第8話 キラーハニーアントとエランとマリー
「【エア・パウチ】ッ!」
俺が叫んだ途端、コンパスガイドから照準画面が現れて、初めてキースとレナの両親が見えた。
走る二人の後ろには、二人より少し大きな蟻のような魔物の集団。
(おわっ……!いっぱいいすぎて気持ち悪ぃ……!)
俺は気持ち悪さを我慢して照準を蟻の魔物に合わせ、【エア・パウチ】を連打して行く。
俺が攻撃している隙に飛び出していたリーフは、キース達の両親を前足で捕まえてテテテテッとこちらに走って来た。
そんなリーフの後ろを狙って来る蟻の魔物を、俺は連打で【エア・パウチ】化してフォローする。そして無事リーフが俺の下に到着し、ミニコロボックル家族全員が合流する事が出来たようだ。
「グーフー……!」
慣れない二足歩行ダッシュをしたリーフは、現在キース達と同じ胡桃の中で伸びている。
俺と蟻達の戦いが継続している中、胡桃の中では親子の感動の対面が始まっていた。
「父さん!母さん!」
「おとーさあん!おかあさーん!」
いきなりの展開に戸惑うキースとレナの両親に、喜びの笑顔と安堵から来る涙を流しながら抱きついて行くキースとレナ。
「キース!レナ!」
「ああ、良かった‼︎無事だったのね⁉︎」
抱きついてくる息子や娘を笑顔で抱きしめる二人。
……感動の瞬間を邪魔するのもなんだしと思っていた俺は、黙って横目で様子を見ていたんだけどさ。
二人の姿がちょっと意外だったんだよ。
大きく胸元が開いた葉っぱのワンピースを着て、抱きついたレナの頭が埋もれるくらいグラマラスな母親。そしてその母親ごとキースを抱きしめる、四人の中で一番大きい体型の葉っぱ服を着た父親。
(小さくても大人は8頭身はあるんだな)
妙なところに関心する俺。
……正直、キースのちょっと大きい版かとイメージしていただけに、大人のミニコロボックルのイメージを急遽修正する。
余談だが、大体キースは6頭身でレナは5頭身。人間の見た目でいったらキースが12歳で、レナが6歳ぐらいといったところだろうか。
(何にしても、顔が整っているのは同じなわけね)
魔物の蟻達を相手にしながらどうでもいい感想を抱いていた俺の下では、感動の再会が終わったらしくキースとレナに両親からの説教が始まっていた。
「全く!レナの帽子をキラーハニーアントが咥えていたのを見て、俺とマリーがどんな思いでいたか……‼︎」
「ごめんなさあい……」
「……レナが落としたみたいで、どこ行ってたのか探してたら道に迷っちゃったんだ……」
耳を傾けていると、何故両親が魔物に追われていたのかも、キース達があんな場所にいた理由も判明した。
キースは外の世界に興味があったらしい。
棲家の周りの小さな世界だけじゃなくもっと外の世界を見てみたい、とミニコロボックルには珍しく冒険心を持っていたキース。
一人でコッソリ家を抜け出してちょっと探索するつもりが、ちゃっかり後ろに付いてきていたレナ。
しばらくすると、レナが被っていた帽子を何処かに落としてしまったらしく、泣き出したレナをキースが見つけて、二人で探していたらしい。
そして道に迷っていたところ、俺達に見つかったと。
そんな中、家にいない二人に気づいた両親は、キース達を探して森を探し回っていた所、キラーハニーアントの巣を発見。
しかも、一匹のキラーハニーアントがレナの帽子を持って巣の中に入って行ったのを見て、思わず母親が叫び声をあげてしまったらしい。
当然、キラーハニーアント達に見つかり、逃げていた最中に俺達が合流したというのが全貌らしい。
「外は危険だと教えていただろう⁉︎今だって……‼︎」
「……ねえ、貴方?この子達が無事で安心したのはよくわかるわ。でも、何よりも助けて頂いたこの方達に感謝を伝えるのが先じゃないかしら?」
シュンとしてしまった二人の肩に手を乗せながら、その後ろで見守っていたリーフと話を聞き入っていた俺に目を向ける母親。
あ、キラーハニーアントは全部パウチ済みだぞ?今は、赤い磁針が点滅して消えるのを待っている最中だったんだ。
因みにキラーハニーアントの詳細もわかった。
『名称: キラーハニーアント Dランク
攻撃的な性質の蟻の魔物。特徴は蜜を携えた大きな腹と集団で行動する事。この魔物の集団の通った後にはほぼ何も残らない。格上の魔物さえも集団で攻撃する為、規模の大きな集団に出会ったら戦いを避ける事を推奨。素材として、腹の蜜壺は絶品で貴族に人気』
(……うん。俺【エア・フロート】無きゃ逃げてたわ……)
未だに虫が人間を襲う映画が苦手な俺。正直言って、よく対峙出来たと自画自賛したい。
まあ、話を戻して……
「大変失礼をしました。我が家族の命の恩人を蔑ろにしてしまいお詫び致します。私はミニコロボックル種のエランと申します。隣にいるのは妻のマリー。改めて、私共々家族を救って下さった事に感謝致します」
俺と目が合ったキースの父さんであるエランさんが、代表して俺とリーフに頭を下げる。
その様子を見て続けて頭を下げる3人に、リーフは「グウ♪」とご機嫌に返事をし、俺といえば日本人の性ゆえつい慌てて顔を上げるようお願いする。
「あ、いや。顔をあげて下さい。困っていたら助けるのは当たり前ですし、それに俺も聞きたい事があって探してましたし!」
素直にどう致しまして、と受け入れられない自分をちょっと情けなく思いつつも、四人に声をかける。
リーフも「グーウウ♪」と言いながら四人を尻尾で撫でていた。
「聞きたい事とは……?」
俺の言葉にようやく顔をあげてくれたエランさん。不思議そうな様子に、キースとレナがエランさんに嬉々として伝え始める。
「ミニコロボックルの事が知りたいんだって!」
「おとーさん!《万物の樹》もあったんだよ!」
二人が交互に情報を伝えていると、驚愕の表情で制するエランさんとマリーさん。
「ちょ、ちょっと待て⁉︎《万物の樹》があっただと⁉︎」
「え?待って⁉︎どういう事なの?」
二人共子供達に問いただそうとしていた為、俺は間に入る事にした。
「んーまあ、見てもらった方が早いと思うし、どうでしょう?エランさん、マリーさんも俺達の拠点にきてみませんか?」
俺の提案に夫婦でしばらく顔を見合わせた後、俺を真っ直ぐ見つめてきたエランさんとマリーさん。
「助けて頂いた上に申し訳ないのですが、その提案に是非乗らせて頂けませんか?」
「それに、私共が恩人に敬称を使われるのは分不相応ですわ。是非普通にお話し下さいませ。私共は呼び捨てで構いません」
「ん〜……じゃ、エランとマリーでいいかな?俺はタクト。こっちは相棒のリーフ。それで、俺に対しても出来たら普通に話してくれると嬉しいんだけど駄目か?」
「恩人である貴方の願いならば……是非、宜しく頼む」
「子供達も貴方に慣れているみたいですし、こちらこそお願いするわ」
堅苦しい雰囲気が苦手だったから、二人がすぐ対応してくれて俺もホッとする。
すると、キースもレナも自分達の体験した事を嬉しそうに両親に話始めたんだ。
リーフも俺の腕を登ってきて、顔をペシペシしながら早く帰ろうとばかりに俺を急かす。
コンパスガイドを見ると辺りに新たな磁針はないし、キラーハニーアントの太い赤の磁針も消えている事を確認出来た為、「【ギア・メインポート】」と唱えて門を出す事にした。
(先にエラン家族とリーフを秘密基地に届けてから、キラーハニーアントを回収に来ても良さそうだな……)
そう考えていると、目の前にまたコンパスガイドのウィンドウが現れる。
『《ミニコロボックル》のエランとマリーも秘密基地に招待しますか? はい(MP2000消費)/いいえ(キャンセル)』
俺は『はい』をタップし、そのままフヨフヨと浮いたまま門をくぐると……
「父さんと母さん連れて来た!」
「またきたよー!」
胡桃の中から元気に万様に報告するキースとレナの横で、万様を見て驚き抱き合いながら涙を流すエランとマリー。
エランとマリーの反応が気になりつつも、とりあえず秘密基地の一階のミニドールハウスの前までそのまま飛んで来たんだ。
「グッ」
着いた途端に俺の肩から飛び降りたリーフは、早速胡桃の中から四人を抱き上げドールハウスの玄関へと連れて行く。
慣れたキースとレナは笑顔だったけど、大人の方は驚きすぎて口が開いたまま玄関で佇んでいた。
「なんだ……?この豪華な屋敷は……?」
「えええ……!凄い素敵……!」
そんな二人の手を引っ張り中に連れて行くキースとレナに、早速ゴソゴソと何か準備をしているリーフ。
(リーフに接待をとりあえず任せて、俺は回収に行ってくっか)
皆の様子を見て秘密基地を出てきた俺は、また門のところまで戻ってコンパスガイドを開いて外に出る。
「うっわ……コレ、俺が回収すんのか……」
エア・パウチ化されたとはいえ、やっぱり通常よりデカい蟻の集団に腰が引けてしまった俺。
(どうすっかな?)
量が量だけに道具が欲しいと思った俺が門を振り返ると、中では万様が細い根を使って編み込んだ長い筒状のホースを用意していた。
なんだコレ?と思って門の中に戻り触ってみると……
(え?コレをキラーハニーアントに近づけると勝手に吸い込んでくれるって?……ああ、俺がエアパウチしたから吸い込めるようになったんだ……!成る程、便利!)
頭の中に映像を浮かばせる万様の説明によると、吸いこんだ後は解体してまた《胡桃マーケット》を出してくれるらしい。
「さっすが、万様!コレ、魔物吸引機じゃん!」
触らなくても良くなった俺は、ウキウキ状態でキラーハニーアントの下に戻り、魔物吸引機となった筒状の根を近づける。
ギュオオオッと吸い込み音がしたかと思うと、エアパウチ化されたキラーハニーアントがドンドン吸い込まれて行く。
「おお!あっという間に終わった!」
嫌な事が終わったのが嬉しくて、魔物吸引機を回収してすぐ門を閉じた俺は気づかなかったんだ。
ーーーコンパスガイドに、緑の長い磁針が一本示されていたのを……
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