ルーメリアの森編

第6話 未知との遭遇

 ペシペシ……


 ……ん、なんだよ。まだ寝かせてくれよ……


 ペシペシッ!ペシペシッ!


 っ!……くそお、痛いけど、俺はまだ眠いんだって……


 「グーウ……?」


 トテトテトテトテ……


 ……よし、諦めて行ったな。じゃ本格的に……


 ゴッゴンゴッゴゴンッドン!


 「グ!グーウグッ‼︎」


 「な!なんだ、なんだ⁉︎」


 ガバッと起き上がりベッドから出てみると、階段の上から胡桃マーケットの胡桃を転がしているリーフがいた。


 「リーフ。……もしかしなくても、その胡桃で俺を起こそうとしてたのか……⁉︎」


 「グウ♪」


 「いや、駄目だからな!胡桃って痛いんだからな!」


 「……グーグ♪」


 「いや、可愛く首傾げても駄目!……ってか、胡桃の中身って大丈夫なのか?」


 落ちて来た胡桃の中身が気になった俺は、上でグーグー文句言っているリーフを無視して、中身を開ける。


 「パックに入った卵⁉︎よくご無事で!」


 「グーグググー!」


 ゴンッゴゴゴッゴンゴンドドドドーン!


 俺が卵を手に取っていると、今日の分の《胡桃マーケット》を階段から落とすリーフ。


 「うおおおお!危ねえっ!」


 思わずパックの卵を抱きしめて階段から離れると、トテテテっと階段から降りて来て「グー♪」とリーフが自慢気に俺の前に立つ。


 「あー……うん。色々言いたいが、とにかく胡桃を集めてくれたんだな?ありがとな」


 「グーウウ♪」


 頭を撫でると目を細めるリーフの姿に癒されるも、出来るだけ朝はしっかり起きようと思った俺。


 「さて、じゃあ折角リーフが集めてくれたんだ。今日の《胡桃マーケット》の確認すっか」


 「グウウ!」


 リーフと一緒に集めながら一つずつ確認すると……レトルトカレーセット、調味料セット(鶏ガラ/コンソメスープの素/キムチの素/ビーフシチューの素)、ワインセット(赤/白)、生肉塊が出て来た。


 「うわおっ!流石は万様!わかってらっしゃる!」


 「グーウゥ?」


 調味料セットが出て来た事で思わず万物の樹に感謝を叫ぶ俺に、なんで喜んでいるのか理解出来ない声を出すリーフ。


 「リーフゥ、これで美味いモンもっと作れるぞ!期待してろよ!」


 「グ⁉︎グーグー♪」


 ご機嫌な俺は、とりあえず壊さないように卵や調味料を胡桃に戻し、最後の胡桃に手をかける。


 (これだけサイズ違ったんだよな……かなり期待できそうなんだよな)


 小さな頃から楽しみは後に取っておく性格の俺は、一番大きい胡桃を最後に残していたんだ。


 (だって1mくらいはある胡桃だぞ?何かいっぱい入ってんじゃないか?)


 ワクワクしながらパカっと開けて見ると出て来たのは……


 「……なんだコレ?今更俺に人形遊びでもしろって事か?」


 「グウウ?」


 そう、中から出て来たのは、某有名ファミリーの家のような精巧なミニドールハウス。


 (もしかしなくても、リーフの遊び用か?)


 ちょっと期待外れだった俺を尻目に、リーフが早速半分に家を分けて中を見ていた。


 「グウ?グ!グーグー♪」


 色々と中をチェックするリーフ。水道から水は出るし、ベッドには寝具付き、結構豪華な家具付きで2LDK/トイレ/風呂付きってとこだな。


 (無駄に性能良いな……流石万様と言うべきかなんというべきか)


 嬉しそうに色々チェックするリーフをそのままに、俺は服に着替えて一階に降りる。


 (今日は朝カレーだな)


 俺はレトルトカレーセットの胡桃を持ち、キッチンに向かうと、早速米を洗い出す。


 手順は昨日の通り。炊飯器で炊くより美味いし、早いし、手間さえ惜しまなければ、俺はこっちの方が好きだ。


 (まあ、炊飯器って便利だけどさ。ないもんは仕方ないし)


 つい日本での生活を思い出してしまう贅沢な俺だったが、この暮らしも楽しんでやると良いモンだ。


 時間はゆっくり過ぎていくし、しっかりご飯は食べれるし、困った時には万様がいる。


 (うん、俺こっちの生活が性に合ってるな)


 のんびりした時間を過ごすのが好きだった俺には、ネットやゲームが無い生活も結構受け入れられる。


 「お、リーフ。おもちゃで遊ぶの終わったか?」


 どうやら飽きたらしく、俺の肩によじ登って来たリーフ。


 「グーウ!グ?」


 「ん?これか?レトルトカレーっていって、簡単に美味いモノが食べられる優れ物だ」


 「グウ?グー?」


 「疑ってんのか?まあ、待ってろって」


 首を傾げて目を細めるリーフ。カレーの旨さを知らないからなと思い、食べた時の様子を楽しみにしながら土鍋の様子を見る。


 ブクブク……カタカタ音を出しながらご飯の匂いがしてくると、リーフもピンと尻尾を上げる。


 (米、リーフも好物になったかな?)


 フンフン鼻歌歌いながら待っていると、しばらくしてご飯が炊けた。レトルトカレーもあったまり、俺とリーフのご飯を分けて用意する。


 (いきなり辛口は可哀想だし、やっぱ最初は甘口だよな)


 俺の優しさで選んだカレーを皿に分けてスプーンも用意し、リビングのテーブルに持っていくと、やっと朝ごはんの時間だ。


 椅子に座って「いただきます」を言う俺の真似をして、リーフも「グーウ!」と言っている。だけど、ジッと俺の食べるのを待っているリーフ。


 (まあ、この見た目だからなぁ……)


 慣れた人には美味しく映っても初見はやっぱり疑うんだな、と思いながら口に運ぶと、口に広がるスパイシーな味。


 日本人用にマイルドな味わいを追求するカレー会社に感謝をしつつ、モグモグ食べ進める俺の様子に、ようやく匂いを嗅ぐリーフ。


 「⁉︎」


 やっぱり尻尾がピンとなり、その後ガツガツ食べていく姿にホッとしつつ、気がつけば俺もリーフも皿の中身が無くなっていた。


 「クウーウ……」


 「リーフもか。やっぱりカレーは二杯は余裕で行くよなあ」


 悲しげな声を出して皿を見つめるリーフを見て、俺は笑いながら二杯目を用意する。


 こんな感じで、朝からしっかり食べ過ぎた俺達。でも気合いは十分だ。


 皿を洗って片付けたら、準備はオッケー!


 「じゃ、行くか!」


 「グーグー!」


 昨日と同じように万物の樹にも挨拶をして、扉を出すと……


 「良し!今日は辺りに魔物反応無し!」


 コンパスガイドを出して、辺りを見回しながら歩き出す。因みにリーフは俺の肩の上。


 道なき道を歩き、周りにも注意し、方向がズレていないか確認しつつ歩き続ける事一時間……


 俺はバテた。



 「グーウッ!」


 倒木に腰掛けつつ息を整える俺に、ペシペシと足を叩くリーフ。


 「はあ……はあ……マジで人の手の入って無い森を舐めてたぜ……」


 少し反省しながら息を整え、油断大敵と思い直しコンパスガイドを確認すると……


 「なんだ?この緑の磁針?」


 魔物の細い赤の磁針では無く、今度はミドリの磁針がコンパスガイド上に現れた。しかも2本。


 「すげえ短い磁針って事は、俺達のすぐ近く……?」


 バッとすぐ辺りを見回すも、見えるのは木々が生い茂る森の風景。


 「グ‼︎」


 さっきから2本足で立ち、辺りの匂いを嗅いでいたリーフがいきなり走り出したんだ。


 「ちょっ、リーフ!止まれっ!」


 俺の制止も無視して、ガサっと草の中に飛び込んでいくリーフ。その後を追おうと俺も立ち上がると、草の中から叫び声が上がった。


 (リーフに何かあったか⁉︎)


 慌てた俺が草を分けて声の方向へ進むと……


 「妹を離せっ!」


 「グー?」


 平たい石の上で立ち上がっているリーフの前に、棒を構える小さな少年がいた。


 (いやいや、小さすぎね?)


 そしてリーフの両手に掴まれている、フルフルと震える小さな小さな少女。


 (うん。当事者達は緊迫した雰囲気だろうけど、なんか和む……)


 少し安堵した俺は、コンパスガイドの緑の磁針をタップする。すると、出てきたのはこれ。


 『《ミニコロボックル》希少種

 大人でも推定20〜23cmの大きさにしかならない。綺麗好きで手先が器用。但し、人によって乱獲された時期もあり、今では希少絶滅種。姿を見せる事無くひっそり暮らすのを好む。寿命は約300歳と伝えられている』


 (うおお!来たよ、コレ!正に異世界ってやつ)


 「くそおっ!離せー!」

 

 「おにいちゃん!」


 「グーグー♪」


 声がして顔を上げると、俺がコンパスガイドを見ている隙に目の前の状況は変わっていたらしい。


 リーフが両手にミニコロボックルの二人を抱き抱えていた。


 「グーウグ?」


 俺を見つけたリーフがトテトテと歩いて近づき、飼っても良い的な感じで、首を傾げて声を上げる。


 俺は未だジタバタしている二人に声をかけてみる事にした。


 「なあ、俺はタクトっていうんだ。コイツはリーフ。良ければ名前教えてくれるか?」


 「誰が知らない奴に教えるかっ!」


 「まあ、そうだよなぁ。でもよければ家まで送って行こうかと思ってさ。この辺に家はあるのか?」


 「………」


 一応家や家族がいるなら送って行こうと思ったが、黙り込んだ少年。その上リーフが余りにも絶望的な顔をする為、もう一つ提案をする事にした。


 「じゃ、じゃあ一旦俺達の住処に来ないか?腹は減ってないか?」


 「……」「⁉︎」


 コレには女の子の方が反応した。


 「怪しいかも知れないけど、危険な事は何もしないって万物の樹に誓うからさ。休みに来ないか?」


 この世界の神は知らないし、とりあえず万様に誓ってみたら女の子が初めて声を出した。


 「おじさん、万物の樹知ってるの……?」


 「おじ……!ああ、俺は万物の樹を見たことがあるんだ。というか君達も知っているのか?」


 俺の問いかけに、顔を見合わせるミニコロボックルの二人。


 「……行く」


 少年が覚悟を決めたように肯定し、少女は嬉しそうな表情を見せる。何よりご機嫌だったのはリーフ。


 スリスリとミニコロボックル達に顔を擦り付け、尻尾をぶんぶん振っていた。


 「良し。じゃ、君達二人をウチへ招待するよ」


 そして【ギア・メインポート】を唱えると、門が出てくるのと同時に、コンパスガイドからウィンドウ画面が出て来たんだ。


 『《ミニコロボックル》のキースとレナを秘密基地に招待しますか?    はい(MP2000消費)/いいえ(キャンセル)』


 俺は『はい』をタップし、二人を抱き上げているリーフごと抱き上げて、1時間振りに秘密基地へ戻って行った。


 (しかし……俺って、おじさんかよ……)


 ……地味におじさん呼びに傷つきながら。

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