第17話 スキルの検証と新たな出会い

  ガロ爺のおかげでスッキリとした朝を迎えた俺は、簡単な朝食を作る為に動き出す事にしたんだ。


 因みに今日の胡桃マーケットの中身は、冷凍パン生地詰め合わせセット/野菜詰め合わせセット/クッキー生地詰め合わせセット/バター・マーガリン・ジャムセット/ジュースセット/卵・乳製品セットというほぼ食品尽くしだった。


 「朝メシも上で食べようぜ」


 焼きたてパンが食べたい俺は、朝からフライパン片手に万様ルーフバルコニーに行くことをみんなに提案する。


 勿論全員一致で賛成となり、みんなはリーフのマイカーで移動して準備となった。あ、ガロ爺と俺は歩きだけどさ。


 万様に朝の挨拶をし、エランに窯とバーベキューコンロに火をつけて貰い、ゆったりジュースを飲みながら焼く準備をする俺とマリー。


 ガロ爺はのんびり日向ぼっこをし、キースとレナは待っている間も万様通路を走り回っている。


 リーフは俺の横でつまみ食いしながら手伝い、レインは万様の枝の上で毛繕い中。


 そんなそれぞれの様子にほっこりした気分になった俺。


 「ここはのんびりで良いなぁ」


 目を細めてみんなを見る俺の様子に、アイテムボックスから食料を出していたエランも同意する。


 「万物様がいると、それだけで気持ちが穏やかになれるからな。ここは環境がすごく良いから毎日贅沢をさせてもらっているさ」


 「ふふ、そうね。それに生活に刺激もあるもの。ねえ、タクト?この後新しいスキルを確かめてみるんでしょ?私達も見れるかしら?」


 天板にパン生地を移動させながら俺に確認するマリー。マリーが見たがるなんて珍しいな、と思いつつ新しいスキルの事を思い出してみる。


 (確か、エア・フォームっていうエアコンスキルと、エアポートガレージだっけ?……危なくないし大丈夫だよな)


 フライパンで目玉焼きを焼きながら考える俺の横で、目を閉じて寝ていたガロ爺も聞いていたらしい。


 「面白そうじゃの。ワシも見てみたいのぅ」


 「あー!レナもみたい!」


 「何?面白そうな事するのか⁉︎」


 「ピイ?」


 そんな感じで結局全員参加になったスキル検証は、朝食を食べた後に秘密基地の外の万様の前でやる事に。


 (ま、時間はたっぷりあるし、いっか)


 のんびりパンを窯に入れてセットする俺と手伝うリーフの横で、ウィンナーの焼き加減を確認するエランを見ながら、俺は移動日を明日に移す事にした。


 しばらくしてパンやウィンナーも焼き上がり、目玉焼きも人数分完成し遅いブランチが始まる。


 「おーいしー」


 早速全員で食べ始める中、万様印牛乳を飲んで口に白いヒゲを作るレナ。


 「アッチィ!でもサックサクでうますぎる!」


 焼きたてクロワッサンと格闘しながら食べるキースに、マリーにとりわけて上げているエラン。


 ガロ爺はしっかりウィンナーにかぶりつき、リーフとレインは仲良くコップに入ったブドウジュースを一緒に飲んでいる。


 みんなで食べる食事が美味い食事を更に美味しくさせるんだよなぁ、と思いながらしっかりガッツリ食べ進め、リーフのお腹が膨れる頃にはみんなが満足して食べ終わっていた。


 そんなリーフやミニコロボックル達を抱えて、ガロ爺と歩いて秘密基地から外に出ると……


 「グーフゥ……」


 お腹を抑えて万様の根本に座り込むリーフ。


 パンパンになったお腹を笑いながら撫でているキースとレナの横で、木の根に腰掛けるガロ爺とエランとマリーを見ながら、俺は早速スキル検証に入る。


 「まずはエア・フォームの検証からだな」


 コンパスガイドを開く俺の肩に止まっているレインとともに画面を見ながら【ギア・エアフォーム】を唱えると、いつものように照準画面が出てくる。


 その一方でいつもは黒い模様の照準画面が赤い模様になっており、画面右下にダイアルと切り替えスイッチらしきものが追加されていた。


 「とりあえずダイアルは一段階にして、赤は多分ヒートだろうから……っと」


 細かい設定をし、照準をリーフに合わせてタップしてみると……


 「グウ♪」


 「あ、あったかーい」


 「なんか更にポカポカしてきたぞ?」


 リーフだけじゃなく、レナやキースまで反応してきたんだ。どうやら対象の半径1m以内はその温度になるって事だな。


 「ほっほっほ、こりゃまた面白い能力じゃ。タクトよ、それはどこまで上げる事ができるんじゃ?」


 「今は1段階だけど10まで上げられるみたいだな」


 「ほっほ。ならば使いどころには気をつけるべきじゃのぅ」


 「え?あ、そうか……!」


 (今は一段階だからリーフ達が気持ち良さそうにしているけど、これ10段階にすると灼熱の風を送る事になるのか……!)


 ガロ爺のおかげで、このスキルも最大にすると敵に対して武器になると気付かされた俺は、やっぱり検証しといて正解だと実感する。


 その後は、流石に冷たい風を試すのは可哀想だし、と丸くなって寝てしまったリーフとレナとキースの姿を見て、もう一つのスキルを試す事にしたんだ。


 「【ギア・エアポートガレージ】」


 唱え終えるとシュウウウと空中に現れた、大きな木目調のガレージ扉。開閉はボタンを押すとスイングアップで開くタイプで、音も静かで動作も早い。


 俺はレインを、ガロ爺はエランとマリーを肩に乗せてガレージの中に入ると、パパパパッと天井照明が付き、明るくなったガレージの中には魔導乗用カートが一台あった。


 「凄い広いぞ……!」


 「なんでも入りそうね」


 キョロキョロとガレージ内を見回すエランとマリー。その一方で俺とガロ爺の興味は魔導乗用カートに釘付けだった。


 「ほっほー、こりゃ珍妙な形じゃの」


 「ガロ爺、これ俺の元の世界では結構有名なんだぜ。しかもこれ、俺乗ってみたかったんだよなぁ」


 乗用カートは関空でサービスされていた仕様で、前は運転席、後部座席は二人用の細長い車体だった。


 オープンカータイプだけど、万様仕様だから何か仕掛けあるだろ、と考えワクワクしながら早速俺は運転席に乗り込む。


 「ガロ爺、後ろに乗ってみろよ。試運転するぞ」


 「ほっほ、こりゃ楽しみじゃわい」


 ガロ爺も乗り込むのを確認して、唯一運転席にあるボタンを押すと……


 『エアポートマスターと確認。起動します』


 電子音声の案内が聞こえ、静かに振動が伝わってくる事から、エンジンがかかった事が分かった俺。


 『説明致します。この魔導乗用カートの燃料は、周囲の魔力を取り込む仕様ですので燃料切れはございません。但し、マスターのスキル【エア・フロート】と【エア・フォーム】の使用が起動には欠かせません。マスター、ハンドル中心部にあるコネクトパーツにコンパスガイドをセットし、スキルを唱えて下さい』


 電子音声で案内された通りコンパスガイドをセットし、【エア・フロート】と【エア・フォーム】を唱えると………


 フォン……と浮き上がる魔導乗用カート。


 運転席前方にはデジタルメーターパネルが現れ、速度、室内温度、時刻、移動距離、それぞれの魔法の効果時間や現在の俺の魔力量までわかる仕組みになっていた。


 「ほほう……エアフォームを唱えおると、空気が壁のようにこの機体全体を覆っておるわい。こりゃ、速度を出しても風の影響を受ける心配はないんじゃの」


 エランとマリーを肩に乗せたまま、ガロ爺が俺のわからなかった事まで理解して説明してくれる。


 「って事は移動も結構速くなるな……ちょっと動かすぞ!」


 運転に関しては車と同じだった為、ギアをドライブに入れてアクセルを踏むとスゥ……っと静かに動き出した乗用カート。


 広いガレージを一周して分かった事は、音が一切なく、加速も減速もスムーズで、運転しながら【エアパウチ】や【エアジップトレース】も問題なく使えるというもの。


 (これなら問題なく進めそうだ……!)


 仕組みを理解し気分の乗った俺は、このまま【ギア・メインゲート】を出して外の散歩に行かないかと後部座席の3人に提案すると……


 「寝ている子供達だけ残すのは心配だわ。私は降ろして貰えるかしら」


 「ピイッ!」


 レインと心配症のマリーが残る事になり、一人と一匹を未だ寝ているリーフ達のところに降ろして、俺はメインゲートを出す。


 そのまま門を潜って森に出ると、赤い磁針は今のところ遠くにいる為、回避しながらも今までとは倍以上の早さで進んでいく事が出来たんだ。


 「ほっほー!気持ちいいもんじゃの」


 「これは移動距離が伸びるな、タクト!」


 気分よく速度を出して移動していると、次第に苔に覆われた木や石が増え出して、森の雰囲気が変わりだしたんだ。


 そして、大木や大岩が緑の苔で覆われた樹海のような鬱蒼とした雰囲気に変わった森。遠く正面には、苔に覆われた高さ10m以上はありそうな大岩が見えてきた。


 なんとなく大岩を目指して飛んでいると……


 「なんか……これ道路っぽいな……?」


 森の中に道を発見した俺は、そのまま道を辿るように進む。


 しばらく飛んでいくと、道の前方で両脇から何かが飛び出し道を塞がれた俺達。


 なんだ?と疑問に思った俺がコンパスガイドを見ると、しっかり緑の磁針が二つ現れていたんだ。


 因みに、緑の磁針をタップして出てきたのはコレ。


 『《フォレストドワーフ》

  森の深部に住すのを好むドワーフ族。鉱石に詳しく手先が器用で物作りに特化した種族。主な産業は鍛冶、建築。嫌いな人間とも酒を入手する為に接触するほどの酒好き。寿命は長く500年と伝えられている』


 「フォレストドワーフ……?」


 俺がボソッと呟くと、後部座席で「まずいのぅ……」と反応するガロ爺。


 そんなガロ爺に気を取られていたら、素早く俺達の前方まで移動してきたフォレストドワーフ達が敵意を剥き出しにし武器を向けてきた。


 「薄汚い人間共め!」


 「とっとと立ち去れ!」


 (うおっ!なんかやばい雰囲気……!)


 俺が流石に一旦引き換えそうとしたその時、ガロ爺がヒョイっと乗用カートから降りてフォレストドワーフ達に話しかけ始めた。


 「まあ、そう警戒せんでもええじゃろ。ギーグにジュード、久しぶりじゃの」


 ほっほっほと笑いながら、フォレストドワーフに近づくガロ爺。


 「まさか……!ガロ様ですかの⁉︎」


 「なあにィ‼︎ガロ様だと‼︎」


 一人はガロ爺が姿を現して驚いているが、もう一人はガロ爺を見て更に怒りのボルテージが上がったらしい。


 「ほっほ。こりゃ思ったより怒っとるのぅ」


 その様子にも動じず、悠長に髭を撫でているガロ爺の姿に不安になる俺とエラン。


 (おいおい……大丈夫なのか……?)

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