第25話 フォレストドワーフと宴の準備

 「んー……ぐっすり寝たぁ!」


 あの後、ウーグラフの家に戻り、すぐ万様の元に戻って休んだ俺達。


 まあ、街の人やウーグラフの家のメイドたちが俺達を引き止めようとしてたけど、しっかり疲れを取るなら万様の側が1番だからな!


 因みに街の人達にはガロ爺が……


 「ほっほっほ、老体にムチを打ったのでの。先に休ませてもらえんかの?」


 と、まあ上手くかわしてくれた。


 問題は、ウーグラフの家についてからだった。それに関しては、必然的に後でわかるから置いておこう。


 「それにしても最高だな!この部屋」


 起きたばかりでもテンションが上がるくらい、俺好みの部屋なんだよ、今回の俺の部屋。それに、


 「万様、おはよ」


 シャッとカーテンを開けながら挨拶すると……


 今日も優しい木洩れ日の光が降り注ぐなか、サヤサヤと穏やかな風が挨拶しているかのように葉を揺らし、どっしりと佇む万様。


 (ん。今日も万様は元気そうだ)


 そんな万様の様子がよく見える俺の部屋は、万様に通じる広いルーフバルコニーの全体の様子が見える、大きな掃き出し窓が付いている。


 それに、部屋の内装が俺には馴染み深い和風フローリングと畳で、素足で過ごせるようになっていたんだよ。

 

 更にどこのホテルだよってくらい、ベッドもフカフカ。俺憧れの和式ローベッドだから満足度は高い。


 勿論、専用のトイレや個室露店風呂付きの豪華さ。


 そんな部屋に魅せられたのは俺だけじゃないぞ?


 「グウ……?」


 「お、リーフ起きたか。おはよ」


 「グ?グウグ!」


 元気に挨拶を返すリーフのフカフカクッション付きのカゴは、俺のベッドの横に置いている。


 リーフも万様が近いこの部屋と畳がお気に入りで、やっぱり一緒の部屋で寝る事になったんだ。


 一応リーフの部屋もあったんだけどさ。リーフが自分の部屋を覗いた後、わざわざ籠ベッド持ってこっちの部屋に引っ越してきたんだよ。


 (リーフ専用車両、活躍してるよなぁ)


 ふわあ……と欠伸をしながら見るルーフバルコニーには、万様本体の枝に包まれたレインのベッドから、ヒョコッとレインも顔を出していた。


 「ピッ♪」


 レインがこっちを見て挨拶をし朝の毛繕いを始めると、トコトコ歩いて来たリーフがカララララ……と掃き出し窓を開けてルーフバルコニーに走って行く。


 「グウグッ♪」


 「ピイピッ♪」


 可愛い挨拶を互いにし、それぞれ毛繕いし始める姿は微笑ましい。


 それにルーフバルコニーには、のんびり出来るガーデンテーブルとチェアもあるし、ガロ爺用ロッキングチェアもあるんだ。


 ガロ爺の部屋は俺の隣だし、ルーフバルコニーは三階にある寝室部屋の共用スペースだからな。


 (ガロ爺はまだ寝てるか……)


 まだカーテンが閉まったままのガロ爺の部屋を観ながら、昨日はご活躍だったからなぁ、と昨日の襲撃を思い出している俺。


 リーフと一緒にガーデンテーブルの席に着くと……


 「おはようございます、タクト様。本日のモーニングティーは朝露入りレモネードでございます」


 席に着いたタイミングピッタリに、慣れた手つきで俺とリーフとレインの分までモーニングティーを用意するフォー。


 そうなんだ、ウーグラフからも是非にと推薦された執事のフォーが仲間入りしている。


 昨日帰った時点で、既に心が決まっていたのかウーグラフに辞表を出していたフォー。理由は……


 「私は、先代の万物様に仕えた執事の家系の子孫でございます。先代の万物様から頂いた[フィトンチッドの雫]の光を、長い年月歴代の継承者と共に守り続けて参りました。きっとお役に立てる筈でございます」


 丁寧な所作で俺に頼みこむ理由はもう一つ。フォレストドワーフの街で所有する[フィトンチッドの雫]の存在だったんだ。


 これは代々継承によって受け継がれて来たものらしい。だから知っているのは、ごく僅かな関係する人物だけ。


 光が失われず輝き続けている事で、必ず万物の樹が戻ってくる事を確信していた[フィトンチッドの雫]の継承者と関係者。


 継承にあたっては、代々亡くなる間際まで万物の樹を切望し続けるほど忠節心を持つ直系の者だけが、この[フィトンチッドの雫]から選ばれるらしい。


 ついでに言うと、ガロ爺は勿論先代の[フィトンチッドの雫]も持っていたそうだ。後から聞いたら……


 「気づいたら色がちょっと変わっておったわい」


 と相変わらず呑気なものだったけど。


 そんなフォレストドワーフ達が守って来た[フィトンチッドの雫]の継承者達は、万物の樹が現れる時をエルダードワーフの側で今か今かと待ち侘びていたらしいけど……


 「ん?ちょっと待て。達って言ったよな?」


 俺が疑問に思ったのと同時に、フォーに呼ばれて入室してきたのは、フォレストドワーフの男性と女性。


 「初めまして。御尊顔に預かり光栄でございます。私、ヘゼルと申します」


 「初めまして。妻のティナでございます。夫共々、お側で仕えさせて頂くことを是非ご考慮頂きたく、嘆願に参りました」


 フォレストドワーフにしては短い髭に執事の格好のヘゼルと、ドワーフ女性らしい豊満な胸を持ちひっつめ髪のメイド服のティナ。


 (少し若い感じがする二人だな)


 俺がそう思ったのも、ガロ爺(2000歳以上)やフォー(320歳)のようにこれぞドワーフって貫禄がなかったからだけど、実際ドワーフにとってはまだ若い130歳だからだった。


 「私共は幸運にも夫婦で選ばれましたが、まだ選ばれて間もない若輩者。お仕えするには頼りないかも知れませんが、どうか受け継がれるこの願いを叶えて頂けないでしょうか?」


 真剣な態度で夫婦が揃って跪き、フォーもまたずっと執事の礼をとったまま俺に願い出ている。


 (……まーた知らない事が出て来たよ。……でも、いつくるかもわからない中、継承するのって凄い事だよなぁ。コレ、断る理由は無いけど……)


 「あー……ともかく、俺には普通に接してくれたら嬉しい。それに既に[フィトンチッドの雫]に選ばれているって事は、万様に選ばれている事と同等だ。俺に異存は無いよ」


 俺の言葉にわあっ!っと二人から歓声の声が上がり、フォーがホッとした表情を見せる中、「但し!」と俺の言葉が続く。


 「受け入れるのは、今日は一人だけでいいか?今日は疲れているから早く休みたいんだ」


 正直言って、正式な機会を作って向き合わなきゃいけない人達だとは思う。けど、最近色々ありすぎてちょっと精神的に疲れてきたんだ。


 という訳で、とりあえず一人先に来て貰って、後の二人に教える事ができるようにすりゃいいんじゃね?と簡単に考えていた俺。


 そうなると、残りの二人の推薦もあってフォーの一択だったんだ。


 その後は通例通り俺がフォーの滞在許可を出し門を潜ったフォー。


 少し手が震えていたフォーが[光のドーム]に触れた途端、フォーの胸に下げていた[フィトンチッドの雫]の色が虹色に変化したんだ。


 「本体様にも認めて貰えたのですね……!」


 大丈夫とわかっていても、やっぱり不安だったんだろう。フォーの目から一筋涙が溢れ落ちていた。


 でもすかさず涙を拭いた後のフォーは、いつもの執事の顔に戻っていた。その上……


 「案内役に、ミニコロボックル様お願い致します」


 有無を言わさず出迎えたマリーを指名し、「まあ」と驚くマリーに「ご婦人と二人きりになるのは失礼でしょう、レインボーバード様もご一緒に」と言い、「さあ、参りましょう」と早速仕事を始めるフォー。


 ミニコロボックルもレインボーバードも知っているのは、流石としか言いようがない。


 後にマリーから聞いたら、ほぼ一回で全て屋敷の配置を覚え、一を言えば十理解する頭脳の持ち主だった為、とても楽だったらしい。


 そして部屋もきちんと割り当て、マリーはフォーも休むように言ったのだが、その後も屋敷内の動きを観察していたフォー。


 おそらく昨日の時点である程度理解したのか、フォーは既にここでもベテラン執事として働き出している。で、今ココ。


 「お食事は既に整っております。どちらにお持ちいたしますか?」


 「あ、じゃあここで食べたい、かな」


 「畏まりました。只今ご用意致します」


 スッと流れるような所作に惚れ惚れしながら、一般人の俺がこんな贅沢良いのかなぁ、と朝露入りレモネードを口に含む。


 「グウグッ!」


 フォーがルーフバルコニーから出て行った後、俺の真似してコップを斜めにしながらピチャピチャレモネードを舐めていたリーフが、何かに気づいたらしい。


 「ほっほっほ、リーフに気付かれてしもうたわい」


 ルーフバルコニーにゆっくり歩いてきたのは、起きたばかりなのか欠伸をしているガロ爺。


 「ガロ爺、おはよ。体調はどうだ?」

 

 「ここにいて体調が戻らないなんぞありえんの。まあ、強いて言えばその飲み物を儂も欲しいがのぅ」


 ヨッコラセと言ってガーデニングチェアに座るガロ爺は、昨日の戦いの姿を見ていなければ、本当に普通の長生き爺さんなんだけどさ。


 「フォーがコップ置いていったのって、ガロ爺が起きていたのわかってたんだろうな」


 俺がフォーの仕事振りに感心して、ガロ爺のコップにピッチャーからレモネードを注いでいると、ほっほっほと笑い出すガロ爺。

 

 「あやつは儂より勘がいいぞい。おそらく、儂やエランが万物の樹に鉱石やキングジャックリザードを預けたのもしっかり確認したじゃろうし」


 「あ、やっぱり昨日の内に二人共動いていたのか」


 「まあ、タクトは疲れておったからのぅ。儂らでやれる事はやっといただけじゃわい」


 「悪いな、気を使わせて。で、すぐ《胡桃マーケット》出たのか?何が出た?」


 今回の獲物が珍しかった為かなり期待している俺に、笑いながら教えてくれたのは……


 「万物の樹が今回は奮発すると言っておっての。今日の朝の分と一緒に出している筈じゃ」


 「え、マジ?うおお、気になる!ガロ爺、見に行こうぜ」


 すぐ動き出そうと腰を上げる俺に、ガロ爺は待ったをかけてゆっくりレモネードを口にする。


 「万物からその前にタクトに依頼を頼まれておる。それに……」


 ガロ爺が目線をやる方向をみると、キャスター付きトレイに朝食を積んだフォーが戻ってきていた。


 「まずは、腹ごしらえじゃ。それに、今か今かと待っているフォレストドワーフ達がウーグラフの屋敷で待機しておるじゃろうて。朝食を食べて、迎えに行ってからで良かろう」


 そういえば、人を待たせている事を思い出した俺。


 しっかりガロ爺の分も用意していたフォーが、優雅に給仕してくれる朝食を食べながら、今日の予定を頭で確認していたんだけどさ。


 人を喜ばせる万様が用意した物は、俺の予想を超えてきたんだよなぁ。

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