第13話 万様サプライズ
ふよふよふよふよふよ……
草のちょっと上の高さを、あぐらをかいている姿で飛ぶ俺の様を言葉で表すとこんな感じだ。
飛んでいるから呑気なもんだって思うだろ?
「グ!グーグッ!」
「何!またか⁉︎今度はどっちだ⁉︎」
「タクト!右前方に二匹!イエローボアだ!」
「っし!肉だな!」
「グーグーウ!」
常にコンパスガイドを開き待機している俺に、リーフと通訳のエランの声が響く。
「射程距離圏内!連続【エア・ジップトレース】喰らえっ!」
照準をイエローボアの顔に合わせて、10段階に設定した【エア・ジップトレース】を放つ。
ブオオオオオオッッッッ!
鼻の先端がメコオッと潰れたイエローボア達の叫び声が上がったところで、【ギア・エア・パウチ】を唱えて顔を覆うように放つ。
「⁉︎」「⁉︎」
顔全体を覆う【エア・パウチ】がヒットした後は、赤の磁針が点滅を始めいつも通り赤い磁針が消えるのを待つ俺達。
「……!グーグッ!」
「お、消えたか。エラン、収納出来そうか?」
「大丈夫だ」
万様から貰ったこの《望遠レンズ(高性能)》のおかげで、遠くの物でも視界に入れば収納出来るようになったエラン。
あ、エランだけじゃないぞ?
リーフも万様からコンパスガイドのミニ
いつ貰ったのかって、それはまあ各自の防具に付属してたんだけどさ。
万様仕様だからなぁ。ただの防具であるわけない。
でも……俺のは特に何も付属品はなかったんだ。変わったものといえば、歩く時にエランを入れる胸ポーチや、リーフが捕まり易い突起が肩に付いている事くらいだな。
(エランとリーフが付属品扱い……)
ま、まあ、おかげで俺一人で気を張る必要もなく、役割を分散出来るため今のところ怪我もなく進む事が出来ている。
心配な事といえば……
「タクト、魔力はまだ大丈夫か?」
「ん。もう一回襲撃があったら、一旦門の中に戻った方がいいな。リーフ、今のところ周囲は大丈夫か?」
「グウ♪」
「よっしゃ。じゃ、もうちょい距離を稼ぐぞ」
「グウ!」「ああ」
こんな感じで、ふよふよふよふよ青の磁針に導かれながら飛んでいると、まあ出会わないわけがないんだよ。
「グーグッ‼︎」
「タクト!後方、ゴブリン五匹!」
「はいよー!ゴブリンは万様の栄養になってくれよー」
スキルは【エア・パウチ】のままだったため、頭を狙って連続で放つ。
「⁉︎」「‼︎」「!」「⁉︎」「?」
悶え苦しむゴブリン達を遠く安全圏から点滅する赤い磁針を確認しつつ、俺達は赤い磁針が消えるのを待つ。
(結構、えげつない事してるけど、命には変えられないからなぁ。せめて万様の役に立ってくれよ)
平和な日本人思考がだいぶ薄れるくらい、魔物と遭遇した俺達。
ゴブリンも無事エランが収納して、話していた通り【ギア・メインポート】を唱え、一旦門をくぐるとーーー
「おっかえりー!」
「お帰り!」
「ピッ!」
タイミングよく出迎えてくれたキースとレナとレイン。
「あっは!それいいな、お前ら!」
それを見た俺が思わず笑顔になる程、可愛い光景で出迎えてくれた二人と一匹。
ミニコロボックルが3人は乗れそうな取っ手付きバスケットの中にキースとレナが乗り、取っ手部分を両足でしっかり掴んで飛ぶレインの姿があったんだ。
「えへへー、レインすごいでしょー!」
「帰ってくるタイミングも、万様が教えてくれたんだ!」
よほど嬉しかったのか満面の笑顔で教えてくれる二人を見て、肩の力が抜けた俺。
(やっぱ、少し緊張してたんだな。ここに戻ると安心する)
キース達が乗っているバスケットをレインから受け取り、「どうだった?」と質問してくる二人に、俺はエランと目を合わせてアイコンタクトをする。
すると、驚きの声を上げるキース達。
「うっわー!」
「すっげー!イエローボアだ!」
「ピイイ!」
アイコンタクトを理解したエランが、万様の根本に倒した魔物達をアイテムボックスから出したんだ。
今回の成果は、ゴブリン5匹にイエローボア二匹、そしてビックホーンディア二匹。
そう、イエローボアの前にビックホーンディアにも遭遇してたんだ。
因みに詳細はこちら。
『《イエローボア》ランクC
長い牙を持ちと2m級の大きさの猪型の肉食の魔物。体格にも関わらず素早い動きで標的に体当たりをし、鋭い牙で獲物を切り裂くのが主な攻撃パターン。素材として、牙は武器に、革はバックや服に、肉は上質な肉として人気』
『《ビックホーンディア》ランクC
大きな長い角が特徴の2〜3mサイズのヘラジカ型の肉食魔物。角は岩をも砕く硬さで、動きも素早くジャンプ力がある為標的にされると厄介な魔物。素材として角が防具に、革は服や靴に、肉は癖があるが美味』
もちろん【エアジップトレース】のおかげで、俺達はそんなに苦戦しなかったけどさ。
でも、最初【エアパウチ】でやろうとしたら勘づかれて、ちょっと無駄撃ちしたんだよ。おかげで魔力を無駄にしたから、念の為早く戻ってきたんだ。
そして、例の如く次々と万様の根に取り込まれていく魔物達。
「やっぱ、絵面がシュールだわ……」
「ん?どう言う意味だ?タクト」
「や、万様じゃなきゃあり得ねえよなぁって」
「まあ、万物様だから当然だ」
エラン達からすれば、この光景も伝承の通りらしい。万物の樹の根本がある場所は魔物も近寄らないのが常識だとか。
いや、そんなん知らんって。
とりあえず、みんなを連れて秘密基地に戻ると、掃除中だったマリーも出迎えてくれて嬉しい事を教えてくれた。
「お帰りなさい、みんな。そうそう、タクト。万物様が貴方にプレゼントを用意したみたいよ?」
笑顔のマリーが指差す先は、バスルーム。
(も、もしかして……!)
期待の余り、マリー以外を抱えたままバスルームの扉を開けると……
「万様、最高かよ!」
「なんかへんなにおいする〜」
「グーグゥ……」「ピイ……」
「あ、お風呂広くなったんだ!」
「へえ……源泉掛け流しとは、これは贅沢だな」
レナやリーフ達には匂いがきつかったのか鼻を摘んでいたが、俺はテンションMAX。
(温泉は日本人の心だぜ!万様、わかってる!)
他にもキースが言う通り、広くなった木の作りの浴室。洗い場もシャワーが二つに増え、浴槽に至っては10人くらい入れそうだ。
エランは流石知識人。温泉の事は、知識として知っていたらしい。
「これは入るしかないだろ!」
タオルは既に脱衣所にあるし、レナとレインが下着を持って来てくれるらしいので、好意に甘える事にした俺は早速脱ぎ始める。
「グーグゥ!」
「あ、俺も俺も!」
途中まで脱いだ状態で先にリーフの防具を脱がせると、匂いに慣れたリーフはカラカラ……と浴室の扉を開けて先に入っていく。
その後を服をパッパと脱ぎ捨てたキースも素っ裸で走って行き、やれやれとちゃっかり自分も裸になったエランが後をついて行った。
(アイツら体洗えんのか……?)
心配になった俺もサッサと脱いで洗い場に入ると、そこは万様。ミニコロボックル用の洗い場も完備されていたんだ。
座ってしっかり体の汚れを落とすエランに、リーフと背中を洗いっこしているキース。
(ま、ここでは要らん心配だったか)
俺も安心して身体を洗い、スッキリした状態で湯船に浸かる。
「あ“あ”あ”あ“あ“〜……」
「タクト、なんだその声」
「アハっ!あああああー!」
「グググーグゥ♪」
肩までザップリ浸かれる気持ち良さとタップリのお湯の贅沢さに、親父臭い声を出す俺の真似をするキースとリーフ。
呆れるエランはミニコロボックル専用の隅にある湯船でしっかり足を伸ばして寛いでいる。
元気いっぱいのキースとリーフは、ぱちゃぱちゃと泳ぎ出していた。
(あー……子供の頃俺も温泉で泳いだっけ……)
キースとリーフの泳ぐ様子にほのぼのしながら、湯船に浸かりながら顔を洗い「ふう……」と幸せのため息を吐く。
浴室内に響く、湯船にたっぷり流れ落ちる温泉の音。
ほかほかの湯気に、温泉ならではのなんとも言えない心地良さ。
「いいねぇ……」
「だな」
信頼出来る小さな仲間と、ゆったり過ごせるこの時間もまた異世界ならではと思いつつ、万様に感謝した俺。
ーーーーこの時は、まだ万様がサプライズを用意しているとは思わなかったんだよなぁ……
「くうー!ビールがまた美味くなるぜ!」
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