第9話 新たな仲間達
俺が門をくぐると、編み込まれた根が解け地面に戻っていった万様作成魔導吸引機。
「万様、ありがとうなぁ」
もちろん返事はないけど、風に揺れた葉がサワサワと返事をしてくれているようで、俺は万様に片手をあげて秘密基地に入って行く。
秘密基地の玄関階段を登って一階の扉を開くと、聞こえてくる賑やかな声。
「うわぁ、おかあさん!きれい!」
「父さん似合うじゃん」
「グウグウ♪」
勿論、声の発声源はドールハウスのキース達。リーフに至っては前足を組んでうんうん頷いている。
(何してんだ?)
ヒョイっと覗き込むと、どうやら着替えたのであろうエランとマリーのお披露目がされていたらしい。
エランはベストにシャツにズボンに革靴という執事風、マリーは首元がギャザードネックの黒のロングワンピースとロングブーツのメイド風。
(いや、コレ……リーフもだけど、万様も結構遊んでたんだな)
そう考えていた俺の姿を見たレナが嬉しそうに報告してきた。
「あ、タクトー!みてみて!おとうさんとおかあさんもきがえたんだよ!リーフちゃんえらんでくれたのー!」
「おお、二人共綺麗になったなぁ。でも、エランもマリーもどうした?」
リーフはエヘンと言わんばかりに胸を張っているが、当の本人達は困惑顔だ。
「タクト……いいのだろうか?助けてもらっただけじゃなく、こんな上等な服を着させてもらって」
「いんじゃね?リーフも喜んでるし、万様も着て貰った方が喜ぶだろ」
「まあ、
「そうだな。有り難く使わせて頂くとするよ」
(二人がなんか納得してくれたのはいいけど……主ってなんだ?)
俺が疑問に思っていると、エランとマリーがスッと俺の前に立ち膝をつく。それを見て、慌てて両親の隣に移動し同じように膝をつくキースとレナ。
「万物の樹の守り人タクト。守り人の貴方からも許可が欲しい。我らミニコロボックルを世話役として受け入れてくれないだろうか?」
「私共は、主に守護される守り人の世話役として種族として仕える者。次代の守り人を探して世界に散っておりました。此処に本体様がいらっしゃるのであれば、我ら次代の《万物の樹》が見つかるまで是非ともお世話をさせて頂きたく存じます」
「「お願いします‼︎」」
エランとマリーからの提案とキースとレナの願いに、今度は俺が驚かされる。
「え?俺が守り人って言ったっけ?ていうか、本体様や次代の《万物の樹》って何の事だ?」
「それを守り人に語るのもミニコロボックルの務め。お話しましょう、我らの種族が持つ情報を……」
「……あ?ちょっと待て、エラン!それって長くなるか?」
「おそらく、長くなるかと」
「あー……じゃあ、悪いがちょっと待ってくれるか?さっきからリーフが腹を抑えて俺のズボン引っ張ってんだわ」
そう、俺達がシリアスな話をする中、マイペースなリーフは腹が減ったのか「グ!グー!」と俺のズボンを引っ張りながらキッチンを指差していたんだ。
「お前、燃費悪いなぁ?さっきも食ったろうに」
「グ?グーググウグッ!」
リーフを肩に乗せて指でリーフの腹を突つくと、それとコレとは別と言わんばかりにペシペシ指を叩くリーフ。
「まあ、話は一旦中断と行こうぜ。それに俺もゆっくり聞きたいし、まずやる事終わらせてからでいいか?」
「ああ、我らは構わない。それに、今後の参考にしたいから作業を見ていてかまわないだろうか?」
「ん?じゃ、エランとマリーが俺の肩に乗るか?リーフ、お前キースとレナを背中に乗せてやってくれないか?」
「グーウウ⁉︎」
俺がリーフに頼むと、ご飯は?というかのようにリーフはお腹を叩いている。
「ああ、万様がまた《胡桃マーケット》出してくれるんだよ。食料が追加されているかも知れないだろ?」
「グ⁉︎グーググー♪」
俺が説明すると、理解したリーフはすぐご機嫌になりキースとレナに乗るようにと背中を見せる。
俺はエランとマリーを手の平に乗せて肩まで移動させて、二人が俺の肩に乗って座るのを見守ると、万様の通路に向かって歩きだす。
リーフの背中に乗ったキースとレナ達は、きゃっきゃと笑顔で喜びながら、既にロフトの階段を登っていた。
あ、どうでもいいが、言い方を統一しようと思ってな。
二階ロフト階段から万様に会える三階の通路を、万様の通路って言い方にしたんだ。
だから、今の秘密基地の内部は……
一階 リビング/キッチン/トイレ/
脱衣所/お風呂/ミニドールハウス
二階 俺とリーフの寝室
三階 万様の通路
って感じだ。……いいんだって、センスなんて無くても分かれば!
まあ、誰に言い訳しているのかって話だが。
そんな事を思っていると、万様の通路に繋がる扉の前で既に待っていたリーフ達が早く来いと、手招きをしている。
「ハイハイ、今行くよ」
肩でクスクス笑うエランとマリーの声を聞きながら、ドアを開けると……
「おお!なんて雄大でご立派なお姿……!」
「素晴らしいわ、この清浄な空気……!」
俺の肩の上で器用に膝をつき、万様に敬意を表すエランとマリー。
キースやレナは俺の言い方に倣って「ばんさまー!」「万様ー!」と、リーフの背から万様に手を振っている。
「お、あった、あった」
俺はというと、感動しているエランとマリーを通路に降ろし、通常通り《胡桃マーケット》の胡桃に向かう。
(今回は、デカいのが四つと通常のバスケットボールサイズが二つ……か)
リーフは既にキースとレナを下ろして、バスケットボールサイズの胡桃を開けていた。
「わあっ!綺麗な瓶だ!」
「なかにトロッとしたもの入っているよ?」
リーフが開けた中にはジャム瓶のようなものが三つ入っていたようだ。
中身がわからなかったリーフは、既に蓋を開けて前足を突っ込み舐めて確かめている。
「⁉︎」
すると、尻尾がピンとなり、一生懸命手を舐め回すリーフ。もう片方の前足も突っ込み、キースとレナにも舐めるように勧めている。
(ありゃ、おそらくキラーハニーアントの蜜だろうな)
そう思ってみていると、やっぱり「甘ーい!」「おいしーい!」とキースとレナからも喜びの声が上がる。
「舐めすぎるなよー」と軽く注意してから、俺は1m級の大きな胡桃を開けると、今回出てきたのは布、布、布。
これに喜びの声を上げたのはマリー。
「まあ!こんなに沢山の上質な布があれば、色々作れるわ!」
マリーに言わせると、ミニコロボックルの女性は裁縫や清掃に特化した能力があるらしい。俺の下着や服も作れるし、洗ってもくれるそうだ。
(ま、まあ、此処は恥ずかしがらずに、頼んだ方がいいだろうな)
やはり家族以外に下着を任せるのは少々気が引けるが、正直洗濯をどうするか考えていたので、有り難くお願いする事にした。
俺の中では、もうこの四人を秘密基地に受け入れ決定していたからな。
そして、胡桃の中の色々な種類の布に夢中なマリーをそのままに、次のデカい胡桃を開けると、これには俺が叫んだ。
「うおおお!カップ麺じゃん!それに5食入り袋ラーメンまである!」
正直カップ麺ばっかり食ってると栄養の面で片寄るが、軽く何か食べたい時にはかなり有り難いよな!
いそいそとカップ麺や袋ラーメンの種類を確認していると、手をベトベトにしたリーフと口の周りをベットリ蜜をつけたキースとレナが俺の横にいた。
「あーあー……お前ら、ひでえ状態だな。待ってろ、今濡れタオル持ってくっから」
そう言って立とうとすると、エランが待ったをかける。
「タクト待ってくれ。それには及ばない、【クリーン】」
エランの手からキラキラしたものが出てきて、リーフとキース達を包み込む。
なんとエランは生活魔法が使えるらしい!キラキラ包まれていたものが消えると、綺麗になったリーフとキース達。
綺麗になったのを確認したリーフ達はエランに感謝を伝えると、仲良くもう一つのバスケットボールサイズの胡桃に走っていく。
「凄いな、エラン」
「大人男性のミニコロボックルには、生活魔法とアイテムボックスが使えるようになるんだ」
「え!更に凄え!じゃ、これ運ぶぐらい容量あるか?」
「此処に出ている胡桃ごと全部入れても余裕だぞ?」
ニヤッと笑うエランがちょっと格好良いのは悔しいが、毎朝の胡桃マーケットの移動が楽になる、と思った俺。
早速明日の朝から集めてもらうのをお願いする。
すると、今度はキースとレナの叫び声が聞こえてきた。
「なんだ、なんだ?」
キース達の方向を見ると、卵を持って首を傾げるリーフと、卵を見て興奮気味にはしゃぐキースとレナ。
卵もどうやら食用の白い卵では無く、その5倍はありそうな虹色の卵だ。
リーフがよく持てたなと見ていると、パキパキパキ……と虹色卵から殻の割れる音がし始めた。
「ピイィィ?」
数分も経たずにパカッと卵が割れると、中から顔を出したのは虹色の尾を持つ桃色の鳥。既に体長は30cm以上はありそうだ。
「グウウ?」
「ピイィ?」
既に卵を降ろしていたリーフと桃色の鳥は、お互いに顔を見合わせて同じ方向に首を傾げている。
一方で虹色の卵を見た途端、エランの方に走りだして来たキースとレナが興奮しながら語り出す。
「父さん!あれって絶対そうだよ!」
「おとーさん!おとーさんがいつもいってたあのとりでしょ!」
エランに二人同時に抱きついて、嬉しそうに確認するキースとレナに笑顔で頷くエラン。
「ああ。レインボーバード……私達と同じ《万物の樹》に仕える助け手だ……!」
これにはエランも感動しているのか、感動してレインボーバードのいる方向に歩き出す。
すると、バサッと翼を開いて卵から飛び出たレインボーバードもエランの前に降りて来た。
「ピイ♪」
「ああ。宜しく頼む」
既にお互い通じあっているエランとレインボーバード。エランがレインボーバードに近づき優しく撫でていると、「ズルーイ!」「あ、俺も俺も!」とキース達も走って行く。
エランやキース達もレインボーバードに集まってワイワイ楽しそうにしている中、トテトテと俺の下に歩いて来たリーフ。
俺の足にぎゅっと掴まり「グゥ……」と寂しそうな声をあげる。
「なんだよ、リーフ?キース達が取られたってか?……仕方ねえなぁ」
俺はヒョイっとリーフを抱き上げて、もう一つのデカい胡桃の方へと向かう。
「じゃ、俺と一緒に胡桃の中身確認しようぜ?」
「グー♪」
すぐに機嫌を直したリーフを抱えて胡桃を開くと、更に機嫌が良くなったリーフ。
「ッ‼︎ グーググー♪♪♪♪♪」
俺の腕からピョンと降り、嬉しそうに早速中身の確認に行く。それもそのはず、出て来たものはまたもミニドールハウスだ。
「また万様……凝ったもん作ったなぁ」
出て来たものは、既にあるドールハウスに連結出来るようになっていて、新たに主寝室/客室/書斎/応接室があった。
もはやさっきまで不機嫌だったのを忘れたのであろうリーフは、グーグー歌いながら新たなドールハウスに夢中になっている。
「まあ、予想は出来たけどさ。なんにしてもよかった。じゃ、あとの一つは……と」
俺は俺で残りのデカい胡桃を開けると、またもや万様に感謝の叫び声をあげる。
「うおお!万様、流石!缶詰詰め合わせなんて!」
大量の缶詰製品に浮かれた俺。すると、何やら足元から視線を感じ、振り返ると不思議そうな顔をしているエラン達の姿が。
(そっか……これが何か分からねえと、喜びようがねえもんな。そんじゃ……!)
「なあ、エラン?どーせなら歓迎パーティしようぜ!」
「……タクトも歓迎してくれるのか?」
「当然!これだけ万様が受け入れてんだ!それに俺だって賑やかになるのは大歓迎だしな!なぁ、リーフ!」
「〜♪」
「………」
良い場面なのに、雰囲気を読まずにそのまま確認作業をしているリーフに一瞬動きが止まってしまったが、気を取り直して咳き込む俺。
「う、うん!ともかく大歓迎だ!なあ、キース、レナ?レインボーバードも増えたし、みんなで歓迎パーティしようぜ!」
「うわぁ、やったー!」「よっしゃ!美味いもん食える!」
流石、子供はノリが良い!
歓迎ムードも高まりエランもマリーも笑顔で頷く事で、急遽開催する事になった歓迎パーティ。
勿論メインは缶詰だけどな!
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