第12話 賑やかな日常
流石に疲れた俺は、【エア・パウチ】で全身を真空パック化させたワイバーンを門の中に運ぶと、部屋で休ませてもらう事にしたんだ。
勿論ワイバーンは万様が早速取り込んでくれたから、解体されて《胡桃マーケット》に出て来るだろう。
だから、ほんの少しの仮眠と思って寝室で寝ていたらーーーー
「ピイ?」
「グーグウ?」
「タクト寝てる?」
「ぐっすりだね」
(………ん?なんだ?キース達の声が聞こえるな……)
さすがに耳元で話されると、寝ていても気づくもんだ。でも、まだ眠かった俺は、気づかないふりをして寝直そうとしたんだ。
まあ、キース達が黙っているとは思わなかったけどさ。
「じゃ、皆!準備はいいか⁉︎」
「グーグ!」
「リーフは石鹸持ってるな!」
「ピイ!」
「レインはこの桶にお水出してくれよ!」
「タオルあるよ!」
「レナは終わった後の顔拭きだな」
「そして俺は、この万能ナイフ!」
(……待て、なんか雲行きが怪しくなってきたぞ?)
ナイフと聞こえた時点で、意識がはっきりしてきた俺。そんな俺に気付かず、キース達は突き進む。
「良し!じゃ、タクトのヒゲ剃りを始めます!タクトが動かないようにみんな配置に着いて!」
「はーい」「ピイ!」「グウ!」
「だーーーっ待て‼︎ 起きた!起きたから!自分でやるって!」
寝ている俺の髭剃りと聞いて焦った俺は、寝るのを諦めてガバッと起き出す。
いきなり動いた俺のせいでベッドの上のみんながコロコロ転がってしまったが、すぐに体勢を整える子供達。
「きゃははは!おきちゃったー!」
「あー……惜しい!折角、試そうと思ったのに」
ピョンピョンベッドの上を飛び回るレナに、残念そうにナイフを元に戻すキース。
「グーグー♪」
「ピイ♪」
レインとリーフは俺の肩に登ってきて、頬にスリスリ顔を擦り付ける事で誤魔化そうとしている。
「ったく。俺の為を思うなら、そのまま起こしてくれよ」
「だって、タクトきのうずっとねてたんだよ?」
「そうそう。疲れてそうだから、寝かしておく事になったんだ。でもさ、さっき見たら髭伸びてきてたし、剃ってあげようと思ったんだ」
レナとタクトの言葉に、俺はあのままぐっすり朝まで寝ていた事はわかったけど……
(気持ちは嬉しいが、キースのナイフの手つきじゃ怖すぎる)
丁寧に断ったが、使って見たくて仕方ないであろうキースが「ちぇっ」と言いながらも、万能ナイフを出したりしまったりしていた。
その様子に思わず笑ってしまった俺は、キースに提案をする。
「キース。じゃあ朝メシ一緒に作るか?」
「!うん!やる!」
「あー!わたしもやるー!」
「グーグウ!」
「ピイ!」
キースだけではなくこの場にいた全員で朝食を作る事になってしまったが、まあいいかと普段着に着替える。
着替え終わり、全員を俺の肩や頭に乗せて一階へと降りて行くと、朝からしっかりメイド服や執事服に着替えたエランとマリーが出迎えてくれた。
「おはよう、タクト」
「おはよう。疲れはとれた?」
挨拶してくれるエランとマリーに手のひらを差し伸べて、上に乗ってもらい挨拶を返す。
「はよ。おかげでスッキリ回復したよ。寝起きは驚いたけどな」
「ふふっ、この子達も心配してタクトの役に立ちたかったのよ。許してやって」
「それに、今日の胡桃集めはきっちり手伝ってくれたからな」
マリーとエランのフォローに、エヘッと笑うキースとレナに「ありがとな」と伝えると、ペシペシ俺の顔を叩くリーフと髪を突つくレイン。
「ハイハイ、リーフもレインもありがとうな。で、エラン。今日の胡桃の中身って確認したのか?」
「いや、タクトが確認したいだろうと思ってそのままにしているぞ」
そう言いながら、エランはドールハウスの横に出してある胡桃を指差す。
「おおっ!まさかのデカいサイズばかりとは……!万様、奮発したなぁ」
「万物様は、昨日のワイバーンの分も合わせた、とおっしゃっていたぞ?」
「あ、なーる。わかった。助かったぜ」
みんなの顔を見ながら感謝を伝えた俺は、デカい胡桃が置かれている場所まで歩いて行き全員をその場で降ろすと、早速一つずつ開けて確かめてみる。
「まずは……っと。おっ、すげえ!革製の防具じゃん!あ、見ろよ!これリーフとエランの分もあるぞ!」
「グウ♪♪」
「これは……‼︎なんて立派な!しかも素材はワイバーンの革製だぞ!」
一つ目の大きな胡桃から出てきたのは、秘密基地から外出するメンバーの防具。
万様仕様故、勿論それぞれのサイズはぴったりで、身に着けても負担はない軽さだった。
まあ、キースやレナが羨ましがったけど。万様に認められるまでは我慢する、と意外に素直に引き下がった。
因みに、マリーは勿論レインもここから出るつもりはないらしい。基本レインボーバードは万物の樹から離れない性質なんだってさ。
そんなレインと素直なキースとレナの頭を撫でてから、もう一つの胡桃を開けると、歓喜の叫び声をあげたのはリーフ。
「グウーーーー♪♪♪♪」
リーフがご機嫌に飛びついていくのは、ミニチュアオープンカーだ。
それも運転席はリーフ専用の大きさで、後ろはキース達全員が乗れる座席まであったんだ。
その車の外観に見覚えのあった俺。
「え?これってア○ディじゃね?しかもシックスドアでXXL仕様の奴⁉︎万様なんで知ってんだ?」
俺は、面白いもんをドイツの車メーカーが作ったな、と以前ネットで見ていたから知ってたんだけどさ。
(まさかミニ版で実物を見る事になろうとは……!)
俺一人が仕様に注目する中、他のみんなは早速乗り込んで座り心地を確かめたりしている。
「グ?グーグ?グウ?グー!」
リーフは運転席に座り、あちこち触って何かを確認して納得したらしい。
ボタンを押してエンジンをスタートさせると、試し運転を始めたリーフ。
「グーググーウ!」
「うわぁ、うごいたー!」
「リーフ、タクトの足の間通ろうぜ!」
「ピイッ♪」
ハンドルを回して俺の方向へ向かってくるリーフの後部座席でキースが余計な事をいいつつ、笑顔のレナと後部座席に掴まっているレインを連れて突進してくるミニオープンカー。
「ったく、ほれ。ぶつかんなよ」
一応手のひらにエランとマリーを避難させつつ、股を開いて間を通らせる優しい俺。
「きっと……万物様は、私達の移動の足としても出して下さったのね」
そう言ったマリーによると、ミニコロボックルにしてみればデカすぎるこの秘密基地内。
移動も結構大変らしく、今朝も万様のところまで行くのに時間がかかったらしい。
(さっすが、万様。気が利くぜ)
秘密基地内にいつの間にか出来ていたミニカー専用のスロープといい、細部まで即座に気が回るのには感心する俺。
「こうなってくると、次も楽しみだよなぁ」
ワクワクしながらマリーをドールハウスに降ろし、エランを肩に乗せたまま残りの胡桃に手をつけると、残りの三つは野菜と米と肉類だった。
「ウッヒョウ!生ハムの塊がある!各種チーズにベーコンの塊、ロースハムにチャーシュー、これはローストビーフじゃん!エラン、今日も酒の肴がいっぱいだぜ!」
「ああ、楽しみだな」
特に肉の種類に興奮した俺。笑顔のエランと共にキッチンの横に胡桃を持ってくると、そこには俺待望のアレがドーンと設置されていた。
「うおおおお!冷蔵庫だ!万様、愛してるー!」
思わず冷蔵庫に抱きつく俺に、肩の上で不思議そうにしているエラン。
「タクト?この箱はなんだ?今朝、起きたら既にあったぞ?」
「ああ、コレは冷蔵庫っていってな。食料素材が傷まないようにする電化製品……いや、おそらく魔導具だな。万様印っつー事は他にもいい性能付いてそうだけどさ」
「ふむ、食糧庫か。確かにそれは必要だな」
適当に俺が説明するのを上手く理解するエラン。会話しながら食料を冷蔵庫に詰めていくと、やっぱり万様内部拡張していたらしい。
「おっしゃ、全部入った!」
「これは凄い!」
ついに手に入った冷蔵庫に満足気な俺。肩の上で驚くエランを連れて、最後に残していたビックサイズの胡桃に向かう。
「ん、タクト?なんで一個だけ残したんだ?」
「これはなんとなくだな。俺の勘が楽しみにしておけって言ってたんだ」
(まあ、ただ単にデカすぎて後に回しただけだけど)
内心で言い訳しつつ開けてみると……
「おわっ!なんだこの量⁉︎」
「瓶に入った水?いや、この匂いはエールみたいだが……⁉︎」
中から出てきたのは、数々の種類のウィスキーと日本酒。
(うわぁ、こんなに沢山どうすんだ?俺ビールとワインくらいしか飲まねえのに……)
エランは飲めるかも知れないが、でも量がありすぎる。なんだって火酒と呼ばれるアルコール度数の強いやつまであるんだか……?
疑問に思いつつ、まあなんとかなるだろと気楽に考えた俺は、とりあえずエランのアイテムボックスに胡桃毎収納してもらったんだ。
(万様、何か考えあんのかな?)
そんな事を思いながら未だミニオープンカーで遊ぶリーフ達を横目に、俺は朝食を作り始めた。
俺が作り始めるとエランとマリーが手伝いを申し出てくれたが、今日は生ハムと玉ねぎサラダと缶詰のパンとスープという楽をさせてもらった。
準備が終わり、食事の匂いを嗅ぎつけた全員が集まったところで始まる食事。
「タクトー。今日は、移動するのか?」
口いっぱいにパンを頬張りながらキースが俺に聞いてくる。
「そうだなぁ。魔物の対応にも慣れてきたし……【エア・フロート】で飛びながら移動すっかなー」
「早速、万物様から頂いた防具の出番か」
「グーグ♪」
俺の提案に外出組も異論はないらしい。
「それなら、タクト。服出来ているわよ?それに、今朝万物様からワイバーンの革を頂いたから、ロングブーツも作ってみたの。履いてみてくれる?」
マリーが優雅に食べながら嬉しい事を教えてくれた。
エランも一旦食事の席から立ち上がり、アイテムボックスにしまっていたであろう服とブーツを出してくれたんだ。
「きつかったら言ってちょうだい。すぐ直すわ」というマリーのありがたいお言葉付きで。
直すなら早い方がいいと思った俺は、パパッと食事を終わらせて服とブーツを持って脱衣所に着替えに行く。
(うわ。肌触りいいわ、コレ。……動き易いし、サイズ調整も要らないな)
着てみると、前から着ていたようなしっくりとくる着心地で、腕を回したり、スクワットしてもキツイところはない。
ロングブーツもサイズが丁度良く、流石としか言いようがなかった。
全てを着て満足した俺は、ついでに洗面所で身支度を終わらせて扉を開ける。
「どうだ、みんな?似合ってるか?」
一応みんなの前で確認すると、全員から似合うコールを貰って俺も安心する。
「大丈夫?キツくないかしら?」
「あ、マリー!ありがとうな!最高に着心地いいんだ。万様から貰った防具も身につければもう万全だよ!」
「ふふっ、喜んで貰えて嬉しいわ」
喜ぶ俺の様子に笑顔で応えるマリー。そんなマリーに防具をつけて貰っているリーフも準備が終わり、既に着替えていたエランと共に俺に近づいてくる。
「お!エランもリーフも準備出来ていたか。じゃ、早速出発すっか?」
「グーグー!」
「ああ、行こう」
準備万端のリーフとエランを肩に乗せ留守番組に声をかけて、俺は気持ちを引き締める。
(さあて、慎重に行くか!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。