第5話 万能な万物の樹

 ひと仕事終えた気分そのまま、今日の祝勝会をする事にした俺とリーフ。


 でもその前に……


 「っはあ〜!やっぱ風呂は良いわ!」


 「グーグー!」


 アンバージャッカルの毛皮を改良したジャージに着替えた俺は、ボディタオルを頭から被ったままリビングに戻って来た。


 因みに俺の真似をしているのか、リーフもまたハンドタオルを頭から被って二足歩行でトテトテ俺の後をついてくる。


 「リーフ。お前、風呂も大丈夫だったんだなぁ」


 「グーウ♪」


 「ほら貸せって、拭いてやっから」


 「グー!」


 リビングの椅子に座って、もう一度リーフをしっかりタオルドライをし、俺もガシガシと頭を拭く。


 「それにしても、まさか万物の樹がアンバージャッカルを吸収するとはね……」


 「クウ?」


 ブオーとリーフにドライヤーを当てながら、さっきの出来事を思い出す。


       ***********


 あの後しばらくリーフと戯れあっていたら、ズズズズズ……と地面が振動し始めたんだ。


 慌てて起きてみたら、【エアパウチ】化したアンバージャッカルに万物の樹の根が絡みついていたんだよ。


 「え?おい、なに始めるんだ?」


 そう言って絡みついている根に触ると、頭の中にまた映像が流れ込んできた。


 木の根が地面に【エアパウチ】化したままのアンバージャッカルを取り込み解体した後、毛皮でジャージを作る映像と、その魔石を吸収し本日もう一度胡桃マーケットを出す、と言う映像だった。


 アンバージャッカルの利用価値は毛皮と魔石だけだったのか、肉や他の部分は土の栄養になるらしい。


 (正直、持って来たもののどうするか考えてたところだったから、めちゃくちゃありがたい!)


 「わかった。じゃ、頼むよ」


 そう言ってその場を離れると、次々とアンバージャッカルを地面に取り込んでいく万物の樹。


 (これだけ見ると、結構ホラーだなぁ)


 「‼︎ グーグー!グッ!」


 ボー……ッと突っ立って見ていると、また俺のズボンの裾を引っ張り秘密基地の中を指差すリーフ。


 「ん?リーフ?どうした?腹減ったか?」


 「ググー」


 俺の問いに首を振りながら、俺に早く行こうとばかりに引っ張るリーフと共に秘密基地に戻ると、リーフはスルスルとロフト階段を登り、万物の樹本体に会う為の階段を指差す。


 「ん?万物の樹に会いに行くのか?」


 そう思って後をついていき扉を開けたら……


 「お!既に胡桃あるな!」


 「グーグー♪」


 バスケットボール大の胡桃に抱きつき、パカッと開けていくリーフに続いて、俺も胡桃を開けていったんだ。すると……


 「お!すげー!これ、ジャージじゃん!部屋着にいいな、コレ」


 「グーググ?」


 「リーフ、それドライヤーだぞ!うわ、ありがたい」


 「グーウゥ」


 「そんな残念な顔すんなリーフ。食うもんじゃなくても必要なんだぞ?このブラシとか。お、二つあるし、俺とお前用にすっか」


 「ググッ!グーグー♪」


 「今度は何見つけた?……やった!ウィンナーとベーコンセットじゃん!コレは早速食べようぜ!」


 「グー♪」


 こんな感じでリーフと協力して開けていった結果、今回の胡桃マーケットにはジャージ上下セット、ドライヤーとクシセット、ウィンナーとベーコンセット、下着セット、石鹸とタオルセット、野菜セットが入っていた。


 (なんかガチャみたいで楽しいよなぁ)


 因みに、残ったんであろうアンバージャッカルの革は加工が済んだ状態で二枚そのまま置いてあった。


 (コレは軍資金集めにいいな)


 いそいそと全てを秘密基地に運び、お風呂の準備をして、リーフを丸洗いしながら俺も洗って今ココ。


 「おおー!リーフ、ツヤツヤでいいねぇ!」


 「グー♪」


 ブラシでリーフの毛並みも整えたら、綺麗になったリーフ。自分でも後ろと尻尾を確認して「グーグー」嬉しそうな声を出している。


 俺は俺でジャージの着心地がサラサラしていて満足だ。


 (っし!やる気失せる前に飯作っちまおう!)


 両膝をパンと叩き、立ち上がるとキッチンに向かう。すると、調理道具に土鍋が一つ増えていた。


 「おおー!わかってるねえ、万様ばんさま!お米は土鍋で炊きたかったんよ」


 つい気分が上がって、万物の樹の事を万様呼びする俺。


 鼻歌を歌いつつ、土鍋で精米されていた米を研ぎ、何回がすすぎ洗いをして、水の量を手で測る。


 (大体米を平らにして、中指の第一関節辺りで良いってネットであったよな……)


 しばらく水に浸しておく時間は今回は省略し、そのまま火にかける。


 (始めは強火、沸騰したら弱火、沸々音がしなくなったらオッケー!)


 「グウ?」


 鼻歌を歌いながら、俺が何をしているのか気になったのだろう。リーフが俺の肩に登って首を傾げている。


 「リーフは米食えるのかな?まあ、いいや。お前も食べてみるか?俺の主食。炊き立てはうまいぞ!」


 「グー?」


 「ま、食べてみろって。後はー、贅沢に和風ポトフか。塊肉ベーコンとウィンナーたっぷり、玉ねぎとジャガイモゴロゴロ入れればいいだろ」


 コンソメスープの素と鶏ガラスープの素が非常に欲しい、と切実に思いつつ、万様に後で頼んでみようと思った俺。


 リーフは料理が面白いのか、俺の動きを肩に乗って黙って作業を見ている。


 まあ男の料理だしと開き直り、大雑把に味付けをして、コトコト煮込む事しばらく……沸々と音が聞こえ無くなって来た土鍋の火を止めて、数分蒸らす。


 「おおおー!」


 その後、パカッと蓋を開けたら、なんと適当でも白いごはんが出来ていた事に感動!


 (あ、やべ。しゃもじねえや。スプーンでいっか)


 「あつっ!熱っ!」


 スプーンで炊き立てを少し手に取り、塩をつけて小さな塩結びをつくろうとするも、やっぱり熱い!


 少し冷ましつつ、なんとか一つリーフ用を作り、小皿に置いて「リーフ、ほれ」と作業台に置く。


 それを見たリーフは、俺の肩からスルスル降りて作業台にのりつつ、首を傾げて不思議そうにおむすびを見ている。


 「グ⁉︎」


 「ああ、悪い。冷ましてやるから待ってろ」


 リーフが小さな前足で塩結びを触ったら、まだ熱かったらしい。俺に飛びついてきたリーフを撫でて、塩結びに息を吹きかける。


 (こんくらいでいいだろ)


 触って大丈夫か確認してからリーフに渡すと、恐る恐る口にするリーフをジッと観察する。


 口に入れてモグモグしたと思ったら、尻尾をピンと立てて残りを一口で食べ切り尻尾を揺らす姿にかなり和んだ。


 「グーグーウ!グーググ!」


 「わかった、わかった!もっと作ってやるから一緒に食おうぜ」


  気に入ったのか、もっとよこせと言わんばかりに俺の袖を引っ張るリーフをあやしつつ、作業に戻る。


 スープも出来たし、塩結びも苦戦しながら何個か作り、スープは鍋ごとリビングに持っていき、ようやく待ちに待った食事タイム。


 「ほら、まだ熱いから気をつけろよ」


 「グ。ッッ⁉︎……クー」


 「言わんこっちゃない」


 自信満々におにぎりに触ったにもかかわらず、熱かったのか悲しそうな声を出して俺の顔を見上げるリーフに、冷ましていたベーコンを渡す。


 「グーウ♪」


 美味しそうに齧り付くリーフを見ながら、俺も自分の分を食べ始めると、やっぱり米は美味い。


 (次は鮭でねえかなぁ。ツナ缶でも良い……あ、マヨネーズないか)


 口に合ったのか頬張りながら食べるリーフの手伝いをし、俺もモグモグ食べていると、ふと思い出した。


 「そういえば……アンバージャッカル倒した時、音が頭ん中でしたんだよなぁ。アレなんだったんだろ?」


 ボソッと呟く俺の言葉にリーフが顔を上げて、モグモグしながら俺の胸元のコンパスガイドをペシペシ叩く。


 「ん?開けって?うんってお前……喋れないだけ口に含めんなって。まだあるんだから」


 「♪」


 俺に伝える事だけ伝えて、おにぎりを頬張るリーフ。どうやら、かなり気になったらしい。


 (さて、なんか変化あったか?)


 コンパスガイドの蓋を開けると、青い画面が映し出され、内容が表示される。


 『スキルが一部開放されました。


 ー現在使用可能スキルー


 【エア】レベル2 発動は音声対応。


 ・クリエイトエア  MP10 (空気作成 : どんな場所でもタクトのみ呼吸可能。但し、時間制限あり。現在一時間作成可能) 


 ・エアパウチ  MP10(真空空間作成: 範囲指定有り。効果時間: 無限。解除(デリート)可能)


 ・エアフロート MP100(空中を浮かぶ事が可能。最高時速10kmで上昇/下降/前進/後退可能。スキル効果は一時間)


 【ポート】レベル2 発動は音声対応。スイッチワードで発現。


 ・ ギア・メインポート  MP0 (万物の樹の秘密基地へ戻る扉召喚。現在常時入室可能 : タクト/リーフ 。滞在許可証発行/ MP1,000) 』

 

 「おお!【エア】に面白いものが増えてるなぁ。時速10kmねぇ……どんくらいだっけ?まあ、明日試してみるか。で、【ポート】の方は滞在許可証?え?ここに誰か呼ぶの?」


 【ポート】の追加案件に関しては、少し唸ってしまった俺。

 

 (ここはできれば知られたくないんだよなぁ……って言うか、そうそう教えられるものではないし)


 滞在許可証に関しては記憶する程度にしておこうと決めた俺がリーフを見ると、リーフはお米を握ったままの体勢でうつらうつらとしていた。


 「おーい、リーフ。お前、もう寝ろよ」


 「!ッグゥ…… 」


 俺の言葉に一瞬ハッとして返事はしたものの、またうつらうつらしていたリーフを抱き上げた俺は、リーフの前足と顔を濡タオルで拭き、リーフの専用ベッドに運んだ。


 「……クゥ♪……」


 自分のベッドの柔らかいクッションの中で、気持ちよさそうに丸まって眠りに入るリーフを撫でて、俺は食事の後片付けに戻る。


 秘密基地は熱センサーが働いているのか、俺やリーフが入ると部屋が明るくなる。


 それでもリーフを寝かせると、ロフト部屋の照明が足元ライトのみになったり、ロフト周りの衝撃や音も遮断する事も発見した俺。


 密かに遅くまでエアフロートを発動させて遊んでいたんだ。


 はしゃぐ俺の声も知らず、ぐっすり朝まで眠っていたリーフ。


 (万様、万能だよなぁ)


       ーーーーーーーーー

 アクセスありがとうございます!5/3から5/6までGW特別更新開始します!0:00と12:00の2話更新です。宜しければ応援宜しくお願いします!

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