第51話「二度としたくない」

 五十嵐は先に帰ったらしい。もう夜だそう。ここは[WHAT]の医務室で、半田は未だ地下にいる。

「いやぁ、驚いたヨ」

「何にですか?」

「驚きがありすぎたネ」

 まあ、俺も驚いた。

 例えば、俺の介入の余地を許さない強制力フォーシングとか、それらをガン無視して俺を取り戻した五十嵐の不変性とか。

 本来なら、あそこまで相手の強制力フォーシングに引っ張られて、能力に巻き込まれたら、俺と同調している五十嵐にも異変が起こっていたはずだ。それを五十嵐はあの熱の嵐の中から平然と俺を引っ張り出した。

 これはただ事ではない。

「五十嵐サン、本当に超能力者じゃないのカナ?」

「あれは超能力じゃないですよ」

 知実さんの定義では、超能力者とは[同調能力と強制力フォーシングを自在に使いこなし、能力を発現させる者]らしい。けれど、同調能力と強制力フォーシングを併せ持つだけでは、超能力者ではないのだという。

 何故か。知実さん曰く、両能力を[自在に]操ることにこそ超能力者の真価である、のだそう。それは同時に同調能力も強制力フォーシングも[誰もが持ちうる]能力であることを示す。

「ごくごく稀らしいですが、特に事強制力フォーシングに関しては[意志]の強いものなら操ることができるらしいです」

「ふむ、ボクも聞いたことあるヨ。つまり、五十嵐サンは咲原クンの危機を察知し、[呼び戻さなければ]という強い[意志]で咲原クンを灼熱地獄から引き戻した、というわけダネ」

 なんというか、常々思ってはいたが、色々と反則的なやつだな。

「まあ、能力開花してもおかしくないスペックですよ、五十嵐は」

「確かにねぇ。それに、相手が美月チャンだったから、よりむきになったんだと思うヨ。犬猿の仲デショ?」

「犬猿ですけど、それが理由じゃありません」

「え?」

 五十嵐と半田は仲が悪い。が、今回の強制力フォーシングは半田のものじゃない。

「噂の美星さんとやらは厄介な相手になっているかもしれませんよ。ただの[二重能力者ダブルテイカー]より質が悪いです」

「その心は?」

「他人の能力、操ってます」

「!?」

 それは驚くだろう。俺も正直信じられないが、[あの夢]を見たからこそ確信できる。

「半田の過去夢を見ました。半田が前いた施設、その最後の実験は[成功していた]。しかも、それは[能力の相乗実験]なんて生易しいものじゃない」

 組織は壊滅したんじゃない。予め、壊滅することまで想定内にして、実験の成功へと漕ぎ着けた。

 恐ろしい組織である。

「実験台にされたのが半田だったのもたまたまじゃない。そもそも[発火物スターター]の能力と相性がいい能力だから抜擢された。つまり、やつらが作ろうとしていたのは[二人一組]の殺人兵器」

 半田の意志を無視した非人道的な超能力の融合。

 あの健一朗さんから笑みが消えた。衝撃に思うのも仕方ない。

「もう、あんな思いは二度としたくない……のに……」

 掠れた健一朗さんの声が零れて消えた。

 俺は健一朗さんが抱えているものを知らない。けれど、半田を放っておくほど非情ではないのだ。

「健一朗さん、俺、半田を取り戻しますから」

「咲原クン……」

「今日は駄目でしたが、俺に考えがあります。任せてもらえませんか?」

 自分でも、こんなことを言うなんて、とは思ったが、譲れないものがある。

「何を考えているかは知らないけど……まあ、藁にすがるよりはよっぽどいいネ」

 頼んだよ、と健一朗さんが小さく呟いた。

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