第44話「人体自然発火現象」
帰り道。俺は五十嵐ととぼとぼと歩いていた。
あれほど残酷な話を聞いた後に半田と合わせる顔は当然ないし、倉伊などの第三者といるのも辛かった。幸いなのは、少なくとも一人で抱えなくて済んだことだろう。
とはいえ、五十嵐も神妙な面持ちをしている。そこに話しかけるなんて勇気、俺にはない。
「……超能力者、か」
ふと五十嵐は呟いた。
「私は理解が足らなかったようだ」
「どうしたんだよ、急に」
「考えていたんだ。ずっと、超能力とはどういうものか」
まあ、五十嵐は頭がいい。中二病なのが何故かと疑問には思うが、五十嵐なりに考えて行動していることは一緒に行動するようになってからよくわかった。
ただ、当事者でないのだから、そこまで真剣に考えていないだろう、と思っていた部分はあった。だから驚いたのだ。超能力について[ずっと]考えていた、というのに。
五十嵐自身は超能力者ではない。それは知実さんも言っていたことだし、五十嵐も自覚しているらしい。つまり、五十嵐は超能力について[当事者ではない]のだ。
それなのに、ずっと考えているというのはどういうことなのだろう。
「私は咲原も知っている通り、特別な能力、所謂超能力といった能力を持たないただの人間だ。だがな、能力者を守りたいとは思っている。だからこそ鍛えて[
その辺の言葉回しは相変わらず中二臭い。が、通常の中学二年生がやる中二病とは、やはり何か違うような気がした。
特別な能力などないと理解しながら、特別な能力を持つ者に関わろというのは……五十嵐にも何かあるのだろうか?
まだ、五十嵐のこともよく知らない。母子家庭で、……ということくらいしか知らないかもしれない。本当に知らないな。
五十嵐のことは好ましく思っている。最初は高校生になってまで中二病と勘違いされたくないから疎ましく思っていたが、今では一緒にいるのが自然なくらいだ。
多少、五十嵐の意見というものに興味が湧いた。
「だが、お前と出会い、様々な超能力者を目にしてきた。半田もそのうちの一人だな。……それから、私が考える超能力者とは違うことがわかってきた」
五十嵐が自らの手を見下ろし、ぎゅ、と固く握りしめる。
「超能力者は私が思っていた以上に色々なことができて、多くのことを抱えていた。人間、誰しも自分の中に抱え込んでいるものはある。けれど、その比じゃない。普通の人間だって、やろうと思えば人を殺せる。けれど、超能力者は違う。そんなこと
そう、能力を使うだけで、取り返しのつかないことになるリスクが高い。兄を殺した半田のように。或いは、親を追い出した俺のように。
「私は当然、人を殺したことはない。殺したいと思った人間はいるが、実行はしていない。命を奪うというのは恐ろしいことだ。小学生の頃、蟻を踏み潰して遊んだり、蜻蛉の体を引き裂いて笑っている同級生の心理を理解しかねた。今もそれが楽しいという心理はよくわからない。けれど、人を殺すということはそれ以上に重い罪なのだ、というのはわかっていた。けれど、超能力者は本意でなくとも人を殺してしまうことがある、ということは、理解していなかったんだ。私もまだまだだな」
小学生が虫を殺すのは残酷だが、処罰を食らうほどのことではない。だが、対象が人となると話は別だ。
人を殺したら、死刑になるくらいだし、殺そうとしただけでも重罪。けれど、超能力者の場合、本意でなくても殺してしまったり、殺しかけたりする。
それを罪と自覚できる真人間であればあるほど、超能力者である、ということは辛いのだ。
……それを理解しようとしている五十嵐の考え方に俺は驚きだが。
「……なんで五十嵐は」
と、聞こうとしたそのとき。
ブーンブーンブーン。
肩口でバイブレーション。もちろんそんなところに携帯電話ではない。知実さんが超能力者探知用に俺に渡していたカロンが作動したのだ。
五十嵐にもカロンのことは話してあるから、二人して身構え、辺りを見回した。
平々凡々とした住宅街。ちらほらと人が行き交う、一見何の変哲もない日常風景。
──に、安心しかけたところでそれは起こった。
「うわあああああっ」
誰かも知らない人の悲鳴が轟く。それがどこから発されているかはすぐにわかった。
何故ならその人は燃え盛っていたから。
「……人体自然発火現象……」
五十嵐がぽつりと呟く。俺は辺りを見回して、車の掃除をしている人と目を合わせ、思い切り
「そのホースの水で火を消せ!!」
それはもう必死だった。幸い、周囲も混乱しているから俺の能力が火消しに使われていることはバレない。
問題は、カロンが反応したということ。
五十嵐も気づいているようで、周囲を見回しながら、俺の傍についていた。
おそらくだが、発火してしまった人は助からないだろう。人体自然発火現象については科学の世界で様々な説が唱えられているが、そこに[超能力]という科学では説明しきれない現象が加われば、説明がつく。
「まさかとは思うが……」
五十嵐が俺に囁く。
「次の刺客は、[
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