第18話 フォレストドワーフの街

 「ふうむ……こりゃ面白い。分解して調べたいが、ダメかの?」


 「やめてくれ!これ貰ったばかりなんだ!」


 「ムム……それは残念」


 先程とは打って変わった態度で俺と魔導乗用カートについて会話をしているのは、フォレストドワーフのギーグ。ガロ爺の登場に驚いていた方のドワーフだな。


 もう片方はというと……


 「貴方様が姿を消してからというもの、私がどれほど探し回ったかおわかりですか⁉︎あ・れ・だ・け出かける時は声をかけるようにお願いしていたじゃありませんか⁉︎」


 「お主も相変わらずじゃのぅ。ちょっと出かけただけじゃろうが」


 「貴方様のちょっとが20年だから言っているんです!街の者がどれだけ心配したか……!」


 「いや、ガロ様、そりゃ嘘じゃ。みんな心配なんぞしておらんぞ?」


 「ギーグ、貴様は黙っておれ!」


 「ほっほっほ。やはりコヤツだけであろう?皆ワシの力を知っとるなじみの者ばかりじゃて。全く、ジュードはすぐ話を盛るから困ったもんじゃのぅ」


 「いや、でもガロ様が急にいなくなって困ったのは本当ですぞ?急に魔法鉱石が採れなくなって、作業が止まっておるからの」


 「ほっほっほ。ギーグよ、ちょっとくらい待ってもらう方がええんじゃよ」


 「それは数日だったらの話しですぞ⁉︎今じゃ我らフォレストドワーフの腕まで貶されておるんですぞ!たかが人間共に!これが黙ってなどいられますか⁉︎」


 「ほっほっほ。言わせておけばいいじゃろ。奴らに魔法鉱石なんぞ作りゃせんもん」


 「もんじゃありませんぞ!全く、子供じゃないんですぞ。すぐにこの酒商人と共に街に戻ってもらいますぞ!」


 「仕方ないのぅ。タクトとエランよ、ちょっと寄り道してもいいかの?」


 「ああ、俺は構わないけど」


 「私は勿論です!まさかフォレストドワーフの街に行けるとは……⁉︎」


 「ほっほっほ、そんな珍しいもんではないぞい」


 ガロ爺は相変わらずのんびりしたペースで対応しているけど、エランが珍しく興奮している。しかもギーグに先に街へ向かわせたジュードが、魔導乗用カートに乗る気満々だし。


 因みにガロ爺の提案で、急遽酒商人になった俺。


 ウィスキーをエランに出してもらって、飲んだ時のジュードやギーグの反応なんかすごかったぜ。


 「おほっ!こりゃ美味い!流石ガロ様じゃ。美味い酒を持つ商人見つけて来おる」


 「ムム……!こんなんじゃ誤魔化されませんぞ!だが、これは美味い!これに比べたらいつもの仕入れの人間が持ってくる酒なんぞカスじゃの!」


 「そうじゃろ、そうじゃろ」


 万様印の酒だから、質は良いし味もいいからな。とはいえガロ爺が自慢気なのはちょっと気になるが。


 まあ、こんな感じで酒絡みで受け入れて貰った俺。エランに至っては普通に受け入れられてたからなぁ……ちょっと羨ましい。


 「ほれ、商人!はよ出発せえ!」


 いつの間にか乗り込んでいたジュードとガロ爺に急かされ、運転席に乗り込む俺。因みに、エランは俺の肩にいるぞ。


 「はいよ。じゃ、出発するぞ」


 声をかけてエンジンをかけると、フォン……と浮き上がり空間をスィーと移動する魔導乗用カートに、後部座席で騒ぎ出す声が聞こえるが、ここはガロ爺に任せておこう。


 「エラン、珍しいな。お前がワクワクするなんて」


 さっきからおれの肩でソワソワしているエランに、運転しながら話しかけると、嬉しそうにエランが熱弁し始める。


 「当然だ、タクト。フォレストドワーフの街は魔導具でも有名な場所で、自然と共存しながらも住みやすい街と言われているんだ。それに優大な滝と豊かな水が街の中を巡っている景観のいい場所とも言われているんだ。一度行ってみたくてな」


 「ん?エラン達なら入れるんじゃねえの?」


 「いや、自然を守り愛するフォレストドワーフ達は、余所者はなかなか受け付けないんだ」


 「おお、よく勉強しておる。そこなミニコロボックルよ。我らは自然と共にある。破壊しか能のない人間は勿論、自然を汚す他の種族も入らせる事は滅多にないわ」


 俺達の会話を聞いていたであろうジュードが、後ろから口を挟んできた。


 「え、じゃ俺達は街に入れないのか?」


 「フン!今回は特別じゃて。ガロ様を助けた事と美味い酒を持っている事で客人として訪問を許可するわい」


 「ほっほ、タクトなら当然じゃの」


 (……ガロ爺って、やっぱドワーフの中で身分高いんじゃねえ?客人として扱われるなんてなぁ)


 そんな感じで、スムーズに異世界探索ができる事に感謝しつつ、俺達は目的地の大岩の前に到着した。


 大岩の正面には見事な石細工が施された門があり、そこに門番らしきドワーフ二人とギーグが既に待っていたんだ。


 「ガロ様、どこで遊んどったんじゃ?」


 「まあた、何か寝とる間に連れ去られたんじゃろ?」


 「ほっほ、正解じゃわい」


 笑いながらガロ爺を迎える門番達の姿を見ると、親しみやすいドワーフ達って感じだったけど……


 「で、そこな人間か?煩わしい客人として迎えねばならん奴は」


 「全く厄介な事じゃわい」


 正直俺に関しては当たりが強い。だが、ギーグが渡した酒を二人に飲ませると態度が一変する。


 「おほっ!なんと喉越しの良い酒じゃ!しかも、エールより強い酒とは⁉︎」


 「後味がこれまた良いの!……何⁉︎まだ他の種類があるとな⁉︎うむ!歓迎するぞ、商人よ!」


 一応、魔導乗用カートを降りていた為、俺はバシバシ腰を叩かれて歓迎されたけど……


 (万様印の酒の威力の強さよ……)


 とりあえず酒の力を借りれば、人間の俺でもなんとかなりそうでホッとした。


 街を魔導乗用カートで移動して良いものかガロ爺に聞いてみると

むしろ推奨された。ジュードによると理由は……


 「酒に高度な乗り物を所有する奴なら侮られまい」


 だそうだ。まあ、完全には気が抜けないって事だな。


 そんな感じで案内役にジュードを乗せたまま石作りのドームを抜けると……


 そこに広がるのは緑に覆われた街。


 天井の大穴や、壁面の岩に設置された数多くのガラス窓から入ってくる穏やかな光が注がれている、秘境感溢れる街だ。


 街の左側には、岩肌を伝わりながら勢いよく流れ落ちる大滝が湖を作り、湖から幾つもの川が街中を静かに流れている。


 不思議なことに、大岩に囲まれ水がこれだけあっても、内部は湿気臭くもなくむしろ爽やかな匂いさえしている。


 そんな岩の内部にある街並みは、苔に覆われた家や不思議な植物が彩りを添え、整備された道や橋が街を更に飾り立てていた。


 街中を流れる川には無人の船が幾つもの浮かび、決まった航路を航行しているように見える。


 街中をみると、賑やかにフォレストドワーフ達が行き交い、活気ある商店や客の姿が見える。


 (本当にこりゃ異世界だわ……)


 景観に魅入っていた為しばらく入り口で止まっていたら、気づけばドワーフ達に囲まれていた俺達。


 「ガロ様!お帰りなさい!」


 「ガロ様、やっと帰って来たんじゃな」


 「やっと作業が進むわい」


 「ガロ様ー!」


 「ガロ様の好きな苔葡萄取って来てるよー!」


 どうやら街のドワーフ達の視線はガロ爺にいっているようで、今のところ俺に敵意を向けるドワーフ達はいない。


 「ほっほっほ、みんな元気じゃの。良い酒を仕入れて来たぞい。皆、タクトとエランも歓迎しておくれ」


 街の人達に対応する為、魔導乗用カートから降りたガロ爺。


 ガロ爺が俺とエランを紹介した事により一瞬ザワザワし始めたが、ジュードが街の人達に更に補足説明をしてくれた。


 「みんな!こやつは人間じゃが、ガロ様を助け我が街に美味い酒を届けてくれた恩人じゃ!客人として迎え入れて欲しい!」


 ジュードの説明に騒めきが少なくなり、輪の中から一人の小さなドワーフの少年が俺に近づいて来た。


 「人間のお兄ちゃん、ガロ様助けてくれたの?」


 「ああ、そういう事になる……かな?」


 「あははっ!お兄ちゃん面白い!あ、ミニコロボックルだ!クーパー達の知り合い?」


 「クーパー⁉︎クーパーがこの街にいるのか?」


 「うん。僕の友達。お兄ちゃんも僕と一緒だね!ミニコロボックルが友達なんだもん!」


 「ああ、そうだな。一緒だ」


 そう言って無邪気な笑顔のドワーフ少年の頭を撫でると、大人達もようやく近づき俺やエランに話しかけて始めた。


 (エランが名前を聞いた途端に表情を変えたって事は、知り合いなんだな)


 肩の上のエランはすぐにでも会いたそうにしていたが、今度は街の人達の興味が俺や酒や魔導乗用カートに移り、しばらく入り口で足止めされた俺達。


 「皆、気持ちはわかるが、今のところは一旦引いてくれ!ウーグラフ様のところに顔を出しておきたいのじゃ」


 ジュードの言葉で渋々離れて行った街人達にホッとしながらも、今度はお偉いさんに会わないと行けないのか、と俺はちょっと気が重くなった。


 そんな俺の様子にガロ爺が「ほっほっほ。頑固な奴じゃが、大丈夫じゃて」と余計に不安にさせる一言をくれた。


 (ちょっと散歩のつもりだったんだけどなぁ……)


 異世界でも流されやすい元日本人の俺が、遠い目になったのも仕方ないよなぁ。

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