第57話 一時の安らぎ
「そーいえば、息吹の樹に挨拶せずに来たよなぁ」
「そうじゃが、どうしたんじゃいきなり?」
ショーレム王達の歓迎パーティも成功に終わり、明けて次に日の午前中、俺とガロ爺は万様がいるルーフバルコニーでコーヒータイム。
なんとなく気になった俺はガロ爺に息吹の樹の事を聞いてみる。
「生命の樹みたいに息吹の樹もまた話すのかなぁって思ってさ」
「なんで儂に聞くんじゃ?万物がそこにおるじゃろう」
「あ、そっか。万様どうなんだ?」
《……眷属の木は個々に意思を持つ。セイカとの意思の疎通も出来ておるよ。あの子は早く名前をつけて貰いたがっている。あの子の事も気にかけておくれ……》
相変わらず優しくあったかい言葉で教えてくれる万様。「そっか、わかった」と言いながら、俺の顔はにやけている。
(なんせやっと万様の声が聞けたんだ。つい嬉しくてにやけちまう)
そんな俺の気持ちを読んだガロ爺。ほっほっほと笑いながら、俺の様子を見過ごしてくれて、話題を変えてくれた。
「竜人の王と宰相もそろそろ万物空港を出発した頃じゃろうの」
「ああ、今頃[エアプレーン]の中だろうな」
そう、ショーレム王とウォーク宰相はすでに万物空港へと帰って行ったんだ。
「ここでゆっくりしたいが、公務が待ってくれなくてな」と宰相。苦笑しながらショーレム王も同意はするものの、ちょっと不満はあるらしい。
「折角だから、フォレスト空港とルチェ・レーヴェン空港にも顔をだしたかったんだが、ウォークの許可が出なくてなぁ」
「我らがよくてもあちらの受け入れ準備が必要でしょう。手順を踏んで、交易の提案を行いましょう。視察の形で、行くのが無難というものです」
……やはり宰相は強かった。立場があるって動きが取れないって事だからなぁ。
それでもエバーグリーンでは終始笑顔で過ごし、良い息抜きとなったらしい二人。万様に挨拶をして、バルとラドゥが護衛をして竜人国へと戻って行ったんだ。
「俺たちを置いて出発するなよ!」
「すぐに戻ってきますから。置いていくとイアンも拗ねますからね」
バルとラドゥもしっかり俺に釘を刺していくんだもんなぁ。そんな強固軍で動かないってのに。
因みにリーフが人質?としてついていった。というか連れて行かれたというか……
「我が国は柔らかいウォーターバッファローの煮込みが名物でな」
「グウ⁉︎」
「更に霜降り肉のステーキは格別でなぁ」
「グウゥ!!!」
リーフを気に入った王に唆されて着いて行ったんだよなぁ。ショーレム王、ほぼリーフを抱いていたからな。
ま、しっかりバルに連れて帰って来るように言っといたけどさ。
「ところで、タクトや。バルに何を沢山渡したんじゃ?」
「あ、あれか?ほらギフトショップクイニーの店で買った新商品の[フィトンチッドの雫期間限定バッジ]だよ。今回バルの部下の兵士達が頑張ってくれたろ?って事で、後でバルに渡してもらおうと思ってな」
覚えているだろうか?俺が竜人達を迎えに出た時にクイニーから買ったお土産。
アレ実は、万様が毎日胡桃マーケットで出しているらしいんだ。フィトンチッドの雫が貰えない人達用の仮認証バッチ。
1日に一回善行をすると、どういう仕組みか知らないけどバッチのパーセンテージが上がっていくんだ。
それで100パーセントまで達すると、一つにつき一日2時間だけフィトンチッドの雫と同じ役割をするんだ。
要するに、そのバッジの有効時間は誰でもグリーンロードには入れるようになるらしい。
……うん、どうりで広場にカフェなんか建ってる訳だよ。昨日、列車から見つけてなんで?って思ったもんなぁ。
どうやらそこは万能執事のフォーの部下、ヘゼルとティナの夫婦で運営する喫茶店にするらしいんだ。
ティナもまたお菓子作りが上手くて、俺たちのコーヒータイムによくお茶菓子を提供してくれている。
観光名所になるだろうな、此処。
勿論、エバーグリーンには立ち入り不可だ。だから、バッチを持つ者達にとって、喫茶店の屋上が万様に一番近い場所になるんだそうだ。
(多分、屋上も花だらけになるだろうなぁ)
因みに、万物空港の外は現在建築ラッシュ。
フォレストドワーフとアクア人から万様の側で暮らしたいって強い要望があり、万様に確認の下フォーが総合責任者になって街を形成中。
多分、そのうち竜人や獣人も増えていく事だろう。
フォーの執務室には移住申請書が毎日山のように届いているらしい。でもコレは結構通るのが厳しい。
なんせ、まずはフォーの了承の上、更に万様の許可が必要になるからだ。
だから、今でもまだ20組位しか申請が通っていないとフォーが言ってた。
でも街が出来ていくのってワクワクするよなぁ。来るたびに変化する万様エリア。活気があって、これからちょくちょく散歩に行こうって考えているんだ。
「賑やかになるのは良い事じゃ。のう、万物や」
ガロ爺が語りかけると、万様は嬉しそうに葉を揺らし光のシャワーをルーフバルコニーに送ってくれる。
ゆったりと時間が流れるコーヒータイムを終えて、俺は今日とことんまったりとする事にしたんだ。
「ガロ爺、俺風呂入って来るわ。ガロ爺はどうする?」
「わしゃ、ここで万物と一眠りしておくわい」
「そっか。俺も風呂上がりまた来るわ」
そう言って立ち上がると、フォーが「大浴場が只今誰も使用しておりません」と教えてくれる。
大浴場貸切っていいよなぁ。
そう思った俺はフォーに大浴場に行く事を伝えて向かう事にした。
すごい贅沢なんだぜ。エバーグリーンにいると、細かい事全てメイドやフォーが行なってくれるんだ。最近は風呂の準備とかもした事ないし。
ここでは俺は貴族か王族並みの待遇を与えられているんだ。余りにも快適すぎて頼りすぎると駄目人間になりそうで、たまに自分でやらせて貰っているけどな。
カラカラカラ……
脱衣所につきパッと裸になった俺は、湯気に包まれた大浴場に足を踏み入れる。
大きな窓から見えるグリーンロードの見事な花達。あ、窓はマジックミラーになっているぞ。安心の万様仕様だ。
内湯は今は三つ。
ジャグジー、ジェット風呂、源泉掛け流し風呂だな。サウナもついていて、ここは料理人のピエールがよくいるな。
俺は今日はジャグジーでボコボコしたい気分だから、洗い場でざっと体を洗い流して、サッサと湯船に浸かる。
ただエバーグリーン専用のシャンプーとトリートメント、石鹸はすごいんだぜ。
万様の朝露から作られているらしく、肌や髪が常に整い、肌はスベスベしっとり、髪はサラサラで天使の輪が浮かぶ程。
俺がそうなっても誰得だよ……と当初から思っていたが、気持ちよさに負けてもはやコレじゃないとスッキリしなくなったんだ。
「……ふぅ〜……」
肩まで湯船に浸かり暖かな日差しの中、ジャグジーのポコポコとした音を聞いていると、異世界だと忘れてしまうくらい気持ちいい。
(このまま人間達のところになんか行きたくねえな……)
そう考えてしまうが、実のところ次は人間領にある大滝とわかっている。
魔導ポッツの性能も上がり、コンパスガイドを差し込むと次の行き先がわかるようになったんだ。
だから正直今後の事を考えると気が思い。
(本来なら楽しみに思うところなんだけどさ)
そうは言っても、獣人達側から始まった俺の異世界生活。どちらかというと、俺の気持ちは獣人寄りになっている。
だけど万様は違うんだ。
だから守り人としてしっかり見極めなくちゃいけない。
差し当たっては近づいてきたコラルド人達の訪問だ。
「後二日後か……」
竜人達とかち合わなくてよかったというべきか……
そもそもそれに立ち会わなきゃ出発出来ない。
「さて、何が出るかな」
俺も覚悟を決めてザバッと湯船から出る。
まぁ、ここ数日くらいは、ただ万様と仲間とゆっくり過ごしたっていいよな。
そう思ってカラカラカラ……と大浴場から出る俺。
その後、帰ってきたリーフやバル達とバーベキューや酒盛り、散歩や運動などしていると、あっという間にコラルド人達がフォレスト空港に訪れる日がやってきたーーー
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