第4話 初異世界で初スキル発動!
「グーウ……(キョロキョロ)?グ!」
門から上半身だけ出して、外の様子を確認しているリーフ。どうやら周りに何もいないらしい。
後ろにいる俺に向かって小さな前足でサムズアップをするリーフに、俺は正直言って心配で仕方ない……
(リーフよ……お前目線って、草しか見えんだろう……?)
そう。実は、先に俺も顔だけ出して、外を確認したんだ。
門が繋がった先は、森でした。
(うん、やべえ……!)
速攻、門から戻って来た俺。
「なんだよ……?リーフ。悪いか?安全策をとりたいんだ、俺は!」
そんな俺の間抜けな姿に、2本足で立ちながら前足を組んで、ジーッと俺を見つめるリーフ。
そして自分も確認するって言っているかの様に、リーフの柔らかい胸元を前足で叩き、確認して大丈夫だって言ってるみたいだけどさ……
とりあえずリーフの頭に手を乗せて、説得する俺。
「よく聞け、リーフ。森にはよくわからん危険な生き物がいるんだ!そんなところに行って無事に過ごせるわけないだろう?」
「グ?グーウグー!」
「なんだよ?コンパスガイドをペシペシして?」
「グーウ、グッグー!」
「……後ろ足一歩踏み出して?コンパスガイドを開く?」
「グ♪グーググー!」
「さあ行けって?いや、それで押されても……まあ、やってみるけどさ」
なんとなくリーフの言っている事が分かる様になった俺は、リーフに後押しされながらも、門から一歩足を踏み出して、異世界の地面を初めて踏んだんだ。
そしてコンパスガイドを開くと……
「アレ?赤い磁針が増えてる?」
俺達の目的地を指す青い磁針ともう一つ、赤細い磁針が増えていたんだ。しかもその磁針はフルフル動いているんだ。
「なんだ?これ?」
「グーウ!」
不思議に思っていると肩までよじ登って来たリーフが、赤い磁針を前足で指差しタッチする様に促してきた。
(赤い磁針を触ってどうするのやら)
リーフの言う通りに触って見ると、コンパスガイドから青い画面が出てきて、何か写真と説明文らしきものが表示された。
『名称 アンバージャッカル Dランク
2m級の琥珀色の狼科の魔物。素早く、群れで動く為、一匹見つけたら最低五匹は周囲にいる事が多い。雑食。毛皮が素材として人気』
「げえ……!よりによって素早い奴か。俺と同じくらいデカい狼の群れって……」
「グーグー!」
「なんか、リーフ……お前、やってやれって言ってない?」
「グ!グーググー!」
「いやいや、しかも殴れってお前……ん?狙いは顎?」
「グ!」
「そっか、うん。お前が頑張れ」
「グウウウウウ⁉︎」
さっきまで俺の足元でシャドウボクシングをやっていたリーフ。俺に突っ込まれたら、俺の足の後ろにすぐ隠れ始めたが。
「まあ、リーフは置いといて……どうすっかなぁ。策は、いざとなれば門を出して逃げ込むぐらいだな。後は……使えそうなのって【エア・パウチ】だろ?」
何気なくそう呟いて、触っていた葉っぱを見ると……
「んおっ!なんだこれ?」
俺の触っていた葉っぱが、真空パウチで包まれた様になっていたんだ。
「へえ……!俺のスキルって、こういうスキルか!これって触ってなくても出来んのか?」
そう思って、木の上にあるなんかの実を指差して「【エアパウチ】」と叫ぶと……
「グー……?」
「いや、そんな呆れた様な声出すなよ」
指差した先の実が全く変化がなく、目を細めたリーフがジッと俺の顔を見ている。
「んっ!うんんっ!」
リーフしかいないのに、わざわざ咳払いをして仕切り直してしまう俺。
(遠隔って出来ないのか?)
改めて触るだけって微妙……と考えていると、胸元でコンパスガイドが反応していた。
『スキル対象を枠の中に映し、中心をタップして下さい』
青いウィンドウ画面がコンパスガイドから投影されて、その画面が照準スコープの様になっていた。
どうやら遠隔で【エア・パウチ】を使う場合はコンパスガイドを通してやるらしい。
遠隔操作で出来る大きさは、最大直径100cmの二重まるの中に入るくらい、最大距離10mだった。画面右下にちゃんと数字の表示あったんだ。
因みに、素手で触ったものに関しては、大きさは関係無さそうだ。なんと木そのものが真空パウチで包まれたからな……
あ、もちろん解除したぞ!
その後、大きさは確認できたから、連続で出来るかも確かめてみたんだ。
結果は、素手だと一回ずつ触らないといけなかったけど、コンパスガイドを通すと連続使用が可能だった。
但し、使用魔力が素手だと一回MP10に対して、遠隔は一回MP20となっていたのはちょっと痛い。
(まあ、最大MP10万あるし、なんとかなるだろ。それに、試してみたい事が出来た……!)
「リーフ、今日は実験日にしようぜ。ちょっと門を出したままの状態で魔物に対応出来るか、やってみたいんだ」
「グーウ?」
俺の言葉に前足を組みながら首を傾げるリーフ。
(あ、コイツ。なんとなく疑ってそうな雰囲気……)
「大丈夫だって、ちゃんと明日は出発するからさ」
「グウ……?グーググ」
前足を広げて首を振るリーフの姿が仕方ないと言っている様で、ちょっとむかつく。
「いいから、お前はここに座ってろって」
それでもポンポンと地面を叩く俺の隣にきたリーフは、ポスッと座り毛繕いを始めた。
俺はというと、コンパスガイドを開きながら、魔物の動向とコンパスガイドの表示の確認をしていたんだ。
面白いことに、コンパスガイドのサーチ範囲から外れると赤い磁針は消え、また入ってきた時にその方向に赤い磁針が現れる。
磁針の長さによって距離が分かり、遠いと長く、少し近づくとその分短くなるというものだった。
数匹サーチ範囲に入ると赤い磁針はその分だけ増え、何匹いるかも分かるようだ。
(うわぁ、やっぱ5頭いるじゃん……!)
近くに先導する一匹と、後ろに少し距離を置きつつ四匹が歩いていた。
俺はコンパスガイドを持ち、先頭の一匹の方角を見ながら【エアパウチ】と唱える。
照準はズーム機能付きだから視界はバッチリ。だけど、魔物の全体的な大きさは当然スキルの範囲内で収まらないデカさだった。
(だけど、これならハマるだろ!)
照準を合わせタップすると、数m先でガサガサッと音がし、ドンっと何かが倒れた音がした。
すかさず俺は残りの四匹の動向も確認し、サーチ圏内に入って来たら即座に狙いをつける。
「⁉︎」「‼︎」「⁉︎」「⁉︎」
一匹と目が合った時はヤバいと思ったが、連続発動したスキルが全てアンバージャッカルにヒットした!
ドサドサドサドサッと巨体が倒れていく音がする。。
「っっし!流石に空気が吸えなきゃ倒れっだろ!」
「……ッグウ⁉︎グ?グウ?」
思わず声を上げた事により、毛繕いした体勢のまま寝ていたリーフも起きて、辺りを見回している。
俺もつい声を上げてしまった為、慌ててコンパスガイドを確認する。
どうやら五匹の魔物以外は近くにいないらしいが、赤い5本の磁針が点滅を繰り返して、一本、また一本と消えて行く。
そして最後の一本の磁針が消えて、辺りを確認すると、今のところ魔物の様子はない。
(よし!全部息絶えたな!)
そう確信した俺は、リーフを担いで魔物が倒れた辺りに慎重に近づく。
草を分けた先には、倒れて頭部だけが真空パウチ化された、アンバージャッカルの姿があった。
「よし!急ぐぞ!」
「グウ?」
魔物の死体を放置していると、また違う魔物を誘き寄せると思った俺は、不思議そうにしているリーフを肩に乗せて、死体に触れてスキルを発動させる。
「【エアパウチ】っと。……さて、よいしょっと……!」
素手で触ると、全体がエアパウチ化されたアンバージャッカル。どうやらエアパウチ化すると全体の重さまで変わり、スキル保持者には簡単に持てる様に変化するらしい。
(おっしゃ、これなら持てる!)
リーフを肩に乗せたまま、魔物を引きずりつつ急いで門に戻り、門の中にアンバージャッカルの死体を入れてはまた現場に行き、死体に触れてはエアパウチ化をさせる事、五往復。
「ぜえっぜえっ……はあっ……はー……!」
「グーウ?」
インドアの体力と初めての狩りの緊張感から、門の中に戻り地面に四つん這いになって息を整える俺。
その俺の近くで心配そうに俺の様子を見るリーフの頭を撫でて、俺はバタッと地面に横になる。
空は青空、万物の木がサワサワと揺れている視界の中、ヒョコっと俺を覗き込むリーフに、にかっと笑って叫ぶ。
「見たか、リーフ!俺でもやれたぞー!」
「グーウウ♪」
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