第16話 ガロ爺

 「爺ちゃん肉も食えよ!」


 「ピザもおいしーよ?」


 「ほっほ。そうじゃの、頂こうかのぅ」


 ガロ爺にすっかり懐いたキースとレナ。


 ウィスキーを味わって飲んでいるけど他をなかなか食べないガロ爺に、わざわざ肉やピザを運んできてやっていた二人。


 俺はというと……


 「タクト、赤ワインが沸騰しているぞ!勿体ない……!」


 「エラン、良いんだ。赤ワインのアルコール分を飛ばしたものを焼肉のタレと合わせると美味いんだぜ。お、焼けたぞリーフ、レイン」


 「グーグー♪♪♪」


 「ピイ♪♪」


 リーフには肉を、レインには焼きハマグリをそれぞれの皿に入れたりと、給仕に徹している。


 そうそう、リーフ用肉には、あの某有名アウトドアスパイスをしっかり混ぜ込んで焼いた肉を渡しているんだぜ。


 これをいたく気に入ったリーフは尻尾をブンブン振って頬いっぱいに詰め込み、もぎゅもぎゅ食べている。


 美味いもんなぁ、アレ。


 レインといえば、鳥だけど肉も食うしシーフードも食うらしい。特に焼きハマグリとホタテに醤油を垂らしたのがお気に入りだ。


 あ、リーフの奴、レインのハマグリに手を出して突つかれてるよ。焼いてやるから待てって。


 エランとマリーは、ゆったりワインを飲み肉やシーフードを食べている。ピザはマリーがお気に入りだな。


 こんな感じで俺も焼きながら食べれるし、みんなの嬉しそうな顔が見れて満足だし、万様もこの賑やかな雰囲気が見れて嬉しいんじゃねえかな、と目の前の万様を見ながら思っていた。


 そんな中、やっぱり気になっていたキース達がガロ爺に質問してたんだ。


 「なあ、ガロ爺ちゃん。なんだって魔物に喰われてたんだ?」


 「おじいちゃんよくいきてたねー!」


 うん、子供は聞きにくい事もストレートに聞いてくれるから、良いよな。ナイスだ、キースとレナ。


 「ほっほ。ワシは鉱石スキル持ちでな。時間かけてスキル育てておったら、自身も鉱石化出来るようになっておってのぅ。ちょいと寝る為に小さくなって鉱石化しとったら、魔石と勘違いした魔物に喰われておったわ」


 ガッハッハと豪快に笑うガロ爺。キースとレナは「爺ちゃんすげえ!」と感心しているが、喰われたまま寝てられるガロ爺の神経の太さにある意味感心してた俺。


 そんな微妙な雰囲気にも構わず、質問を続けるキース。


 「爺ちゃんだったら、出ようと思えば出れたんだろ?なんで出なかったんだ?」


 「いや、魔物といえど生き物じゃし。いずれ出るところから出るじゃろと思ってのぅ」


 「ガロ様、食事時ですよ」


 「おお、すまん、すまん。キースとレナよ。お前のお母さんは怖いのう」


 「母さんは優しいんだぜ、爺ちゃん!ちゃんと悪いところ教えてくれるんだから!」


 「おかーさん、きれいでしっかりものだって、おとーさんよくいってるよ?」


 「ほっほ。そうかい、そうかい」


 キースとレナを優しく撫でながら、満足そうに微笑むガロ爺。


 (すげえな、さすが年の功。家族関係の事までサラっと聞き出してるわ)


 ガロ爺の雰囲気とそのゆったりとした話し方に感心している俺と目が合ったガロ爺が、今度は俺に質問を投げかけてきた。


 「タクトや、お前さんもワシに聞きたい事があるんじゃろう?」


 「まあな。あ、一旦肉焼くのやめるからな。みんなここの皿から好きなように持っていってくれ」


 ガロ爺から聞いてきてくれたおかげで俺が入り込む事が出来た為、山盛り肉はリーフの前に置く。


 ピザと缶酎ハイを持ってガロ爺の向かいに座り、俺も気になっていた事を聞いてみた。


 「ガロ爺って何歳なんだ?万様の事知ってたみたいだけど……」


 「ほっほ、年なんぞもう数えとりゃせんわ。だが、ワシの小さな頃から万物の樹と一緒に過ごしてきたからの。そういえば大体わかるじゃろ」


 ……ん?確かこの世界の万物の樹があったのって二千年前じゃなかったか?ってことは……


 「凄え!爺ちゃん二千年も生きてきたのか⁉︎」


 「キース、今はタクトが話しを聞いているのよ?」


 「マリー、良いって。俺もキースと一緒の反応だしさ。じゃ、ガロ爺もずっと万様を探していたのか?」


 「いんや、そんなに長くは探してはおらん。そもそもエルダードワーフと万物の樹は家族みたいな繋がりがあっての。無事だという事はわかっておったし、最近になってじゃの。万物の樹の存在がはっきりしおったから、探して歩いておったんじゃ」


 「爺ちゃん、それで魔物に喰われて眠ってるって間抜けだなぁ」


 「ほっほ。そこはほれ、長く歳をとった弊害じゃの。まあ、そうそう簡単に死にはせんからのお」


 キースにツッコまれてもほっほっほとのんびり笑うガロ爺。


 (良いよなぁ、この動じない大物感。あ、もしかしてガロ爺ならアノ事もわかるんじゃね?)


 「なあ、ガロ爺なら知っているんじゃねえか?この世界の万物の樹の場所となんで姿を消したのか?って」


 俺の問いかけに賑やかだったみんながシン……と静まる。


 「ほっほ。なーにをいうとるんじゃ。場所はタクトの方が知っておるじゃろ。それに、ワシは関係ないからのぉ。さ、真面目な話はもう終わりじゃ。そうじゃの、キースやレナに深海の底にある街について話してやろうかの」


 「え!深海って海の底?」


 「うみってなあに?」


 「そうか、そうか。レナは海を見たことがないんじゃな。海というのは……」


 ガロ爺が話を切り替え、無邪気に話に乗るキースとレナ。俺も深海の底にある街の話の内容は興味深かったが、ガロ爺の言葉に引っかかっていた。


 (……これ以上は話せないって感じだなぁ。それに関係無い……か。知らないとは言わない辺り、ガロ爺上手い)


 ガロ爺に自分の目で見て確かめろと言われた気がした俺は、一旦考えることをやめて、キース達と一緒にガロ爺の話に聞き入っていた。


 その一方で、エランとマリーがこんな話をしていたとは俺は気づかなかったけどさ。


 「ねえ、あなた。やっぱりガロ様ってあのガロ様よね?」


 「ああ、そうだろう。関係無いとおっしゃったんだ。あの魔法銀の使い手であるガロ様で間違いない」


 エランが言ったこの意味を俺が知るのは、まだ先の事。


 この時はただただガロ爺の話が面白くて、ガロ爺が以前に何をしたかまでは知らなかった俺は、酔いも相まってキース達と一緒になってはしゃいで終わったんだ。


 そして、酔い潰れた次の日といえば当然……


 「頭痛え……」


 ガンガンする頭に、だるすぎる体。


 「グーグ?」


 「ピイ?」


 リーフとレインがなかなか起きない俺のベッドまで起こしに来たが、当然起きられないと来たもんだ。


 「ほっほ、あれくらいで潰れるとは情けないのう」


 枕と友達になっている俺の様子に、どうやらガロ爺がコップに水を持ってきてくれたらしい。


 「ほれ、良いから飲むんじゃ」


 俺の上半身を起き上がらせたガロ爺から、コップを受け取って飲んでみると……


 「うわ……染みる……!」


 飲むごとにあれだけなり響いていた頭痛がスウッ……っと引けて消えていったんだ。


 しかもこの水がミントの葉のような味でスッキリした飲み口。飲みやすくてゴクゴクと飲み干したら、もう二日酔いの症状は無くなっていた俺。


 「っはぁ〜……助かったよ、ガロ爺。これ何?」


 スッキリとした表情でコップを返すと、呆れた表情で万物の樹の朝露を集めたものだという。


 「お前さん、守り人のくせに勉強不足じゃの。万物の樹は側にいるだけで回復が早まるが、万物の樹の葉についた朝露はちょっとした不調ならばすぐに回復する事は知らんのか?」


 「んな事知らねえよ。俺だって守り人になったのつい最近だっての」


 当たり前のように言われてちょっとムッとした俺に、ほっほと笑顔で長い髭を撫でるガロ爺。


 この日から俺の1日に、ガロ爺からの万物の樹についての講義が加わったのは有り難いといえば有り難かった。


 ガロ爺の長ったらしい自慢話がなければなぁ……

 

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