第7話 キースとレナとリーフ

 「お、おにいちゃん!アレ……⁉︎」


 「レナ……万物の樹だ!本物⁉︎」


 門を潜って戻って来た途端に、万様の事を言い当てたミニコロボックルの二人。勿論、リーフの前足に抱えられたままだけど。


 「リーフ?そろそろ二人を離してやっても良いんじゃないか?」


 「グーウッ!」


 イヤイヤと首を横に振るリーフ。トテトテ歩いて行き、秘密基地の玄関ドアを開けろとばかりに尻尾でトントンして、俺を振り返る。


 (開けろってか。あー……コロボックル達には悪いけど、リーフの遊び相手になって貰うか)


 そう思ってドアを開けると、階段を見て俺を振り返って「グー!」と鳴くリーフ。


 どうやら、ミニコロボックル達を抱えているから階段を登れないらしい。


 「わかった、わかった。ほら抱っこしていくぞ」


 「グーウ♪」


 俺に抱っこされるご機嫌なリーフに抱えられている二人は、物珍しいのか黙ってキョロキョロと辺りを見回している。


 「はい到着〜!」


 「グッ!」


 「わああ!」「きゃああ!」


 階段を登った先の秘密基地の一階に着いた途端、俺の腕からピョンッと飛び降りたリーフ。


 リーフに抱えられていた二人にすると、高いところから急に落ちる感覚だったのか、叫び声をあげていた。


 無事着地してもわあわあ何かを叫んでいる二人を、リーフはご機嫌な様子でトコトコ歩き、万様が一階に移動したであろうミニドールハウスにそっと置く。


 「え?何ここ?」


 「僕らサイズの家?」


 「グーグー♪」


 二人がまたもやキョロキョロとする中、リーフはどうぞどうぞと中へ二人を押し入れる。そしてリーフはお風呂場を開けて、「グーウ!」と二人を誘導している。


 (リーフがあの二人をもてなしているのか?遊んでいるようにも見えるが……)


 とりあえずミニコロボックル達の事はリーフに任せて、俺はキッチンへ向かうと、残りの食材を見る。


 (お。万様、朝のゴミ吸収してくれたのか)


 シンクの中にあった三角コーナーが綺麗になっていた事によって、ゴミ問題も大丈夫なんだな、と思った俺。


 それでも、《胡桃マーケット》の胡桃の山を見てため息を吐いてしまう。


 なぜなら、食材は胡桃の中に入れて保存しているから、一旦開けないと中に何が入っているのかわからない。


 (万様に冷蔵庫お願いできねえかなぁ……)


 人間の欲は尽きる事はないもんだ、と考えながら胡桃をパカパカ開けてお店開きをしていると……


 出て来た食材は、肉、玉ねぎ一個、卵に、レトルトカレー、精米された米と朝の残りご飯(少し)、ウィンナーにベーコン。


 「んじゃ、あの二人用に他人丼でも作ってやるかね。ん?ついでに昼用に俺のも作っておくかぁ」


 独り言の多くなった俺は、土鍋に残っていたご飯を皿に寄せて、土鍋を洗い、また米を炊く準備をする。


 それが終われば、玉ねぎと肉は細切れにし、水をコップ半分程フライパンに入れて、酒適量と鶏ガラだしを入れる。


 「まあ、男の料理だ。一挙に行こう」


 沸々と泡が湧いて来たら、玉ねぎと肉を入れて灰汁を取る。そしたら醤油で味を整えて、溶いた卵を入れたら余熱でオッケー。


 「っし。こんなもんだろ」


 「グーウグー!」


 料理の一区切りついた時、匂いに惹かれたのか足元でリーフが俺のズボンの裾を引っ張っていた。


 「なんだ?リーフ」


 「グーグー!」


 下を向くと、小さなお皿二枚とコップ二つを差し出して来たリーフ。


 (ああ、あの二人の分取りに来たのか。それにしても……)


 リーフから食器を受け取ったのは良いが、小さいだけあって盛り付けが難しい。


 それでもなんとか盛り付けてリーフに渡すと、リーフは前足で上手くお皿を持って、ゆっくりトテトテとドールハウスに運んで行く。


 (尻尾でバランスとってんのか、あいつ)


 リーフのピンッと立った尻尾が右に左に移動している様に、ほんわかしながら俺も小さなコップに水をいれて後ろをついて行く。


 「グーウグー♪」


 時間をかけてドールハウスに辿り着いたリーフが二人に声をかけると、二人はドールハウスの中のリビングソファーに座っていた。


 「あ、あの……」


 「えっと……」


 俺を見て気まずそうにする二人は、葉っぱの服からドールハウスのクローゼットにあったであろう服に着替えていた。


 「お、二人とも綺麗になったな。さっき出来たばかりの卵料理だ。食べてみてくれ」


 俺が二人に食事を勧める間テーブルに料理を置いたリーフは、ドールハウスのキッチンからミニスプーンとフォークを出して、二人の前にセットしている。


 (リーフがおままごとしているみたいだ)


 なかなかに可愛いシチュエーションにほのぼのしていると、少年の方が俺に話し出した。


 「その、色々ありがとうございます。今更ですけど俺、キースって言います。こっちは妹のレナ。実は、道に迷っていて家に帰れなかったんです。お腹も減っていたところだったので……」


 「そっか。キースとレナだな。俺の事はタクトって読んでくれ。まず、詳しい話は後だ。冷めない内に食べてみてくれ」


 「はい!レナ、食べよう」

 

 「うん、おいしそう!」


 俺の言葉に嬉しそうにスプーンを握る二人。卵丼を一口分掬い上げ口に入れると……


 「旨い!」


 「おにいちゃん、おいしいねぇ!」


 顔を見合わせて声を上げ、そのままパクパクと食べ始めてくれた。


 俺もホッとしていると、足元のリーフが俺のズボンを掴み「クーウー……」と声を出して見上げてくる。


 「なんだ?リーフも食べたいのか?」


 「グー!」


 「んじゃ、待て。今ご飯も炊けるだろうし、持ってくるから」


 「グ!」


 結局俺とリーフもキース達と一緒に食べる事にして、床に座って一緒に食べながら話を聞いていると……


 「そっか。ミニコロボックルはもう四人しかいないのか……」


 「うん。というか、俺ら家族しか見たことないんだ」


 「でも、お父さん言ってたよ?みんな《万物の樹》さがしていろんな場所にいるんだって」


 「ググウ?」


 キース達がモグモグ食べながら今の状況を話してくれるまで懐いてくれたのは良いけど、更にミニコロボックルがいる事を聞いたリーフが目をキラキラさせて俺を見る。


 (コイツ、おもちゃが増えるとでも思っているんだろうか?)


 ともかくリーフからの目線を無視して、キースに俺は疑問を投げかける。


 「なあ、なんで万物の樹をミニコロボックル達は探しているんだ?」


 「父さんは、俺らミニコロボックルは《万物の樹》の世話係なんだって言ってたよ」


 「うん!おせわするの!」


 二人は嬉しそうに教えてくれるが、万様はあの世界とは異次元に存在しているから探しても見つからないだろうし……と更に疑問に思う俺に、キースが提案して来た。


 「タクト……あのさ。もっと詳しい事は、父さんと母さんが知っていると思うんだ。それで、父さん達を迎えに行って、ここに連れて来たいんだけど、駄目かな?」


 「おとうさんたちにもみせたいの!」


 キースとレナからのお願いは、俺にとっても都合が良い。そんなん考えるまでもなく返事をする。


 「勿論良いぞ。何よりリーフを見てみろ」


 リーフといえば、話を聞いた途端に俺をペシペシ叩いて、外を指さして催促しているんだ。


 「グーグー!グーグー!」


 「ハイハイ。行くよ、行きますよ。じゃ、二人共道案内頼めるか?」


 「わかった!」「うん!」


 互いに目的が一致し、また外に出ることにした俺達。キースとレナの移動のため、半分に割れた胡桃の中に入って貰って出発することにした。


 まあ、案の定リーフまで胡桃の中に入って来て、ちょっと重くなったけどさ。

 

 胡桃を抱えて移動する俺は、秘密基地から外に出てまた門を出すと、両手が塞がっている事に気づく。


 (やばい……コンパスガイド開けねえ……!)


 門の前まで来て立ち止まる俺を、胡桃の中から見上げるリーフとキース達。


 (じゃ、やっぱこれ使うか……!)


 そう思った俺は、地面にあぐらをかいて座り、胡桃を股の間に置いてコンパスガイドを開いて、【エア・フロート】を唱える。


 すると、俺がふわふわ浮き出してきて、胡桃の中でキース達がはしゃいでいる。


 「すっげぇ!浮いてる!」


 「うわぁ、おもしろい!」


 「グーグー♪」


 リーフに至っては何故か自慢気に前足組んで頷いているけど。


 まあいいか、と気にせず地面から高さが1mくらいのところまで上昇し、ゆっくり前に進み出した俺。


 「うわぁ!早い!」


 「はやーい」


 キースとレナにとっては大人が歩く速さでも早いのだろう。胡桃の縁まで来て、顔を出して喜んでいる。


 リーフは眠気が勝ったのか、胡桃の中で丸くなり欠伸中。


 そんな感じでキースが指指す方向にゆっくり進むと、コンパスガイドに現れた緑の磁針2本。


 と、同時に現れた太い赤の磁針。


 「太い磁針⁉︎って事は大きいのか⁉︎」


 そう思って磁針の方向見ると魔物の姿は見えず、横一面草が倒れて行く様子が見えた。


 「父さん!母さん!」


 「いやあ!」


 キースとレナの目にはどうやら両親の姿が捉えられたみたいだが、俺の目には黒い大群が目に入る。


 (あれは……デカい蟻?)


 「タクト!お願い!急いで!」


 「おとーさん!おかーさーん‼︎」


 俺が少し戸惑う間にも、キース達の両親と蟻もどき達の距離が少しずつ詰められているらしい。


 (調べている暇はないか……‼︎)


 「【エア・パウチ】ッ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る