第11話 更に新しい能力
部屋の中に希望の虹が掛かった後、ずぶ濡れになった俺達はエランの生活魔法【ドライ】で乾かしてもらった。
秘密基地内は?って?
万様がいるところだぜ?しかも秘密基地は、ほぼ万様の敷地。
それはもう見事に水分を吸収、乾燥してくれたんだ。
ついでに水の入った缶詰まで回収してくれた。
うちのゴミは万様の栄養になる事によって、常に有効活用されているからエコなんだよなぁ。
「ピイィ?」
ふわふわの毛に戻ったレインは、みんなに謝りに頭を擦りつける事で忙しい。
忙しいといえば、ドールハウスのチェックに入っているリーフとエランも忙しいな。
「グー……グッ!」
「こっちの書籍も大丈夫そうだ」
「グーグウ?」
「寝室?ああ、そっちはマリーに行ってもらっているよ」
「グ!ググー♪」
「ああ、おかげでチェックも早くすみそうだ」
………いや、いいんだけどさ。リーフの言ってる事、エラン達わかるみたいなんだよなぁ。
(一応、俺の相棒なのに……)
つい羨ましく思ってしまったが、リーフは相変わらず俺をみると近くによって来て、俺の足にぎゅっと抱きついてから遊び出すんだ。
リーフに気遣われちゃ、大人として恥ずかしいから黙っているけどさ。
俺がモヤッとしてる中、キースとレナは有り余る体力を冒険という名の秘密基地探索で消化中。
「あ!こんなところに胡桃転がってる!」
「あー、おにいちゃんいいなぁ……」
「レナ?お前の後ろ!」
「あー!あったぁ!」
一階の俺専用キッチン辺りから聞こえてくる声によると、レナにはリーフとレインのぬいぐるみが、キースには10徳ナイフが《胡桃マーケット》の特別版として万様から送られたらしい。
(万様、優しいよなぁ)
歓迎ムードを上げる為に、あえて出してくれたらしい万様。
エランには書斎あるし、マリーには布を贈っているし、レインもドールハウスの近くに籠とクッションが用意されてたんだよ。
万様のおかげで心配もなく自由に過ごせるみんなの様子を見ながら、俺は何をしているのかというとコンパスガイドを開いて確認中。
キラーハニーアントを仕留めた時、また金属音がなっていたの思い出したんだ。
ステータスは変わりない……とするとこっちか?
『スキルが一部開放されました。
ー現在使用可能スキルー
【エア】レベル3 発動は音声対応。
・クリエイトエア MP10 (空気作成 : どんな場所でもタクトのみ呼吸可能。但し、時間制限あり。現在一時間作成可能)
・エアパウチ MP10(真空空間作成: 範囲指定有り。効果時間: 無限。解除(デリート)可能)
・エアフロート MP100(空中を浮かぶ事が可能。最高時速10kmで上昇/下降/前進/後退可能。スキル効果は一時間)
・エアジップトレース MP200(圧縮空気追跡弾。圧縮空気は1−100段階まで設定可能。着弾後解除され標的に衝撃を与える。着弾前に解除する場合は【アンジップ】を唱えると可能。
【ポート】レベル3 発動は音声対応。スイッチワードで発現。
・ギア・メインポート MP0 (万物の樹の秘密基地へ戻る扉召喚。現在常時入室可能 : タクト/リーフ /キース/レナ/エラン/マリー/レイン。滞在許可証発行/ MP1,000)
・(ギア・エアポート) 初回限定MP100,000(万物の樹エリアに空港設置。レベル10で設置可能。設置後に詳細開示) 』
「おお⁉︎なんか凄いのきた!」
思わず叫んでしまった俺に、作業をしていたリーフやエラン達が集まってきた。
「グーウ?」
「タクト?どうしたんだ?」
「タクトー?」
「凄いのきたって何?」
不思議そうに俺を見上げるリーフや読んでいた書物を持ったまま近づいてきたエラン。
キースは10徳ナイフを嬉しそうに腰に下げて、レナは両手にぬいぐるみを抱えて俺を見上げてきた。
因みに、マリーはマイペースに服作りに夢中。その近くで力を使って疲れたレインが眠っていた。
「あ、すまん。スキルがちょっと面白い事になってて、叫んじまった。一つはレベル上げないといけないみたいだし……練習も兼ねて、ちょっと検証に行ってこようと思うんだけど」
俺が謝りつつ説明すると「「俺(わたし)もいきたい!」」と口を揃えてお願いしてきたキースとレナ。
それにはエラン父さんがちょっと待ったをかける。
「タクト、一体何を確かめるんだ?」
「新しいスキルの威力の確認だから……キース達は危ないかもな」
俺の答えに考え込むエランに、行きたいとお願いする二人。で、結局どうなったかというと……
***
「グーググー?」
離れたところにある大きな岩を指差すリーフ。
「あれにどれくらいの威力から試すんだ?」
俺の肩に座るエランが質問しながら、コンパスガイドを覗き込んでくる。
俺といえば、門からまた外の世界に出てコンパスガイドを開いている。
まあ、結局はこのメンバーで検証する事になったんだ。
キースは最後まで粘ったけど、まだエランより小さいし今回は留守番。レナと一緒にマリーの手伝いをしているだろう。
(衝撃波がくるかも知れんし、俺以外は門の中にいた方がいいだろうなぁ)
コンパスガイドで照準を合わせながら考えていた俺。門の中にいたリーフにエランを託し、とりあえず圧縮比を10段階に上げてみた。
因みに遠距離用【エアパウチ】と同様に【エアジップトレース】も、コンパスガイドで照準を合わせてタップする方式だった。
違いは画面右下の圧縮比ダイアル。
ダイアルの比率は固定保存可能らしい。何度か試してみたら唱えるたびにその数値で表れるからな。
「それじゃ、行くぞ!」
「グーウ!」
「いつでもいいぞ」
安全を確保しつつ、照準を合わせタップするとボシュッ!と音と共に発射された【エアジップトレース】。
ドコォッッッ!
大きな音を響かせ、見事に大岩に大きな穴を作ったんだ。
(おいおいおい……10段階でコレかよ)
「これは凄い。が、余り強くすると衝撃でこちらまでやられてしまうのではないか?」
リーフの隣で冷静に分析するエラン。リーフも前足を組んでうんうん頷いている。
(確かになぁ……)
使いどころに気をつけようと思った時、コンパスガイドに現れた赤い磁針。
だけど今回の差す方向は……!
「上⁉︎」
見上げると、黒い点が段々姿を現して俺に近づいて来る!
「タクト!門の中に入れ!」
「クッ!」
エランに言われて気付き、一呼吸遅れて門へ飛び込む。
ビュウォッッ!
門に戻った途端に、黒い影が俺がさっきまでいた場所を通りすぎたんだ。
(あっぶね!何、アイツ俺を狙ってたのか……!)
正にギリギリのところだった俺。
俺を狙った奴の正体が知りたくて、上半身を門から出して照準を合わせ、赤い磁針をタップすると出てきたのがコレ。
『ワイバーン レベルC
飛竜の一種。硬い鱗に素早い飛行が特徴。肉食。単体で移動する事が多く、群れになると討伐ランクはAランクになる為、発見次第討伐推奨。ワイバーンは全身が素材となる。肉は美味』
(……ファンタジー定番のヤツか!確かに群れになられると厄介だ……!よし……!硬い鱗ならコレでどうだっ!)
俺はダイアルを上げ、上空で油断して速度を落としているワイバーンに向けて【エアジップトレース】を放つ。
バシュゥゥゥゥッッッ!
先程とは音からして違う圧縮空気弾。音で何か近づいている事を勘づいたらしいワイバーンの動きに合わせて追跡していく。
そして……
ドゴオオッと上空で爆発音と同時に「ギャオウ!」という叫びをあげたワイバーンが、両羽がもげた状態で落ちてきた。
俺は止めとばかりに頭を狙い、もう一度【エアジップトレース】を放つと……
ドッッパーーーンッ!
あろう事か首から上が弾け飛び散り、そのまま首と翼のない状態のワイバーンの体はズドオオン……と大きな音を立てて地面に墜落した。
「はあ、はあ、はあ……!」
緊張の糸が途切れ、安堵の思いから座り込んでしまった俺。命の危険は脱したが……
「うえええええええ……」
(思いっきり顔が弾ける場面見ちまった……!)
着弾の瞬間までコンパスガイドのズーム機能で見てしまったグロ耐性の無い俺は、気持ち悪さからさっき食べていたものを吐き出してしまったんだ。
「グググー⁉︎」
「お、おいタクト!大丈夫か?」
心配して門の中に入るよう引っ張るリーフに、声をかけてくれたエランのおかげで安全な場所で休む事が出来たけどさ。
「ああ、悪い……!変なとこ見せて……」
「気にするな。タクトは魔物のいない世界から来たんだ。慣れないのも無理ないさ」
「グーグウ」
落ち着いても四つん這いになっている俺の腕をポンポンと叩くエランと、俺の背中に登って背中を撫でるリーフ。
(ともかく全員無事でよかった……)
ふうっとため息を吐いていると、聞きたくないけど気になるといった微妙な顔をしたエランが俺に確認してきたんだ。
「なあ、タクト。あれで何段階だったんだ?」
「………50」
「50であれか⁉︎」
「グウウウ⁉︎」
驚くエランとリーフに、思わず俺は真顔になって決意する。
(……うん。MAX100は、よっぽどの事がない限り使うのはやめておこう)
思わぬ強力なスキルに道中の魔物に対する不安は薄れたが、出来れば【エアパウチ】で済ませたいと思う俺なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。