第26話 万様の依頼と嘆願書

  朝食を食べ終わった俺とガロ爺は、早速ウーグラフの応接室に残りの二人とピオールの家族を迎えに行ったんだけど……


 「すまん、タクト。街の役職の奴らが住民に問い詰められていてな……一度皆を送ったら、また戻ってきてくれないか?」


 応接室に入った途端、椅子に座って待っていたウーグラフに頼まれた俺。


 どうやら昨日から後処理に奔走して、ぐったりしていたウーグラフによると、今回の事件で俺が守り人である事が街中に知られてしまった為、住民達が俺に会わせて欲しいと騒ぎ出しているらしい。


 フォレストドワーフの各区域の住民長を始め、族長までがこの短時間でウーグラフに嘆願書を申請する程、街は盛り上がっているそうだ。


 「ただでさえ忙しい業務に加え、事後処理と更に嘆願書まで来るとは……!」


 段々愚痴に変わってきたウーグラフの話に、待機していたフォレストドワーフ達の間で苦笑いも起こっている。


 ピオールの奥さんのシーラさんもここに来るまで大変で、近所の人からも手紙を持たされてきたそうだ。


 「すまないねぇ。食堂の後処理の事で、街にも何回か戻らないと行けなくてね」


 「気持ちはわかるだけにねぇ」と困った表情で俺に相談するのは、女将さんのイメージがピッタリのシーラさん。


 その横で大人しく待っているのは、「お兄ちゃんまた会ったね」と元気に言う人間年齢でいうと10歳児ぐらいの息子のロウと、「初めまして!」ときちんと挨拶できる7歳児ぐらいの娘のミイちゃん。


 「タクト様。どうやらこの屋敷に仕えている執事やメイドからも嘆願書が上がってきているらしいのです」


 「私も昨日メイド仲間から手紙を預かって参りまして……」


 更にウーグラフの後ろに控える[フィトンチッドの雫]の継承者ヘゼルとティナも困った表情で、「みんなの気持ちはわかるんです」と二人共苦笑いをしている。


 (そうだった……!後処理、全部ウーグラフに投げっぱなしだったもんなぁ)


 昨日の俺の行動を反省するも、祭りあげられるのは困る。


 でも、考えてみれば街の人達の思いも当然だ。


 街を救ってくれた恩人の一人が従魔のリードミアキャットを連れている万物の樹の守り人とくれば、フォレストドワーフ達が会って感謝したいと言うのも理解できる。


 だけど、どうしても俺が全面に出て行くにはデメリットが大きい。


 この騒ぎによってこの街から万様の情報が流れたら、他種族の獣人達や人間達が騒ぎ出すのは目に見えているだけに、それは避けたい。


 (うーわー……これ、詰んでねぇ?)


 この騒動と後処理にずっと対応してきたウーグラフの心労を考えると、なんとかしてやりたいのは山々だけど……正直厳しい。


 考え込んでしまった俺の様子を見て、ほっほっほとガロ爺がいつもの調子で俺に話しかける。


 「タクトや。出来る事を一つずつ片付けていくのが、最善じゃて。ウーグラフよ、万物にタクトが頼まれている事もあるのでのぅ。それが終わってからでもいいかの?」


 「ああ、何よりも万物様を優先してくれ。こちらはそれからで良い」


 「儂も協力するからのぅ」と言うガロ爺の言葉に、少し肩の荷がおりたのかウーグラフがホッとした表情をする。


 (こう言う時、ガロ爺は心強いよなぁ……)


 俺もついでに少し気が楽になり、ガロ爺の言う通り一つずつ片付けていく事にしたんだ。


 そしてまずは5人の滞在許可を出して、ようやく5人を万様エリアに連れて行く事が出来たんだけど……


 「うわあ!おっきい!」


 「凄い!立派なんだね、万物の樹って!」


 応接室にある門を潜りぬけた途端、万様の姿を見て感動の叫び声をあげる純粋で素直な子供達。


 一方で、大人達は……


 「あなた……!」


 「ああ……‼︎ なんて雄大なお姿……!」


 ヘゼルとティナが喜びのあまり涙を流し抱き合っている横で、


 「伝承以上のお姿だね……‼︎」


 シーラもまた子供達を抱き寄せ、笑顔で涙を流していたんだ。


 そこに、リーフやレインやミニコロボックル達も歓迎に出てきたものだから、大人3人の涙は止まるどころか更に感動の叫びが加わる。


 「あー……やっぱりこうなったか……!」


 「まあ、ここに来た誰もが通る道っすよ」


 万様との初対面時には定番になった光景に、あ、やっぱりと慣れてきた俺。


 俺が微笑ましく見ている時に、ピオールとピオールの肩に乗って来たクーパーも丁度迎えに来たようだ。


 「タクト様、感動の時間の後の事は私にお任せ下さいませ。タクト様は、万物様を御優先なさいますようお願い致します」


 俺の隣に立つフォーに至っては、いつからいたのやら。


 スーパー執事のフォーに促され、「後は頼む」と一言告げた俺は、ガロ爺と共に屋敷に向かって歩き出したんだ。

 

 そして屋敷の三階につき、ルーフバルコニーの窓を開けて万様に声をかける俺。

 

 「万様ー、お待たせー。と言うか、朝伝えてくれてもよかったのに」


 そう言って万様に触ると、俺に万様から温かい感情が流れ込む。


 「そんな急ぎではないらしいのぅ。で、何を頼みたかったんじゃ?」


 「グウウ?」


 質問するガロ爺と、俺達が戻る姿を見て一緒に戻って来たリーフもまた首を傾げて万様をみあげている。


 すると、万様に触れていた俺の頭の中に、現在のステータス画面のスキルが点滅している映像が現れた。


 「どうやらスキルを確認して欲しいようじゃの」


 「あ、そういえば確認しなかったもんなぁ」


 レベル10になったか?と思いながらステータスを開き、スキルをタップすると……


  『スキルが一部開放されました。


 ー現在使用可能スキルー


 【エア】レベル11 発動は音声対応。


 ・クリエイトエア(ノーマル)/バブル  MP10 /MP2000(空気作成 : どんな場所でもタクトのみ呼吸可能(ノーマル)。バブルは、タクトから半径5mの泡形態の空気育成空間。海中、空中、灼熱のマグマにも耐久可能。但し、共に時間制限あり。現在2時間作成可能) 


 ・エアパウチ(ノーマル)/硬質化  MP10/MP2000(真空空間作成: 範囲指定有り。効果時間: 無限。解除デリート可能)


 ・エアフロート(ノーマル)/ファスト MP100/MP1000(空中を浮かぶ事が可能。最高時速10kmで上昇/下降/前進/後退可能。ファストは最高時速360km。スキル効果は共に一時間)


 ・エアジップトレース MP200(圧縮空気追跡弾。圧縮空気は1−100段階まで設定可能。100%は一発MP2000。着弾後解除され標的に衝撃を与える。着弾前に解除する場合は【アンジップ】を唱えると可能)


 ・エアフォーム[ヒート/コールド]MP250(10段階で熱気と冷気を標的に纏わせる。一回の効果は2時間 )


 【ポート】レベル11 発動は音声対応。スイッチワードで発現。


 ・ギア・メインポート  MP0 (万物の樹の秘密基地へ戻る扉召喚。現在常時入室可能 : タクト/リーフ/キース/レナ/エラン/マリー/レイン 。滞在許可証発行/ MP1,000)


 ・ギア・エアポート 初回限定MP100,000(万物の樹エリアに空港設置。レベル10で設置可能。設置後に詳細開示)←←←←Open

 

 ・ギア・エアポートガレージ 開放済み(ガレージ内の乗り物が使用可能。使用可能時間は2時間。現在使用可能:魔導乗用カート3人乗り)   』

 

 「おわっ!ちょっと見ない間にこんなに変わってたのかよ!」


 結構変わっている事に驚く俺に、ステータス画面を一緒に覗き込むガロ爺とリーフ。


 「グウウ、グ!」


 「ほれほれ、リーフも言っておるぞい。はよこれをやってみんかい」


 ガロ爺が笑いながら言う『これ』を指差すリーフ。俺も気になっていたものだっただけに、ハイハイと言いながら「【ギア・エアポート】」と唱えるとーーーー


 ズズズズズズズズズズズズ……!!!


 「おわっ!地震⁉︎」


 「タクト‼︎万物の樹に触っておれ!映像が見えるはずじゃ!」


 「グウッ⁉︎」


 ガロ爺に言われて万様に捕まると、頭の中に見えた外の映像。


 地面の振動と共に、光のゲートの外側に現れた数多くの木の根。


 それが形成されて行くと大きな建物に変わり、辺りを光で包んだ後にその場に設置されていたのは……


 「すげえ……‼︎ 異世界に万様空港出来ちゃったよ……!」


 見慣れた空港ターミナルビルと滑走路が出来ていたんだ。


 (アレ?でも飛行機は無いな……?つうか、ここじゃ飛行機だと意味ないよなぁ……)


 そんな事を考える俺の胸元のコンパスガイドが光り出し、青い画面が出現すると、更なる指示が表示されていた。


 『[万物の樹]空港ターミナルビルを設置しました。異空間国際線を開通可能です。


 異空間国際線開通候補:[ フォレストドワーフの街]

 開通条件: ギア・メインポートで開通候補地に赴き、建設予定地に虹色の種(異空間国際ターミナルビル)を植え【グロウアップ】を唱える。注意: 追加MP10,000 必要 』

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