだ。
「[
「いや」
ものすごい勢いで今度は火の玉が飛んできた。
「[
アスファルトから木が生えて、足を絡め取られそうになる。一足先に近くの塀にのぼっていた五十嵐の手を借りて難を逃れる。
「風、火、木──[
「フィフス?」
五十嵐が俺の呟きに敏感に反応する。
仕方ない。説明しよう。ただし聞く前に覚えていてほしい。俺は中二じゃない。
「
言葉を遮り、下からゴゴゴ、という音を立てて土壁がせりあがってくる。
「とりあえず、厄介」
「全くだな」
「五大精霊というくらいだから、精霊がいるわけだけど」
「だろうな」
一度目を閉じ、すぐ開ける。能力発動。照準は土壁。確か、土の精霊は──
「[
土壁が崩れた。
「物にも効くのか」
「いや、わかんない。今のはどっちかっていうと、精霊に命じたから」
「
「五十嵐!」
[
「水の矢だったな。しかも風の力も利用している。少し、痛かったな」
何が少しだ、手が血まみれじゃないか。五十嵐の緊張感のなさに腹が立つ。
「止血!」
「止まっている暇がない」
「うーん……じゃあ、[
言うと、ふわりと冷たい風とともに雪が降ってきた。それが五十嵐の手を優しく覆う。ぽたりぽたりと落ちる雫が止まる。
「これで何もしないよりはマシになったはず」
「うむ、かたじけない」
お前はいつの時代の人間だ。
「いや、それはおいておくとして、どうしよう? 攻撃が多彩だ」
このままただで逃がしてくれるわけがないのはわかりきっていたので、どうにか取り押さえる方向で考え始めた。
普段なら絶対にしないが、今はなんだか頼もしい五十嵐という味方がいる。
五十嵐を見れば、すぐに問いかけへの返答がきた。
「それについては私に考えがある。というか、お前の力を使えばどうにかなると思うが?」
「え?」
「精霊を押さえてくれ、咲原」
「えぇ? [
俺の能力は一時的とはいえ、強制的に対象を使役するというもの。[従わせる]──そんな能力にいいイメージが持てず、あまり使いたくないのだ。
「一度きりでいい。十秒くらい押さえてくれれば[
五十嵐は立ち止まり、逆方向──相手のいる方を向く。
「頼んだぞ!」
「って、おい!」
こちらの返事も聞かず走り去っていく五十嵐。ったく、俺が実行しないかもしれないとか、考えないのか?
遠ざかっていく栗色のポニーテールが完全に見えなくなったところで、俺は立ち止まった。
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