第14話 本当のサプライズ (前編)

 それは、俺達がスッキリとしたお風呂上がりに、レナが駆け寄って来たのが始まりだった。


 「あー、やっとあがってきたぁ!あのねー、レインがへんなの見つけたんだって」


 「は?変な物?場所は?」


 「ばんさまのとこ!」


 気楽なジャージ姿になった俺は、レナを手のひらに乗せて件のものがある万様通路へと向かう事にしたんだ。


 因みにリーフはしっかりお気に入りのミニアウ○ィで、残りのみんなを乗せて移動して来ている。


 (ちょっと羨ましいよなぁ……)


 地球でマイカー貯金をしていた者としては、自家用車は憧れる。


 ま、いっけどさ、と気持ちを切り替えて万様通路に出て見ると……


 「おっ、《胡桃マーケット》出てるじゃん!しかもデカいサイズ!って、ちょっと待て……?」


 俺は《胡桃マーケット》が転がっている先で、また万様が手を入れたであろう場所を見つけたんだ。


 「おお!バーベキュー台だ!こっちには本格ピザ窯⁉︎すっげえ!いいじゃん、これ!」


 万様通路に広めのルーフバルコニーの場所が新たに設置されていて、そこに大きめのバーベキュー台と煉瓦調のピザ窯の横が設置されているじゃないか!


 あ、ちゃんとバーベキュー台の横にテーブルと長椅子まであったぞ。


 「これは、今夜はバーベキュー決定じゃね⁉︎」


 「タクト?これは何?」


 騒ぐ俺の声に、不思議に思ったのかトコトコと歩いてルーフバルコニーに来たマリー。


 「これはなあ、バーベキュー台とピザ窯って言って、野外で肉や野菜を焼く台と旨いパンが焼ける釜ってとこだな!」


 「まあ、いいわね!焼きたてのパンなんて久しぶりに食べれるわ!」


 「だな!多分今回の《胡桃マーケット》に材料入ってるんじゃないか?用意のいい万様だからな。あ、レイン!ちょっと来い」


 「ピイイ?」


 胡桃の上に止まって毛繕いをしていたレインを腕に呼び寄せて、レインに「見つけたのはこれだろう?」と確認するも、首を振るレイン。


 バッと腕から離れたレインが飛んでいく方向を見ると、《胡桃マーケット》の胡桃の影になって見えなかった1m近い銀色の玉があったんだ。


 リーフ達も《胡桃マーケット》よりも気になるのか、周りに集まっていたからな。


 不思議に思った俺もマリーを連れて近づいてみると、リーフが前足で銀色の玉をコンコンと叩いている。


 「グーグ?グ?」


 「かたいねー」


 「これ石?」


 「いや、鉱石だな……?しかしなぜ?」


 どうやらエラン達によると、これは万様も予想外だったらしい。


 万様が取り込んだビックホーンディアを解体していると、胃の中にあった豆粒の様な大きさの銀色の玉が、外に出た途端に大きくなって今の大きさになったという。


 「は?これ万様出したわけじゃないって?っていうか、なんだこれ生物なのか?」


 「グーグゥ、グーググウ」


 「リーフが中から声聞こえるって言ってるよ?」


 「まじか、キース!というかリーフ、何かはわかりそうか?」


 「グウ?グーグ……」


 首を振るリーフにそりゃそうか、と納得する俺。そんな中エランだけがさっきから黙って考え込んでいたんだ。


 「エラン?どうした?」


 「いや、この銀色の変幻自在な鉱石にちょっと引っかかってな……でも、もしかすると……」


 何か思いついたエランが、アイテムボックスから万様が出したウィスキーを取り出し俺に頼み込む。


 「タクト、このウィスキーを一本貰っても良いか?」


 「え?エランが飲むのか?これ、結構度数強いぜ?」


 「いや、この銀の鉱石にかけて欲しい」


 「は?」


 「頼む。もしかすると無駄になるかもしれんが……」


 エランが何を考えているのかわからんが、一本くらいなら良いか、と蓋を開けてドボドボと上からかけていくと……


 『こおりゃあ!なーにを勿体ない事をしよるんじゃ!』


 「「「えええええ⁉︎」」」


 「グウウウ⁉︎」「ピイ?」


 「やはり……!」「まあ、まさか……⁉︎」


 銀の玉から声がして驚き腰を抜かす俺とキース達。リーフは尻尾がピンっとなっているし、レインは首を傾げている中、エランとマリーは何かを確信したらしい。


 「全く……最近の若いもんは物の価値がわかっとらんわい」


 銀色の玉がシュッと一瞬で消えて現れたのは、背の低い髭の生えた老人?だったんだ。


 (いや、この姿って……)


 「やはり……エルダードワーフ様でしたか……!」


 「ん?ミニコロボックルとは珍しいのう。いや、そもそもここはどこじゃい?って、おおおおおおおおおおっ!」


 (エランはこの爺さんをはっきりエルダードワーフって言った。でも、どうやらエラン達とは知り合いでは無さそうだけど……)


 俺がそう考えていると、この爺さん、万様に気づいた途端に騒ぎ出したんだ。


 「なんと!万物の樹じゃわい!……ほうほう、元の体に戻りつつあるとな?……ほほう、それでこの男が守り人か。……ふむふむ、そうかい、そうかい……………」


 どうやらこの爺さん万様と直接話せるらしい。しかも俺も知らない事をサラッと言っている。


 色々問い詰めたいが、何せこの爺さんも最初に万様にあったエラン達と一緒で笑顔で泣いているんだ。


 しばらくの間、ただ黙ってこの爺さんと万様の話が終わるのを待っていた俺達。


 「そうか……そうか。よくぞ戻って来てくれた……!」


 万様に抱きつき涙を流す爺さんの姿を見ていた俺に、ポンポンとエランが足を叩いてきた。


 「万物様がしばらく話をするらしい。気にはなるが、先に胡桃の中身を確認しよう」


 「あ、ああ。そうだな……」


 (万様と知り合いなのも気になるし、色々聞いてみたいが……)


 後ろ髪を引かれる思いで動き出した俺達。


 リーフ達も協力して開けてくれた胡桃の中身は、肉各種セット(部位パック処理済み)/野菜・果物セット/伊勢海老もどき・イカもどき・ホタテやアサリもどきの詰め合わせ/ピザ生地・各種スパイス・焼肉のタレセット/缶ビール・酎ハイセット。


 そして最後の胡桃の中身が、丁寧に箱詰めされた小さな虹色の『種』だった。


 「おっきな胡桃の中にたったこれだけ……⁉︎」


 俺は少し拍子抜けしてしまったが、リーフが胡桃の中から出して大事な物のように箱の蓋を閉じ、スリスリと頬擦りをしている。


 「あ……⁉︎もしかして、アレか⁉︎」

 

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  短いので本日もう1話上げます!

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