第10話 歓迎缶詰パーティとエランの話

 《胡桃マーケット》の中身は全て、エランのアイテムボックスに回収してもらい、またリビングに戻って来た俺達。


 まあ、さっきまでと違うのは……


 「グーグ、グウ?」


 「ああ、ここを私達に使えと。しかし、豪華な……」


 早速先に出ていたドールハウスと連結させて、コの字型になったエラン達の家。


 まあ、相変わらずリーフが何やら遊んでいるようにも見えるけどさ。


 「グウ、グーグー」


 「……これは!フランダル史じゃないか!」


 「グーググー?」


 「え!まさか、コロボックルの情報までこれについているなんて……!」


 どうやらエランを書斎に案内したリーフ。書斎から本を出して、エランに説明しているようだ。


 (リーフ……お前、文字読めたのか……⁉︎)


 俺も見せてもらったが、エラン達サイズの本で字も細かく、そして読めるけれど解読できなかった……


 因みに、フランダルとはこの世界の総称らしい。


 リーフに読み書きで負けたのはショックが大きいが、今、立ったままの俺は1mmも動く事が出来ない状況にある。


 「うん、肩幅はこんな感じね。次は胸幅と胸囲ね。タクト、動かないで!」


 紐を使いピョンピョンと身軽に俺の身体を移動して、寸法を測る作業着姿のマリー。


 自分の身体より長い紐を上手く使い、俺の身体を縦横無尽に移動している。


 凄い事に、マリーは自分用のものならほぼ一瞬で服を作れる。俺の服も1時間もあれば上下一着は簡単に出来るらしい。


 ならばと、これからの為にこの世界でも浮かない服の制作をお願いした俺。


 頼んだのは俺だから、くすぐったいとか、後でも良いとは言いづらいんだ。


 だから、歓迎パーティの準備は?というと……


 「あー、キース?レナ?そっちはどうだ?」


 「レインがすごいよー!」


 「嘴で缶詰を簡単に開けてくれるんだ!」


 「ピイ♪」


 そう、キースやレナ、それにやる気を見せたレインボーバードのレインが手伝ってくれている。


 あ、今回のレインボーバードの名付けはレナに任せたんだ。


 「レナとおなじレからはじまるし、レインがいい!」


 って言ってさ。うん、子どもっていいね。すぐ決まるし、ツッコミ入らないし。


 という事で、レインがプルタブ式の缶詰を開けている間に、キースとレナが食事の準備をしている。


 パーティ会場は、ドールハウス前の床だけど。


 それにしても、缶詰って色々種類あるんだよなぁ。


 パンの缶詰は勿論、ケーキの缶詰やスープの缶詰。なんとおかずの缶詰もあるし、飲みには欠かせない焼肉の缶詰、リーフ用の炊き込みご飯の缶詰。


 だし巻き卵の缶詰やたこ焼きの缶詰を見つけた時は「えええ!」って叫んでしまったさ。


 それに、定番のカレーの缶詰もシーフードパエリアの缶詰も、ハンバーグの缶詰だって開けちゃうぜ!


 あ!レインの奴はちゃっかり味見してるし。


 俺もマリーからようやく解放されて酒の準備もしていると、満足したリーフやエランもきて、準備を手伝って貰った。


 特にエランにはスープやおかずや肉系の缶詰をあたためて貰ったんだ。


 (今回は白ワインだしなぁ。鯖缶や牡蠣の缶詰、蟹缶も出すか!)


 なんて準備をみんなでしていると、あっという間に準備は整う。


 「じゃ、僭越ながら私タクトが、始まりの音頭をとらせて頂きます。我らの拠点に、新しくミニコロボックルのエラン、マリー、キース、レナ、レインボーバードのレインが加わりました!総勢5人と2匹と万様で、これから協力して一緒に頑張っていきましょう!」


 「「「おおー!」」」

 「うふふ」

 「グーググー!」

 「ピイィー!」


 こんな感じで、それぞれが同意の声を上げて始まった歓迎会。やっぱり最初は食事がメイン。


 「グ?グーグー?」


 「うん、次はこれ!」


 「あー、リーフちゃん!わたしもー!」


 リーフは頬いっぱいにパエリアを詰め込みモグモグ食べながら、甲斐甲斐しくキースやレナの給仕をしている。


 「ピイー♪」


 レインは果物の缶詰がお気に入りみたいだ。白桃やみかん、白ブドウ、ライチの缶詰をモリモリ食べていた。


 ……ライチの缶詰は少し残して欲しいところだ。


 「ワインなんて久しぶりね」


 「白ワインならこの蟹も上手く合うな」


 「だろ?万様仕様だからワインもまた美味いし、缶詰だっていいもんなんだぜ」


 そして、大人組の俺とエランとマリーは、ワインをお供にゆったりと食べていたんだ。意外に、だし巻き卵の缶詰がイケるんだわ。


 そんな感じで、食べて飲んで大体腹八分目あたりになった時、エランが話を切り出してきた。


 「……なあ、タクト。タクトが気になったのは次代の《万物の樹》の事だろう?」


 「ん?ああ、あの話か。というか、万様以外に《万物の樹》ってあったんだな」


 「いや、厳密にはそうじゃない。まずはこの世界の言い伝えから話そう」


 そう言って話出したエランの話は、まとめるとこんな感じだった。


 この世界にも一本の《万物の樹》と呼ばれる木があった。


 その樹の下には元々ミニコロボックル達やレインボーバード達が住んでいて、時経つうちに獣人やエルフ、ドワーフ達も集い始めた。


 この世界の《万物の樹》は、周囲の天候も安定させ、土地は豊穣の大地となり、生き物達を癒す空気を育み続けたらしい。


 そこに噂を聞いた人達も集い始めた。


 初めの頃は獣人達やミニコロボックル達を協力し、大地を広くしていったが、人が多くなると欲望が生まれ出した。


 「我らこそこの地を治めるに相応しい」


 人は獣人達より数を増して行き、次第に考えに賛同しない先住民の獣人やエルフ、ドワーフ達を見下し、使役し始めた。


 それを見た獣人達は反発し、いつしか土地は獣人達と人間側で奪い合うようになってしまった。


 それに巻き込まれたミニコロボックル達やレインボーバード達は数を減らして行き、《万物の樹》にまで人が手を出し始めると……


 「なんて事だ!《万物の樹》が枯れてしまったではないか!」


 理由もわからず急に枯れてしまった《万物の樹》に、人は獣人達に罪をなすりつけ、獣人達は人に対して完全に敵意を置き、世界は争いが活発化した。


 その時ミニコロボックル達は気づいたのだという。


 「あの《万物の樹》の場所は何処だ⁉︎」


 争いに巻き込まれ逃げ回るうちに、自分達がいたあの《万物の樹》の場所がわからなくなっていたのだという。


 それは人間や獣人達も一緒で争いながらも以前に、《万物の樹》があった場所を探し求めた。


 しかし百年、二百年……二千年経った今でもその場所は見つかっていない。


 未だ人や獣人の軋轢は大きいが、《万物の樹》に関する考えだけは一致している。


 「この世界の端にその場所は存在する」


 しかし、人や獣人達がこの世界を隅々まで探し回っているにも関わらず、この世界の端が何処かがわからない。


 いつしかあれは作り話だと人々が諦めつつある中、生き延びたミニコロボックル達は世界に散らばり、今も尚、《万物の樹》のあった場所を探しているのだそうだ。


 「ミニコロボックルは100歳で成人する。その時に遺伝子が働きかけ全てのミニコロボックルは、この情報を共有するんだ。そして、ひっそり隠れながらも情報を求めて、移動しながら次代の《万物の樹》を探している」


 「ん?エラン、そこおかしくね?だって探しているのは元々あった《万物の樹》の場所なんだろ?なんで次代なんだ?」


 「そこは我らもわからないが、次代の《万物の樹》に仕える使命も受け継いでいるんだ。だからこそ、その場所に次代の《万物の樹》の情報が存在しているのでは、と考えて探していた」


 「ふーん、そっか。で、万様が本体ってのは?」


 「それはこの地に来て我らが実感した事。同時に、本体様には守り人がいる事もこの地に来て思い出した」


 「ふーん、それで俺が守り人って事に繋がったのか……それにしても聞けば聞くほど俺達が目指している場所って感じがするなぁ」


 「タクト達は何を目指しているんだ?」


 「あー、万様に頼まれたんだよ。荒れた土地の乾いた木のところまでリーフを連れて行ってくれって。その為にコンパスガイドっていう道具もくれたからな」


 「!……という事はタクト達は確実にその場所に行ける訳なんだな⁉︎」

 

 「ああ、うん。多分……」


 「ああ、マリー!この出会いは奇跡だ!」


 「ええ!エラン、本体様が導いてくださるんですもの!きっと見つかるわ!」


 興奮し抱き合う二人に、ワインを口に含みながら今一つ実感のない俺。


 (ま、さっき話を聞いたばかりだしなぁ。……それにしても獣人達が人間と敵対関係にあるかぁ。そっちが問題だな)


 俺は人間だから獣人からは敵対関係にある立場だろうし、かと言って人間の領地だと、リーフやレインやエラン達が危険と来た。


 (うわぁ、こりゃ気を抜けないじゃねえか……!)


 少し不安になってきた俺。


 そんな俺の考えもよそに、周りのエラン達は嬉しそうに家族で喜びあっているし、リーフは新たな缶詰を開けようとしているし、レインに至ってはワインを美味しそうに飲んでいる。


 (……まあ、和やかなこの雰囲気は守りたいよなぁ)


 ふっと力が抜けた俺が秘密基地から見上げると、変わらずどっしり構えて俺達を守ってくれている万様。


 (ま、万様いるし、コンパスガイドあるし、エア・ポートっつうスキルもあるし、なんとかなるだろ!)


 気分を切り替えて俺もワインを飲もうとすると、レナが何かを見つけたらしい。


 「あー!レイン、ワインのんでるー!」


 「うわっ!父さん!レインボーバードって、お酒飲んで良いの⁉︎」


 「不味い‼︎ タクトっ、今すぐレインからワインを取り上げてくれ!」


 「え?リーフも飲めるし、良いのかと思ってたけど……」


 「駄目なのよ!レインボーバードが酔うと……!」


 戸惑う俺をエランとマリーが急かしていると、俺達の様子に気付きふらつきながら羽を広げて「ピイィィィィ」と鳴くレイン。


 すると……



 ザアアアアアアアアアアア……‼︎



 「うおおお⁉︎」


 「ググー⁉︎」


 「雨だー!」


 「すっげえー!レイン!」


 「遅かったか……」


 「あらぁ」


 室内なのに突然降り出した雨。

 急遽皆を俺の下に避難させて匿う事数分。



 ピチョン……ピチョン……


 ようやく雨が収まった時には、ずぶ濡れの俺と一階フロア。


 そして水が溜まって食べれなくなった缶詰達。


 「ピイ……?」


 流石にやってしまったと反省中らしい、濡れて細くなったレイン。その姿に吹き出す子供達。


 「あははははは!レインほそーい!」


 「あはっ!レインの本体ってこんなんだったんだ!」


 笑い出す子供達に釣られてクスクス笑い始めるエランとマリー。俺もその様子に怒るどころが可笑しくて笑い出してしまった。


 「ブハッ!なんだよその姿!自分まで濡れてどうすんだ?」


 仕方ないからタオルでも持ってくるか、と動き出そうとした時「グーグウ♪」とリーフが天井を指差して声をあげたんだ。


 俺も顔をあげて見てみると……


 「きれーい!」


 「虹だぁ!」


 感動して声を上げるキースとレナ。


 「レインボーバードも言い伝え通りだな。大気の水を操り、雨を降らし、その地に希望の虹をかける……か」


 「その土地は幸せを呼び込むともあったわね。ふふっ、その通りじゃない」


 エランはレインボーバードの由来を笑顔で語り、マリーも子供達やレインの様子に微笑みを浮かべている。


 俺もこんな状況を作り出したレインを見て、逆に力を貰う。


 (うん。コイツらと一緒だったら大丈夫な気がしてきた)


 そのまま座り直して、虹が消えるまでじっくりとその時間を楽しんだ俺達。

 

 キラキラと室内を照らす万様からの木漏れ日も相まって、優しく幻想的な一時だった。

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